伝わる温度

ふっと、浮上する意識。しかし、完全に覚醒することのない頭で、ただ、温かいとだけ感じていた。


さっきまで、あんなにも寒かったのに、温かい。ずっと、この温もりの中にいたい。そう思って、その温もりに縋るようにすり寄った。
上から、クスクスとした笑い声が聞こえたけど、その笑い声すら温かみを持っていた。


温かいそれは、私の頭をなでてくれて、その心地よさに、私は再び深い眠りへと堕ちていった。


再び意識が浮上した時、私の体は金縛りにかかったんじゃないかと思った。だって、身じろぎしようとしても、動けなかったから。でも、だんだんと意識がはっきりしてきたとき、金縛りじゃないことに気付いた。
私のお腹に何かが乗っていて、それが体の動きを封じているんだと分かった。


まだ、眠くて重い目を開けてみれば、目の前にはお母さんの寝顔があった。それで、やっと、お腹にある重みが、お母さんの腕であることがわかった。私は、お母さんに抱き枕よろしく、抱えられて眠っていたようだ。


にしても、いつのまに?


「ああ、紫杏。起きた?もう、体は大丈夫?」


その声に、顔を向ければ、お父さんが机で何かを書いていた。私が身動きしたのが分かったのか、お父さんは顔をあげてこっちを見た。
私は、お父さんの問いかけにうなずいて返す。
お父さんは、そっか、とだけ言って再び書類へと向かった。私は、その光景をしばらく、まだボーっとする頭で見ていた。たぶん、お仕事をしている。でも、なんで、執務室でしてないんだろう?いつも、ここでは仕事しないのに。


それに、なんで抱き枕状態??あと、私ってどれくらい寝てたのかな?


「よしっ。一応終わったー!!」


お父さんは仕事が終わったのか、持っていた万年筆を机に置くと大きく伸びをした。
そして、立ち上がると、私の方へ来て、ベッドに腰掛ける。


「まだ、だるい?」


そう言いながらも、額に手を当てられる。お父さんの手はつめたくて気持ちよかった。


「んー、もうちょっと、って感じかな?」


私は、言葉を返すためにスケッチブックを探そうと思ったけど、お母さんに抱き枕されているために身動きが取れない。


仕方なしに、このまえリボーンに教えてもらったモールス信号を使ってみる。分かってくれるかな?


・・−・


動かせる左手を布団の上に出して、自分の体をたたく。伝えようとしていることを知ってもらうために、お父さんから目をそらさずに、何回もたたいてみる。


・・−・


「…?ああ、えっと……トントンツートンだから、F?」


おお、伝わった!


・・


「えっと、…S…は3つだから、2つは、I?」


−・


「えっと…ちょっと待ってね。えっと…Nか」





「え?」





「あ、それで、一文字なのか。えっと、トンは、Eだね」


私は、大きくうなずいて見せる。お母さんが身じろぎをしたけど、また眠ってしまった。
私は、今のを全て通してたたく


・・−・  ・・  −・ ・

「FINE…、fine?」


おお、伝わった!言葉がわりにしては遅いけど、でも、良いかも…。


・・ ・− −− ・・−・ ・・ −・ ・


I A M F I N E


「I am fine…。ハハ、そっか。紫杏はすごいね。英語もできるんだ?」


コクンとうなずいて見せる。できるといっても、文を覚えているだけだから、すらすら〜としゃべることはできないんだけどね。


「う、ん……。んー?…紫杏、ちゃん…」


お母さんが身じろぎをして、少しだけ目を開けた。私がお母さんを見ると、お母さんは、まだ寝ぼけているのか、ゆるい笑顔を浮かべていて、抱き枕状態の私をさらに抱きしめた。


「!!」


「おーい、麻依?まだ、寝ぼけてる?」


「んや!…綱吉も、寝よ?」


「!!……おねだり上手だよなあ。これじゃあ、どっちが子供かわかったもんじゃないだろ」


お母さんがお父さんの服の裾を少しだけ引っ張って、そういうと、お父さんは目を見開いた。でも、すぐに、嬉しそうに笑って、お母さんの頭を撫でている。お母さん、かわいい…。


「しょうがない。今日は麻依のわがままに付き合ってもう寝るか」


コクン、と一つうなずく。そうすれば、お父さんは頭をなでてくれて、その心地よさに目を細めた。
お父さんは、私を挟んだお母さんの向かい側に寝転がると、ゆっくりと、私の体をたたく。
眠気を誘う調子に、私の瞼はゆっくりと下がっていった。


「おやすみ、紫杏」


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あきゅろす。
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