小さなわだかまり

お父さんたちの話しを、リボーンの膝の上に座りながら聞いておく。リボーンに、話しは理解できなくても、場内図だけ覚えておいて損はねえって言われたから、机の上に広げてある場内図を見る。5枚ある図面は見ただけじゃよく理解できないけど、なんとなくの間取りはわかる。でも、それにしては壁の部分が多いんだけどね。


その図面の上には、チェスの駒が数個置かれていた。


「山本は、とりあえず御令嬢の傍にいてね」


「おう」


「隼人は、麻依の護衛」


「はい!」


お父さんが次々に、指示を出していく。それと同時に、チェスの駒が図面上に少しずつ置かれていった。お父さんは、何かを考えながら、チェスの駒を5枚のうちの一枚に集中して置く。たしか、そこが会場だったはず。


「雲雀さんと骸は…そうだな。必要な時に来てくれるとありがたいですね」


「ねえ、僕は行かなくてもいいんじゃないの」


「それには同感ですねえ」


「そうも言ってられないからね。この仕事、結構あちらの条件がめんどうで」


「ふーん」


興味なさそうに答える雲雀さんにお父さんは苦笑した。というか、私こそ行かなくていいんじゃないの?と思うけど、言える雰囲気じゃ無いので黙っておく。


「ランボは東入口付近になるべくいるようにして」


「はい」


「お兄さんは、西入口付近に」


「おう!まかせとけ!」


「リボーンは、俺についてくるだろ?」


「ああ、そのつもりだぞ」


リボーンは、私の髪を梳きながらそう答えた。あれ?私、どうしよう?


「紫杏には、一人通訳兼護衛をつけるから」


通訳?あ、そっか。そういえばここってイタリアだもんね。日本語なんて通じないよね…。イタリア語辞典でもぱらっと見ておけばよかったかな…。


[どんなひと?]


「守護者には劣るが、女にしては腕がいいぞ」


へえ、女の人なんだ。とか思いつつも、とりあえずうなずいておく。


「オレ達は、たぶん一緒にいてあげられるのは最初だけだから、何かあったら、その人に言ってね?」


お父さんの言葉に、うなずいてかえす。


「おい、ツナ。この空白の部分はなんだ?いたるところにあるぞ」


「ああ、それね。オレも気になって聞いてみたんだけど」


リボーンが指差したのは、部屋っぽい空間なのに、出入りする場所が一つも書かれていない、つまり密室空間になっている。それが、5枚の図面にかならず一つずつ書いてあるんだから、不思議。


「これは、建て替えしたときにいらなくなってつぶした部屋なんだってさ。だから、出入りする場所もない」


「へえ、おもしろいね。暴いてみたくなる」


「…くれぐれも、あっちにいって揉め事なんて起こさないでくださいよ?」


「わかってるさ」


雲雀さんは、さもつまらないとでもいうように、深く溜息をついて見せた。その様子を見て、骸が笑った。


「雲雀君に何を言っても無駄でしょう。それより、何人ぐらい連れていく気です?」


「んー、先方としては、マフィアだってバレたくないらしいから、それなりな格好で、って言われてるぐらいだし、10組ぐらいがベストかな、とは思ってるんだけど…。御令嬢の傍には山本もついてるわけだし。それに、SPも雇うらしいよ」


「へえ…、SPね」


「雲雀さん、さっきも言いましたけど、」


「わかってるよ。もめ事は起こすな、でしょ?」


「わかってるならいいんです」


お父さんはそういうと、雲雀さんは目をそらした。それを見て、骸が笑みを浮かべたけど何も言わなかった。


「ツナ」


「ああ、来たみたいだね」


リボーンとお父さんがそう言い終わると同時に、扉がノックされて、開かれた。


「失礼いたします!」


女性の凛とした声が響いた。そして、入ってきたのは、髪を後ろで一つにまとめ、ふちなしの眼鏡をかけ、スーツを着た女性だった。


「忙しいところにごめんね。紫杏。さっき言っていた護衛兼通訳のイリーシャだ」


「紫杏様。初めまして。このたび、紫杏様の護衛兼通訳を任されました、イリーシャ・メーケンドと申します」


[よろしくおねがいします]


私は、リボーンの膝から降りて、言葉を書いた後に軽く会釈した。


「イリーシャ。君は、非常時以外は紫杏の傍を離れないでくれ。それと、当日はそれなりな格好をしてきてね」


「Si」


「じゃあ、明日はよろしく。紫杏。何かあったら、俺たちは傍にいられないだろうから、イリーシャを頼ってね」


お父さんは、私の頭をなでながらそう言って、私はコクンと一つうなずいた。


「本当は、リボーンにお願いするのが一番いいんだろうけどね。そうもいかなくって」


[だいじょうぶ]


「ん、ありがとう」


お父さんは、また私の頭を人撫でする。次に皆の方へと向き直ったときには、もうボスの顔になっていた。


「じゃあ、皆」


お父さんはそう言って、立ち上がると、その場にいた全員が立ち上がってお父さんの方を見た。


「明日は頼んだ」


その声と同時に、全員が返事を返すと、それぞれ部屋を出て行ってしまった。
お父さんとお母さんとリボーンがその場に残っていた。お父さんはゆっくりとソファーに座ると、肘をついて組んだ手を額に当てた。


「綱吉?」


「…あまり、乗り気がしなくて」


「なんで?」


「………」


「大丈夫。きっと、大丈夫だよ」


「うん。…紫杏。おいで」


手招きされて、近づいていけば、わきに手を差し込まれて抱きあげられた。お父さんの膝の上に乗せられて、そのまま抱きしめられる。
私は、どうしていいかわからずに、そのまま身を任せていた。


「紫杏。何かあったら、誰か守護者を探せ。さっきの配置は覚えてる?」


その問いに、うなずいて返す。しっかりと覚えていた。


「イリーシャは優秀だけど、少し心配でね。何かが起こったらすぐ近くの守護者のもとへ行くんだ。わかった?」


うなずく。
お父さんは、また一度頭をなでると、私をおろした。


「さて、明日の準備をするか!」


今までの空気を払しょくするように、声を出すと、執務机へと向かって行った。リボーンは私を抱きかかえて部屋を出た。


[おとうさん、しんぱいしてる?]


「大丈夫だぞ。紫杏はとりあえず自分の心配だけしてろ。傍にいられねえからな」


今さらになって、だんだんと不安になってきて、私は、リボーンの首に腕をまわして肩に顔を押し付けた。
リボーンも、私を抱える腕に力をいれてくれる。
明日、いよいよ、私にとって始めてのパーティーだ。なんだか、いろいろとありそうだけど…。


空はどんよりと曇っていて、今にも雨が降りそうだった。


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