しばらく歩いているうちに、その振動に揺られてか腕の中の女の子は眠ってしまった。 その姿を見て、オレも子供ほしいなあなんて思いつつ、そんなことをいきなり言えば麻依はコーヒーを吹き出してしまうだろう。 まあ、とりあえずは部屋で怒って待っているであろう愛しい妻になんて説明するか、だ。 自分でもよくわかっていないわけで、ただ連れて帰れと超直感が告げていたから連れて帰ったけど、よく考えたら家族いるんじゃない?ってなるわけで、そうなったらオレはただの幼児誘拐になってしまう…。 まあ、そのときはボンゴレの権力で何とかしよう。 …オレもずいぶん黒くなったなあ。 染まってしまったのはもう落とせないだろうけど、それでも、今はそこまで気にしなくなった。人を殺すことに対してはまだ抵抗があるけどね。 帰りは、普通に玄関から入る。そっと中をのぞいても誰もいなくてなんとなく息をつく。別に悪いことをしているわけでもないけど…。って書類から逃げたから悪いことにはかわりないか。 再び苦笑して、怒られるとわかっていながらも執務室に向かう。 普通に扉を開けばそこにはやっぱり、怒って腰に手を当て仁王立ちしている麻依を見て、やっぱり怖いなあと思ってドアを閉めようとすれば、後ろからかたい感触が。 「…忠告したはずだぞ」 「は、早かったんだね。リボーン」 後ろからオレの後頭部に銃を押しつける相手はもちろん決まっていて、振り向かずともわかった。しかも、完全に気配がなかった! 「当り前だぞ。俺を誰だと思ってるんだ」 「…ソウデスネ」 「綱吉!なんで逃げたりするの!?ほら、見てよ!まだこんなにもあるじゃない!私が最初に来た時から全然進んでないんだけど!!」 「麻依、落ち着いて。ちょっと、いろいろあって…」 「いろいろってのは、ガキを作ることか?」 「は?違うから」 「じゃあ、その手の中のガキはなんだ」 「ああ、この子?拾ったんだよ」 「…一回、逝っとくか?」 「せめて、理由を聞くとかしようよ。リボーン」 再び押しあてられる拳銃に女の子を抱えていない左手で降参のポーズをとって中に入る。 「麻依、この子寝かせてあげて」 「…綱吉の子?」 「麻依って、子供産んだっけ?」 「産んでないけど…。ほかの人…とか」 「…オレって、信用されてないなあ」 ちょっと落胆して見せれば、まだ口を尖らせたまま腕の中の子供をソファーに移してタオルケットをかけてくれた。 「で?お前の言う『理由』ってなんだ?下らねえことだったら頭に風穴開けるぞ」 寝ている女の子のそばに腰かけたリボーンは足を組んで、麻依が入れたエスプレッソを飲んでいる。 「理由というか…、この子に会わなきゃいけないって思ったんだよ」 「超直感か…」 「そ。でも、だからってなんでかはわからないし、この子がどこの子かすらも分からない。けど、追いかけられてはいたみたいだ。だから連れてきた」 「綱吉、追いかけられていたって?」 「それが、オレにもよくわからなくて。とにかく、この子をそこに置いといたらいけない。って思ったから連れてきた。これで、オレの子じゃないって信じてくれる?」 「…うん」 微妙な間はとりあえず置いておくとしよう。 「見たところ、まだ5歳ぐれえじゃねえか」 「うん。でも、家族はいないよ」 「…それも超直感か」 「…超直感ってなんでもありだね」 「ん?麻依、なんか言った?」 「イエ…」 オレの隣に座る麻依の方を向いて黒笑を向ければまた目線を逸らされた。 「で、連れてきたはいいとしてこいつどうするんだ?」 「え、住まわせようかと思って」 「一回、逝け」 「何?オレを殺せるとでも?」 「当り前だぞ」 「もう!2人とも喧嘩しない!」 麻依の、この声により一触即発の雰囲気はどこかに消え去った。まさに、鶴の一声。 「リボーン、この子を追っていたのはマフィアだ。そして、この子は一般人だよ。そんな子を今放り出したらどうなるかわかるだろ?」 「慈善活動でも始めやがったのか?」 「そんなんじゃ―――」 「こいつ一人を救ったところで、世界に孤児はたくさんいるんだぞ」 「そんなの、わかってる…」 夜のような黒曜石の瞳が鋭くオレを射抜く。この瞳は、試しているんだ。オレを。オレの覚悟を。 「でも、今までたくさんの傷ついている子を見て見ぬふりした…。仕方ないって諦めて…」 路地を通るたびに、飢えに苦しむ人々がいた。そんな人たちを無視して進んでいかなければいけない。中途半端な情では彼らすべてを救えることなんてないから。 そんなお金もない。 そんなのできるわけがない。でも…。 「でも、この子は、孤児じゃない!この子は、一般の子供だ。それにマフィアに何かの理由があって狙われている!」 「厄介事を背負い込むだけかもしれねえぞ。ボンゴレにとって不利になるかもしれねえ。戦えねえ奴をここに置いておくか?お前が、守りきれると?本気で言ってるのか?」 「ああ、そうだ。オレは、守るよ。たとえば、この子のせいで厄介事が舞い込んできたとしても…」 そうだ。オレはもう昔のようなダメツナじゃない。今は、守れる力を持っている。すべてを、オレは…。 「その厄介事のせいで麻依に危害が加わったとしても、そのときに、こいつが邪魔にならないと言えるか?」 「―――…っ!」 “麻依に、危害が加わったら” そんなの…。どうだろう。オレは、この子が持ち込んできた物事で麻依がどうにかなったら途中で背負った重荷をおろしてしまうんじゃないだろうか。 「大事なものは少ないに限るぞ」 麻依の方を見れば、心配そうにオレを見つめていた。オレが見つめ返すと、安心させるようにオレに笑いかけてくれる。 居心地がいい、この空間。 でも、やっぱり、大事なものが少ない方がいいというのはおかしい。リボーン、それは違うんだよ。 「麻依、オレの選択で麻依に危害が加わったらごめんね」 「綱吉の選択だもん。大丈夫だよ。絶対、大丈夫」 優しく微笑む彼女に、オレも笑みを返す。大丈夫。麻依も、ボンゴレも、この女の子も。みんな、守る。 「リボーン。大事なものがあるから、守るものがあるから、オレは強くいられるんだ。だから、大丈夫だよ」 「フッ。言うようになったじゃねえか。まあ、半分は麻依のおかげだな」 「じゃあ、守護者集めてくる。リボーンはこの子見てて」 「あ!じゃあ私も行く!」 オレと麻依はリボーンと女の子を残して守護者がいるであろう談話室に向かった。 |