霧のメタモルフォーゼ

熱を出してしまってから3日たち、私はようやく回復した。ちゃんと大人しくしていれば、1日で治ってもおかしくはなかったらしいけど、私は、動き回って寒いところで寝たりしたから、(といっても、気温は高めなんだけど)こじらせてしまい、シャマル先生に怒られた。


そして今、私は、かなりこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになっている。
それは、目の前でとても楽しそうに洋服の間を行き来しているお母さんとある女性についてだった。


まず、目の前にいる女性の説明からすると、朝食を食べた後、さあ今から何しようかという時に、お母さんが部屋に入ってきた。そして、一緒に入ってきたのが、この女性。


胸ぐらいまである髪に、光があたると紫っぽく見える瞳。そして、片方の目には髑髏が書かれた眼帯がしてあって、後頭部の方では誰かを思わせる髪型がされていた。


「クロームちゃん。この子が紫杏ちゃんよ」


クロームというらしいこの女性は、私の前にきて膝をつき、視線を合わせる。少し寄せられている目元が、なんだか泣きそうに見えた。


「あなたが…」


落とすような呟きは、すぐに閉じられて、瞳を覗き込んでくる。私も、彼女の瞳を見返した。


「……本当だ。骸様が、言ってた通り…」


「?」


「あ、ごめんなさい。私の名前はクローム・髑髏というの」


[紫杏です]


それより、骸様?


「骸様から、貴女のこと聞いてて…、それであってみたかったの。……迷惑、だった?」


首をよこに振る。そうすれば、彼女はほっとしたように微笑んだ。


「じゃあ、いこう。早くしないと、時間がなくなっちゃう」


「あ、そうだね!でも、どんなのがいいと思う?」


「………リボンがついてる奴がいい」


「じゃあ、それ中心で探しましょう!」


お母さんとクロームさんがそういって、楽しそうに笑いあうと、私はわけがわからないまま手を引かれて、衣裳部屋へと連れて行かれた。そこには、大人用から子供用まで様々なドレスが置かれていて、お母さんたちはそこから何着か適当に選ぶと、私の方へと持ってきた。


[きるの?]


「そう。明後日にパーティーがあるのよ。それに紫杏ちゃんも出るんだからね?」


[ぱーてぃー?]


首をかしげると、お母さんは私に、ドレスを着せながら説明してくれた。


この前、ディーノさんが来たときは、どうやらこのパーティーの話しだったらしくって、去年、ディーノさんのところに表社会のある会社から娘の誕生日にパーティーをやるから、護衛をしてほしいと頼まれたらしい。でも、そのとき、ちょうど予定があり、できなくなってしまった。でも、断るわけにもいかず、その話はお父さんに回ってきたんだって。


それで、お父さんは引き受けて護衛をしたところ、そこの御令嬢がたけにいをすごく気にいってしまって、今年もまたお願いしたいってことらしい。
でも、マフィアとつながりがあると思われたくないから、一般人を装ってきてくれとのこと。それで、カモフラージュみたいな感じで私とお母さんも出席するらしい。


まあ、この会話を聞きながら、ざっと10着程度は着たり脱いだりした。普通に試着するだけのはずなのに、なぜかものすごく体力をつかってしまった…。


「うーん、これはなんか違うよなあ。黒よりも明るい感じがいいし…」


「これ…」


「あ、それいい!着せてみましょう!」


と、こういう会話が続いて、着せ替え人形にされてから、もう3時間はたっている。お母さんたちは、楽しいのか顔が生き生きとしているのに対し、私はげんなりしてきていた。


そして、クロームさんの持ってきたものを来て、二人は、少し離れたところから、私の姿を見て、首をかしげる。


「うーん、やっぱり、あれが一番しっくりきたかしら」


「うん」


「じゃあ、それにして……あとは…」


お母さんがドレスから離れて靴とかの物色をしにいっているときに、クロームさんはさっき一度着た覚えのあるドレスを持ってきて、私に着るように促した。
話しの内容からいって、たぶんこれに決まったらしい。


そのドレスは、淡い水色の生地に、白いドット柄。腰の部分には前後にリボンが巻かれていて、前のリボンの中央にはドレスより少し濃い、花のコサージュがつけられている。


「……かわいい。ボスも喜ぶと思う」


[ありがとう]


あまり表情は変わらなかったけど、クロームさんが微笑んでくれた気がして、嬉しくなった。


[くろーむさんもいくの?]


「?」


[ぱーてぃー]


「行かない。…他に用事があるから」


クロームさんは来ないのか。きっと、ドレス姿とかきれいなんだろうなーっておもったんだけど。それに、クロームさんはあまり話す方じゃないみたいだけど、雰囲気が似ているからか、結構落ちつく。
沈黙が気にならないタイプっていうのかな。


「これで、どう?」


お母さんが持ってきた靴を履いて、出来上がったみたい。


「あとは、髪ね…」


「それは、私がやる…」


「本当?じゃあ、お願いするわ!」


お母さんがそう言って笑うと、クロームさんは少し照れくさそうに笑っていた。こうして、パーティーの準備はちゃくちゃくと進められていったのだった。


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あきゅろす。
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