ツナと麻依が出て行ってから、麻依が淹れてくれたエスプレッソを飲む。部屋には、子供の寝息だけが音を出していた。 ツナは超直感がこの子供と会わせたと言っていた。だったら、きっとまた何かがあるんだろう。 俺の横で眠っている女の子を見る。黒髪に、薄汚れたTシャツを着ているだけという格好。閉ざされた瞳は薄く塗れている。顔立ちから言っても、長い黒髪から言っても日本人だろう。 「真っ白だな。何にも、染まっちゃいねえ…」 目の前にはこれから染まっていく子供が安心しきっているのか、相当疲れていたのかぐっすり眠り込んでいる。 別に、ここに置くことに俺は反対なわけじゃねえ。ただ、そのこいつを追っていたマフィアってのが気になる。 子供は身をよじらせて寝返りをうった。その拍子に、腕がソファーから落ちて垂れ下がる状態になった。 子供はぐっすり眠っている。なんとなく、ソファーから垂れ下がた手を持ちあげる。 「小っせえ手だな…」 自分の手の中に収まってしまう小さな手。その手は少し泥で汚れてしまっているが、純粋な手だ。 その手をタオルケットの中へ。 しかし、手が離れない。 見たら、小さな手で俺の指をつかんでいた。少し汚れている手は、本当に眠っているのかと思うほど力強く掴んでいて離そうとしない。 振り払うことはできる。でも、そうしなかったのは俺の指を握っているその小さな手が少し震えていたからかもしれない。 「…俺に触れても、いいことなんてねえぞ。百害あって一利なしだ。…お前の手まで赤く染まっちまう」 聞こえていないとわかっていながらも呟いた。しかし、子供は離そうとはしない。俺の真っ赤に染まった手を。まるで離してしまえば二度と帰ってこないもののように、それとも、何かにすがるように、か。 だからかもしれない。俺はこの小さな手を振り払うことなんてできなかった。 *** 真っ暗な中、私は必死に走っていた。何かに手を伸ばして、でも引き込まれそうになってそれが怖くて伸ばしていた手を引っ込めて。それを繰り返していた。 独りということが怖かった。 知らない人、知らない場所。私は独り。 後ろを振り返ればあの、黒い男2人が追いかけてきていた。 逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。嫌だっ! そのとき、ふっと私の手が誰かにつかまれる温かさを感じた。その手は私を導くように引っ張って行ってくれる。その手はぐいぐい引っ張っていくように感じた。 でも、掴まれている力はとても弱い。振り払えばそのまま一人で走って行ってしまいそうだった。 この手を離しちゃダメだ。 そう思って、私はその手をぎゅっと握り返した。真っ暗な中で男たちはまだ追いかけてくる。 でも、この手は安心できた。この手に任せておけば大丈夫だという安心感があった。私を守ってくれる。 だから、置いて行かれないように、この手に見捨てられてしまわないようにギュッと握った。 声はでないけど…。 置いていかないでという気持ちを込めて――― |