霧に救われる

浮上する意識を感じ取って、あらがうことなくゆっくりと目を開けた。


あれ?ここどこだろう…。


見慣れない天井に、目をパチクリと瞬かせる。
ゆっくりと周りを見回していけば、隣の布団で眠る雲雀さん。なんで、雲雀さんが隣で寝てるの?


あ、でも、久しぶりにちゃんと寝たからすっきりしたかも。というか、やっぱりなんで雲雀さんが隣で眠ってるの?


ゆっくりと体を起き上がらせて、大きなあくびを一つ。もう一度部屋の中を見回せば、そこが、雲雀さんの部屋だということがわかった。
お布団で寝たのって久しぶりだな…。なんて考えていたら、いきなり隣から声がかかる。


「やあ。よく眠れたみたいだね」


[おはよう?]


「今はもう昼だよ」


ずいぶんと眠ってしまったみたいで…。
そんなにも眠ってしまった自分に呆れつつ、どうしてあんなにも急に眠くなったのかと思いいたった。それは、きっと目の前の彼が何かしたからで。


[なにしたの]


「少し、睡眠薬を淹れただけだよ」


お茶にね。そういってあくびを一つこぼした。
薬を盛られていたのか…。というか、だけって!だけじゃないでしょ!
おかげで、夢を見ることなく眠れたんだけど…。


「今度夢を見たら、僕のとこにおいでよ」


[よなかにいったら、おこるのに?]


「僕を起こさなければいいだけでしょ?」


それができたら苦労しない気がします…。お父さんが、前に雲雀さんは葉っぱが落ちる音でも起きるって聞いたことがあるって言ってたもん。そんなの、無理でしょ!私は忍者じゃないもん!


「まあ、いいや。僕はこれから任務だから」


[おせわになりました]


ペコリと頭を下げて部屋を出る。さてと、どこにいこうかな。とりあえず、昨日と同じ服な訳だし、部屋で着替えて来よう!
そう決めて、とにかく自分の部屋へと向かった。


それにしても、久しぶりにちゃんと寝たから、すごい体が軽い。眩暈もしない。睡眠は大切なんだね。17歳のときなら、数時間寝たら一応ちゃんと生活できてたんだけどな…。やっぱり子供だときついのか。


まさか、雲雀さんに慰められるとは思わなかった。


でも、今度からは雲雀さんに何かをもらうときは、ちゃんと確認してから食べよう。もう薬をもられるなんて嫌だ。


首にかけているネックレスを触る。冷たい石の感覚が指に伝わる。最近、このしぐさがくせになってしまってるみたい。


リボーンに、会いたいな…。


「紫杏…」


名前を呼ばれて、振り返ったら、そこにはクロームさんがいた。スーツ姿のクロームさん。下にはいている黒いスカートからは白い足がのぞいていた。


「…ひさしぶり」


ぺこりと頭を下げる。クロームさんは、私の前に来ると膝をついて目線があうようにした。それによって、随分と首が楽になる。


「何してるの?」


[なにしようか、かんがえてた]


「…じゃあ行こう」


そういって、クロームさんは私の手を引いてどこかへと歩き出した。どこに連れていかれるんだろう?と思いながら、片手にスケッチブックとペンを持って、もう片手はクロームさんに手を引かれ、歩いている。


ついた場所は、骸の部屋だった。そこに、ノックもせずに堂々と入っていく。


「あっ!今までどこいってたんら!」


「…入って」


中にいた金髪の男性の言葉を無視して、入口前で立ち止まっていた私を中へと入れた。そのことによって、中にいた人たちの目にさらされることになった。


中にいたのは、ニット帽をかぶり、眼鏡をかけた男性と、金髪に鼻上に一文字の傷がある男性。


なんというか、不良っぽい…。この人たちと、クロームさんが知り合いって言うのが想像つかない…。


「…誰」


「紫杏。骸様のお気に入り。ボスと麻依の娘」


「ああ?あいつら、いつの間に子供産んだんら?」


「…馬鹿。養子だって話しは有名だ」


きっちりスーツを着こなしてはいるものの、金髪の人はやっぱり不良っぽい。じーっとこっちを見てくる彼からなんとか逃れたくて、クロームさんの後ろに少し近寄った。


「で?なんでこいつがここにいるんら」


「私が連れてきた」


「だーかーらー!なんでつれてきたんらって聞いてるんらぴょん!」


「……暇そうだったから。それに、骸様も喜ぶと思って」


静かに言い返すクロームさんを見上げる。めがねの男性は、二人の様子をみて溜息をこぼしていた。


「犬。…うるさい」


「うるへー!」


クロームさんの服の裾を引っ張って、こっちに視線を向けさせる。


[なまえ]


「犬と、千種」


「あ?」


「名前聞かれただけ」


やっぱり静かに言うクロームさんに、何かが切れたのか、犬さんは思いっきり怒鳴っている。


「…おやおや。これは珍しいお客さんですね」


柔らかな声音に振り返れば、スーツをきている骸が後ろにいた。吃驚した。気配がなかったよ!


[ひさしぶり]


「お久しぶりです。紫杏。クロームもよく来ましたね」


「骸様」


骸と、クロームさんが横に並んだ。なんというか、ものすっごい美形カップル…。並んでいるだけで絵になるってこういうことを言うんだと思わず感嘆してしまった。


「それで?紫杏はどうしてここにいるんです?」


[くろーむさんがつれてきてくれた]


「他に誰か一緒ではなかったのですか?」


「?…[さいきんは、いつもひとり]」


そう、書いて答えれば、その言葉が興味深いものであるかのように、じっと凝視する骸。変なことかいたかな??


顎に手を当て、何かを考える骸を、犬さんと千種さんとクロームさんが不思議そうに見つめる。


「骸様?」


「…いえ。なんでもありません。それより、せっかくですからお茶でもしますか」


「では、用意します」


「ええ。お願いしますよ。千種」


千種さんは、占めていたネクタイをゆるめながらキッチンの方へと向かっていった。というか、何かあったから皆集まってたんじゃないのかな?私がいたら邪魔なんじゃないかな?


[かえる]


「おや、何か予定でも?」


首を横に振る。予定はないけど、仕事とかじゃないのかなーっておもった。というか、普通、子供に予定があるって考えるのは変だと思う。


「心配はいりませんよ。クロームが連れてきたんですから」


察したのか、骸はそういって、私をソファーに座らせると、千種さんが紅茶とケーキを出してくれた。久しぶりにおやつ食べる!!


[ありがと]


そう、書いたら、頭をポンポンと撫でられた。


うん。千種さんは優しい人だ。


「麻依が、貴女に会いたがっていましたよ」


隣に腰かけた骸を見上げる。赤と青の瞳がわずかに細められた。優しさをまとっているその瞳。それはきっと、周りにいるのが彼らだからなんだろうと思った。


「大方、病院生活に飽きてきたのでしょう。綱吉が苦労していましたね」


[おとうさん、げんき?」


「自分の父親なのに、そんなのもしんねえのか?ひゃー、ばっかだなあ、お前」


犬さんが私の方を指さして、げらげらと笑う。それに、千種さんはわずかに顔を歪めた。


「犬。そんな言い方、ダメ」


「うるへー!お前は黙ってろ!」


「ハア、めんどい」


この人たちは、どんな関係なんだろう?さっきも考えたことが、また頭の中に浮かんだ。


「では、あとでクロームに麻依のところにつれていってもらってはどうですか?そのときに、会えるかもしれませんよ」


骸の提案に、まっさきに反応したのはクロームさんだった。


「骸様。いいんですか?」


「ええ。クロームも会いたがっていたでしょう」


「はいっ!」


[いかない]


そう書いて、見せれば、骸は少し驚いたように、おや、と呟いた。


「なぜ?」


[おかあさんは、わたしのせいでけがをした。おとうさんは、わたしのこときらいになった」


「なんでそんなことがいえるんら?」


クロームさんの問いに答えれば、今度は犬さんが聞いてきた。なんで、犬さんの話し方って、少し舌ったらずなんだろう?


なんでって、と、視線を宙に漂わせる。


誘拐された時の、お父さんの瞳が忘れられない。冷たい、青い炎。家族の壊れていく音を、確かに聞いた気がした。
いや、壊れるんじゃない。初めから、家族なんかじゃなかった。家族になんてなれなかったんだ。でも、そんなこと言えるはずもなく、なんとなく、と適当な言葉で返した。


家族なんて、私にはなれなかったんだろう。もし、私が誘拐されなかったら、そのときお母さんまで誘拐されなかったら、今も笑っているんだろうか?


「クローム、午後から予定は?」


「ありません」


「では、紫杏をつれて病院へ行ってください」


「はい。骸様」


なんで!?いま、私行かないっていったばっかなのに!?


私の目の前には、ものすごく、良い笑みを浮かべた骸とクロームさんがいました。






(おや、そんなにいけて嬉しいですか)
(なんら、はずかしかっただけかよ。素直になった方がいいぴょん!)
(………犬、分かってないだろ)
(クフフ、ほら、紫杏食べなくていいんですか?)


((絶対に、骸、楽しんでるでしょ!?食べますとも。食べますけどね!))


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