「ツナ、任務をくれ」 「……どうしたの?急に」 それは、この間のパーティーがあった次の日のことだった。めずらしく、執務室に現れたリボーンは、帽子を目深にかぶったまま、入ってきていきなりそう言った。 「別に。ただ、もういいだろう。アイツは、ここに十分慣れた」 壁によりかかり、そういうリボーンはどこか、哀愁を漂わせている。何かあったの、なんて聞けなかった。理由は十分すぎるほど分かるから。 「…そう。でも、しばらくはランクをすこし落とすよ」 「必要ねえ。これくらいで腕が落ちたりしねえからな」 「でも…」 「必要ねえ。それ以上言うと撃つぞ」 カチャ、とオレに銃を向けるリボーンに苦笑する。とりあえず、余っていた任務の詳細が書いてある書類を差し出す。 「わかった。それにしても、どうして急に?」 「昨日で分かった。いや、思いだした。ただそれだけだ」 書類を受け取ったリボーンは、そのままここで書類にさっと目を通し始める。思いだした、か。 「リボーン、太陽の光に温まることは悪いことじゃないよ」 「……なんの話だ」 書類から目を離し、オレの方を見てくるリボーンに、言葉ではなく笑みを返す。リボーンが任務に行くとすると、紫杏が寂しがるなと思った。きっと、そういう紫杏の感情にこいつは気付いていない。紫杏に近づかないことが、彼女のためだと思っているんだろう。 「チッ、行ってくる」 「うん。気をつけてね」 出て行ったリボーンを見送る。リボーンは、自ら闇をかぶりに行った。何かがあったかなんて明白だ。それでも、追及はしない。それをされたくないと望んでいるのも分かっている。 あいつはもともとが闇の中で生きてきた。だからこそ、紫杏の傍にいることはいいことだと思った。最近は優しい表情をするようになったし。 まるで、闇とは麻薬のようなものなんだろうな…。 *** 医療班の人に手当を受けた頬にはシップが貼られている。他は軽い擦り傷とかだったから、大したことはなかった。 そして今、私は屋敷内を歩き回っている。理由は、リボーンの部屋にいったらリボーンがいなくなっていたから。 どこに行ったのかな―?なんて思いつつ、行きそうな場所を適当に歩いていく。談話室、食堂、救護室、他の守護者のとこ、でも、どこにもいなくて、あと思い当るのはお父さんがいる執務室だけだった。 ということで、執務室へ向かう。 執務室の扉をノックすれば、中から、お母さんの返事が聞こえて、私は、取っ手をつかんで重い扉を押す。 「ねえ、綱吉。君、自分が何をしようとしたのかちゃんと分かってる?」 「ひ、雲雀さん…。わかってますって。わかってます。あんなこと、もうしませんから」 「まったく。僕たちも舐められたものだね。あんな奴らにいいようにされるなんて。第一、あれじゃあ、あいつらの思いどおりじゃないか。それが一番気にくわない」 「ハハハ……」 「そうじゃなかったら、君なんてどうなってもいいものを」 「……(仮にも俺、ボスなんだけど…)」 「そんなに死にたいなら僕が殺してあげる」 「おや、これはおもしろそうなことをしていますね」 目の前で繰り広げられたのは、ひどく不機嫌そうな雲雀さんと、そんな雲雀さんに詰め寄られてたじたじのお父さんだった。 そして、私の後ろで開いたドアから骸が入ってきた。 目の前で繰り広げられる言い合いに、骸は含み笑いを浮かべながら、自然な流れで入っていった。 私は、この光景に首を傾げる。 「紫杏ちゃん。どうしたの?」 [りぼーん、さがしにきた] 「リボーン君?」 [おとうさん、どうしたの?] 「この間のことをね、雲雀さんが怒っちゃって・・・。まあ、私も許してはないんだけどね・・・」 このあいだのこと?というか、お母さん、まだ許してなかったんだ・・・。 「紫杏、おいで」 お父さんに呼ばれて、お父さんの方へ向かう。近寄って首を傾げると、抱き上げられて、お父さんの膝の上に座る形になる。 くるっと回転させられて骸たちに向き合う形にさせられた。 「紫杏!助けて!」 え、何!? 突然のことにお父さんを振り返り、雲雀さんたちを見上げ、戸惑いつつも、お父さんに助けを求められたことは分かった。 というか、え?戦うの!? とりあえず守らなきゃということらしいので、骸たちに向かってファインティングポーズをとってみた。 勝てる気なんてしないけど! それをみた瞬間、私以外のここにいた全員が吹き出した。 あの、骸と雲雀さんでさえも肩を震わせている。喉の奥を震わせて、必死に笑いを堪えている目の前の二人に私はまた頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、お母さんを見れば、お母さんも笑っている。首をひねってお父さんを見上げれば、こちらも同じように肩を震わせていた。 なんで、皆して笑うの!?私、そんなに、面白いことしてないと思うんだけど…。 「ククク…ッ、紫杏、本当に、かわいい」 まだ、笑いながらいうお父さんに首を傾げれば、頭をポンポンとなでられた。 「ありがとう。紫杏」 笑われるようなこと、私したかなあ? 「あ、そうそう。紫杏何かあったんじゃないの?」 あ、そうだった。 [りぼーん、さがしにきた] さっき、お母さんに見せたのと同じページを見せる。すると、お父さんは少しだけ目を伏せた。 「紫杏、リボーンは任務に行ってしまったんだ」 「へえ、赤ん坊、とうとう復帰したのかい?」 「ええ、まあ・・・」 苦笑いしたお父さんを見て、雲雀さんは何を思ったのか、私の方をじっと見てきた。その視線に、意味がわからなくて首を傾げると、雲雀さんは、フッと笑う。 骸さんもおもしろそうに口元を歪めている。 「へえ。それは、面白いことを聞いたね。しょうがないから、今日はこれくらいにしといてあげる。あ、でも、次同じようなことをやるんだったら、ボスだろうとなんだろうと噛み殺すよ。第一、僕は君をボスだと認めたわけじゃない」 「き、肝に銘じておきます…」 雲雀さんは、お父さんの返事に無言で返すと、そのまま部屋を出て行ってしまった。 「はあ・・・、雲雀さんの噛み殺すには、トラウマがあるからなあ・・・」 [なにがあったの?] 「それは、聞かないで。紫杏・・・」 「クフフ…、彼は変わりませんからねえ」 「……お前も人のこと言えないからな」 どこか、遠い目をするお父さんに、聞いてはいけないのか、と思って少しだけ想像する。でも、昔の雲雀さんってどんな人だったんだろ?あまり変わってないのかな? それよりもリボーンだ。任務って、マフィアのお仕事だよね。私がなれてくるまで世話係って話だったんだっけ。 [いつ、かえってくる?] 「うーん…、いつになるかな?」 [ながいの?] 「紫杏は、リボーンに傍にいてほしい?」 コクンと一つ頷く。だって、リボーンの傍は落ち着く。お父さんとお母さんは仕事だし、邪魔できないし…。ああ、でも、もうリボーンのところに行くことも出来なくなるのか。 そう考えたら、なんだか、胸の奥が痛んだ気がした。 その胸に、首をかしげる。 「紫杏?どうかした?」 お父さんの呼びかけに、ハッとなって、私は首をよこに振った。それから、膝の上から降りてドアの方に駆け寄る。ドアを出る前に、一礼してから部屋を出た。 でも、これから暇だなあ。暇なときは、リボーンといると楽しかったのに。レオンがいろいろなものに変わってくれたりするから、楽しかったし。 とりあえず、庭にでも行ってみようかな。 |