大空が啼く

突然、場内の電気が落とされた。こんなこと、聞いていない。確かに、これからイベントがあると言っていたけど、電気が落とされることはないはずだ。


オレは、警戒を強めた。


「綱吉…」


後ろで、麻依の不安そうな声が聞こえる。俺は、大丈夫だというように、彼女の頭をなでた。暗闇に慣れてきた目では、人の影がぼんやりと見える。


「隼人。麻依を頼むよ」


「はい。十代目」


リボーンは懐へと手を伸ばすのが見えた。オレも、いつでも、動けるような体制をとる。すると、ふと、上に赤い点がついた。ゆらゆらと揺れるそれは、シャンデリアと天井の間をさまよい、ある一点に狙いをつけると、動かなくなった。次の瞬間、そのシャンデリアが堕ちた。


それとほぼ同時に電気が回復し、辺りを照らしだす。ちょうど人のいなかった中央に、無残な姿のシャンデリアが落ちていた。


パン!渇いた音に、オレ達は、一度しゃがみこむ。一般客もしゃがんでいた。
オレは、無線機を使って、全員に連絡をとる。


「状況は」


《こっちからは何も見えないよ》


《僕の方からも見えませんね…》


《ボンゴレ。オレの方に、銃を隠し持っていると思われる者が2人います。客にまぎれているので、顔はよく見えません》


《こっちにも、2人いるぞ。あ、扉を開けたぞ?何をやってるんだ。あいつら》


扉を開け始めた?
お兄さんからの状況を聞いて、リボーンと顔を見合わせた。いったい何がしたいんだ。これは、御令嬢を狙った犯行じゃないのか?だったら、こんな派手なことはしなくていいはずだ。


「きゃー!!」


誰かが、叫び声をあげた。そして、その叫び声に我に返ったかのように、どんどん叫びながら立ち上がり、ドアへと押し掛けて行く。


「山本。御令嬢は」


《ああ、今SPも一緒に傍にいる》


「じゃあ、この混乱に乗じて、安全な場所へ」


《了解》


山本の返事をきいてから、注意深く辺りを見回す。人でごった返しになっている中、敵を確認することはできない。


《あ、おい、今誰か紫杏と一緒か?》


「山本?」


《いや、一緒ならいいんだけどよ…》


「どういうこと?イリーシャと一緒でしょ?」


《いや…、それが…っ!!おい!伏せろ!》


キーンという音がして、山本の息をのむ音が聞こえる。

相変わらずの人の多さに、何が起こっているのかわからない。


《わり、ツナ。敵だ!》


「わかった、任務に専念して」


《了解。こっちこいっ!》


山本の切羽詰まった声と、女性の短い叫び声が聞こえた。


立ち上がって、周りを見る。唯一、開けているシャンデリアの場所へと足を進めた。隼人にはその場で待機という視線を送って。


大きなシャンデリアが視界に一杯に入ってくる。耳を澄ませば、大勢の足音が外へと向かっていた。


「全員中央に集合」


《Si》


御令嬢の暗殺者も来た。でも、これを落とした奴はきっと違うやつだ。じゃあ、何が目的で?マフィア関係なら、厄介だな…。それに、紫杏もいる。ここでの抗争は避けたい。御令嬢に関しては山本だけで大丈夫だろうけど…。


次第に人はいなくなった。残っているのは、オレの後ろに控えている守護者に麻依だけだ。でも、人の気配はする。
シン、と静まりかえる会場。きれいに盛りつけられていた料理は床に落とされ、白かったテーブルクロスは踏みにじられている。グラスもたくさん割れていて、歩くたびに、パキパキという音を立てた。


パチン、という指をならす音が聞こえると同時に、オレ達の周りを黒い影が取り囲む。しかし、オレ達だって気づいていないわけじゃ無かった。だから、誰も動じない。


「なんの用だ」


黒いスーツをまとったこいつらの胸元には、鷲(わし)をかたどった模様がつけられていた。


「アボロッティオファミリーか」


呟くと同時に、守護者たちが武器を構えた。オレも、懐から銃を取り出す。殺気が満ちる中、カツン、カツン、とその場に似つかわしくないようなゆったりとした足音が近づいてきた。その足音は、シャンデリアの向こう側からで、よく見えない。
足音はシャンデリアを回り込み、オレ達の前に姿を現した。


「なっ!紫杏!?」


{大人しくしていろ}


イタリア語でそうしゃべる男の腕には、銃口を頭に当てられた紫杏がいた。不安げに揺れる瞳はオレをとらえる。


{…何が目的だ}


{暗殺}


{違うな。お前たちは彼女を狙っての行動じゃ無い}


《ツナ!こいつらは倒したぜ?あとはSPに任せてそっちに行く》


「武。気をつけて」


《!!…ああ》


無線を切って、紫杏をとらえている男を見る。こいつも、頭ではない。


{さすがドン。おっと、この子に傷をつけたくないなら、武器をおろせ}


{ふざけんな!果たして―――}


隼人の言葉を遮るように、片手を横にだして、隼人の言葉を止める。今、逆らったら、確かにあいつらは紫杏を傷つけるだろう。麻依の方をチラっと見れば、不安そうにオレと紫杏とを交互に見ていた。
オレは、再び前に視線を戻して、ゆっくりと手から銃を落とした。


「十代目!」


「みんなも、言うとおりに」


男を見据えたままそういえば、それぞれが武器を置いたのが気配で分かった。


{そう。それでいい。ドン・ボンゴレのそのグローブもだ。我々の情報力をなめるなよ?両手を上にあげて}


オレは、グローブをゆっくりと地面に置いて、両手を上にあげた。


紫杏は、涙を浮かべた目を大きく見開いていた。不安そうに、こちらを見ているから、オレは微笑んでやる。


「大丈夫。絶対に守るから」


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あきゅろす。
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