初めましては何語?

今日、オレは目の前のありえない量の書類に愕然としていた。机の上にうずたかく積まれる書類。それは、なんと今日中に仕上げなければいけない書類らしい。


「な、なんだよ、この量…」


「しかたねえぞ。文句なら書類をためてた守護者に言え」


「あいつら…。マジで燃やしてやろうかな…」


「ちゃんとやるんだぞ。ダメツナ」


「もうダメツナじゃないだろ」


ダメツナと呼ばれたことに対して、笑顔(黒い)で返してやれば、彼のトレードマークでもあるボルサリーノを深くかぶって口元だけに笑みを見せた。


「リボーンは?」


「俺は、これから任務だ」


「ああ、そうだっけ…」


「…逃げたら、わかってるだろうな」


この元家庭教師にはお見通しってわけか。昔のことを少し思い出し苦笑する。


「…いってらっしゃい」


「ああ、行ってくる」


扉を出て行った元家庭教師の姿に、ずいぶん大きくなったなと思う。
いきなり現れマフィアのボスになれと言われた時は本当に嫌だったけど、結局こうしてディーノさん同様、ボスになってしまっているわけで。


彼には一生敵いそうにないと思う。


「綱吉?」


ノックのあとに聞こえてきた声に俺は少し頬が緩むのを感じた。


「どうぞ」


「コーヒー持ってきたの。…これは、また。すごい量ね」


入ってきた彼女は、机の上にあるすごい量の書類にあきれたように言った。コーヒーを受け取って口に含みながらまたそのことを思い出して、恨み事をひとつ。


「本当だよ。本気であいつら燃やそうかと思った」


「…綱吉、黒い」


「ん?何?」


「…イエ、ナンデモナイデス」


彼女は、冷や汗を流しながら目をそらした。
彼女の名前は麻依。去年俺の妻になった。高校からの付き合いで、マフィアだと知っても軽蔑しないでくれた彼女は、そのまま俺がここに連れてきた。
少し、後悔してはいる。
彼女を、麻依をこっちの世界に引き込んだのは俺だから。そのせいでいろいろと周りに言われて、危ない目にもたくさんあわせた。


邪魔になるのは嫌だからと出て行った彼女を引きとめようと出そうになった言葉を喉もとでなんとか押しとどめた。
引きとめれば困らせることになってしまうし。


「ハア、それにしてもこの書類の量はないだろ…」


椅子を回転させて窓の外を見る。見事な快晴。部屋を見れば見事な書類の量。


「よし、散歩に行こう」


こんな快晴だ。外に出ないで部屋に閉じこもっていたら気がくるってしまう。
麻依も誘いたいけど、きっと書類やれと言われるから内緒で行こう。


それに、なんとなく今日は何かがありそうな気がするんだ。
何かはわからないけど、『悪い』と言えることではなくて、かといって『良いこと』かと聞かれればそうでもない気がする。でも、行かなければいけないという衝動に駆られてしまっては、行かないわけにはいかないだろう。


「って、ことで、行ってきまーす」


心配させないために書置きを忘れずに、窓を開け放って外に出る。
昔のオレだったら絶対に無理だっただろうなあと思う高さだけど、今なら平気だ。
ある意味、感謝。
まあ、大本の原因をたどればボスにならなければ逃げるように窓から飛び降りる必要もなかったんだけどな。


きっと、後でこっぴどく怒られるだろうとは思うけど、掻き立てられる衝動に逆らうことはしない。




街中を歩いていけば、自分の格好が失敗だったと少し落胆。
今の格好は、白いスーツを着ている。街中にこの格好はなかった。着替えてくれば良かったと本当に思う。


それにしても、どこに行こうか。とくに計画を立てていたわけではないから財布も何も持ってきていない。護身用の銃は持っているけど…。


しばらく、何も考えずに歩いていたら、路地裏から何かが飛び出してきてオレの足に当たった。


「.!Io sono spiacente.E tutto raddrizzi?(わっ!ごめんね。大丈夫?)」


見れば、小さな幼稚園児ぐらいの女の子だった。恰好からいって、スラムの子かもしれない。


しゃがんで、その子を見ると、オレの足に当たったのか鼻が赤くなっていて、少し涙目になって鼻を押さえている。


その子は、オレをじっと見つめた後、急に立ち上がって、後ろの路地を見た。そこにオレも目線を向ければ、気配を消そうとしている存在が2つ。
目の前の子に目線を戻せば、ほっと息をついていた。


そして、その子の目からはポロポロと涙が流れ始めた。自分で抱きかかえるように手を肩にあてているその手は少し震えている。


「Oh!?Io fui fatto male leggermente!?E tutto raddrizz!?(えっ!君、どこか怪我したの?大丈夫!?)」


たぶん、あの気配と何か関係があるのかもしれない。ここに、この子を置いていくのは危険だろう。
それに、オレの超直感がこの子だと告げていた。
さっきまで駆られていた衝動の正体はこの子に会うためなんだ、と。


オレは、まだ少し涙目のこの子の頭をひと撫でして抱き上げた。女の子はじたばたと足と手をばたつかせて抵抗してきたけど、声はあげなかった。
それをいいことに、足を手で押さえつけて、顔を肩の方に乗せるような体制で抱えて今まで来た道を戻る。


何が、この子なのかなんてわからないけど、オレの超直感が告げているんだから間違いない。


あー、でも、みんないきなり連れてきたら怒るかなあ。


この子を連れていった後のみんなの反応が頭に浮かんで思わず苦笑してしまった。
それを見ていたのか、首をかしげてオレを見つめてくる彼女に、一つ微笑んでどうやって説明しようかと考えをめぐらす。




さあ、彼女とオレ達の物語は始まった―――



Encounter…出会い
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