ワ・レ・モ・ト・ム

ネオンが灯り始めた街を走り抜ける車の中で、ボルサリーノを深くかぶり、これから起こる戦闘の空気に高騰する気持ちを抑え込む。


「作戦は分かってるね?雲雀さんは裏から好きに」


ツナの指示が飛ぶ。車内で繰り出される指示をしり目に、俺は窓の外へと視線を外した。
麻依の居場所、か。
気づいている事実に静かに目を伏せる。
それが、今は最善だと判断しているからだ。


今回の件は、俺の過失でもある。ボンゴレ全体の過失でもあるが。
奥歯をかみしめる。つまらない感情に左右されるな。感情で物を考えれば命取りになる。


「隼人と山本、リボーン、俺は正面から」


その言葉に、静かに目を開ける。ツナを見れば、傍から見ても分かるほどの怒りと闘志を瞳に宿していた。オレンジの温かい炎なんかじゃねえ。あれは、青く、冷たい炎。


日が沈んだ。月が灯りを燈(とも)す。闇にまぎれて黒い車は、一つの屋敷の前で止められた。
懐から愛銃を取り出す。


静かな夜だ。屋敷を見れば、全ての階に灯りがともされている。中庭に息をひそめている気配を感じる。かなりの数だな。俺達がせめてくるってことを知っていたかのように。


それぞれがそれぞれの配置についたのを確認してから、一斉に襲撃命令が下された。
俺達は闇を背負いながらも、火花を吹く。





***

屋敷の中には、見事にアボロッティオファミリーの奴らしかいなかった。この屋敷に使えているはずのメイドや執事たちは見当たらない。
まあ、そっちの方は骸が詮索をしているはずだ。


先に掴んだ情報によると、この屋敷の主の娘は、アボロッティオファミリーによって拉致されているらしい。それで仕方なく、場所の提供。メイドたちはどこかに逃がされたか、なんかしたんだろうな。
娘の方は骸が助け出す手はずになっている。あとは、雲雀がここの主を見つけて噛み殺さなければいいがな。


敵を倒していくと、パーティーをした広間へとたどり着いた。嫌にシン、と静まり返っている広間は不気味以外のなにものでもねーな。
パーティーのときの見る影もなくなっている広間を横切るようにして進む。


ボスであるツナを守るように、下っ端が3人ツナの周りを固め、前に獄寺が。後ろに山本がついている。
中央まで足を進めた時、突如、殺気があたりを包んだ。ピタッと足を止めれば、四方にあった扉が開かれて、そこから敵がなだれ込んでくる。


7人相手に、100、否それ以上か…。


「随分と用心されたものだな」


少人数相手に大人数では、人数的にいえば大人数の方が優勢だろうが、力的に見ればこちらの方が優勢だ。それに、こんな場所で大人数でいれば、味方の流れ弾に当たる可能性の方が高いしな。


獄寺が、先陣を切って、ダイナマイトを投げていく。匣兵器をどちらも出しての大乱闘となった。


あちこちで発砲音や、うめき声叫び声が聞こえてくる。


ツナが、死ぬ気モードになって相手もろとも壁を破壊していた。崩れた壁からは、裏にあっただろういろいろな管があって、その一つから水が流れ出ていた。


「おい、屋敷をつぶすなよ」


「うるさい」


ツナの後ろに迫る敵にむかって発砲する。どれだけ、殺したかもう分からなかった。スーツは火薬のにおいをかぶり、辺りには鉄の匂いが広がっていた。山本も獄寺も、多すぎる敵の数に息が上がってきている。ツナの周りを固めていたはずの部下は、いつのまにか死んでいた。


まだ、ぞろぞろと出てくる敵に、いい加減うっとうしくなってくる。


そんなときだった。


この場所には、異質な音だった。澄んだ鐘の音のようで、どこか、別世界を思わせる音が鳴り響く。


それは、リズムを変えて広場全体いや、屋敷全体に鳴り響いていた。その突然の音に、敵も俺達も動きを止める。
その光景は異様だった。今まで、殺し合っていた者たちが、一つの音によってまるでビデオの停止ボタンを押したかのように動きを止めたのだ。


相手も動きをとめているということは、こいつらも、しらない音だということだ。


まるで不規則になるそれは、何度も何度もならされる。音の場所を耳でたどれば、それは先ほどツナが壊した場所から流れているみたいだった。


「動きを止めるなー!」


誰かがそう叫ぶと同時に、敵は我に返ったかのように動き出した。再び襲ってくる奴らからかいくぐりながら、音の方へと向かう。


「獄寺、援護しろ」


「はい!」


傍にいた獄寺を後ろに、俺はそこの管を調べた。音は、一つのパイプが揺れる振動によって、鉄にぶつかっていたからなっていたみたいだった。


そのパイプの行く先をたどれば、この部屋から隣の部屋へと移動している。隣の部屋は確か謎な空間だったな。


「……モールス信号か」


「?リボーンさん?」


「……O、U、N、D、S、O、S、W」


SOS。助けを求めている。麻依はモールス信号は使えなかったはずだ。だったら、きっとこれは紫杏だ。紫杏が助けを求めるために、必死になっている。


「WOUND…。外傷、傷、怪我…負傷している」


叩けるってことは、紫杏は無事なはずだ。なら…負傷しているのは麻依、か。
この管の先に、あいつがいる。


隣に続いている、管。隣は謎な空間…。


むき出しになっているコンクリートを数回たたいてみる。叩くことによってでる音は、かなり響いていた。


「獄寺。この壁を壊せ」


「え?」


「速くしろ!」


「はい!」


ダイナマイトを盗りだした獄寺は、それを壁に向かって投げた。ものすごい破壊音とともに、ガラガラと瓦礫の崩れる音。捲き上がる煙。煙が晴れた向こうには、“空間”があった。


「なっ、なんすか、これ…」


「図面上にあった、空間だ」


そこは、何かの実験室だったのだろう。たくさんの機材やホルマリン漬けにされている「何か」がある。


「これは…」


後ろで、ツナが息をのむ声が聞こえた。後ろから襲いかかってきた敵に向かって発砲する。


「ツナ。きっと、他のこういう場所に麻依はいるぞ」


「まさかっ!」


「お前はさっさといきやがれ。ここはこいつらで十分だぞ。麻依は…、負傷してる」


「なっ!」


「紫杏が助けを求めてるんだぞ」


あえて、紫杏の名前を出す。
ツナは一度俺を見てからすぐに目をそらし、炎の推進力をつかって、いっきにこの部屋から出ていった。


未だに鳴りやまないSOSの信号を耳にしながら、俺は引き金をひいた。


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あきゅろす。
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