ゆっくりと浮き上がってくる意識と一緒に重たい瞼を押し上げる。窓から漏れる陽の光だけが、室内を照らしだしていた。目に入った天井は、見慣れているもので、ちいさく息をつく。 私は、ゆっくりと体を起き上がらせた。部屋の中は、誰もいない。 のそのそと、ベッドからはい出て、床に足をつければ、床の冷たさが背筋を這いあがった。 ベッドにあるシーツをはぎ取って体に巻きつける。寒くはないのに、寒いといって震える体を抑えようと巻きつけたシーツをきつく握りしめる。 それから、私は部屋を出た。ゆっくりとした足取りで、壁を伝って廊下を歩く。 階段を上る。一段一段ゆっくりと登っていると、巻きついけていたシーツがとれてしまった。 拾う気にはなれなくて、そのまま上へと向かう。 上についたら、一つある、大きな扉のノブを回した。中には、誰もいない静寂だけが居座っていた。それでも、その中をぺたぺたと裸足で歩く。 頭がふらふらするし、もう、ここで座り込んでしまいたいけど、もうちょっと頑張る。 お父さんとお母さんは、たぶん、今仕事中だし、リボーンだって仕事がある。だから、迷惑かけちゃいけない。でも、傍にいるっていうのを感じたくて、おもわずここに来たんだけど…。 ここっていうのは、お父さんとお母さんの寝室。ここなら、二人の匂いとか、そういうのがあるから、ちょっと安心した。 大きなベッドによじ登り、冷たい布団の上で力尽きて膝を抱えて丸くなる。起きた時は、汗をかいていて、気持ち悪かったけど、ここに来るまでに、乾いてしまったみたいで、こんどは冷たくなっている。 スカートの中に足を小さくして、いれて、なるべく布が肌にあたる範囲を広くする。 はやく、お母さんたちの仕事が終わればいいのに。誰もいない室内で、鼻をすする音がやけに大きく聞こえた。 目の奥が熱くなってきて、それを隠すように布団に顔を埋める。そうすれば、お母さんと同じ匂いがして、また涙が出てきた。 さびしい…よ。 誰かに傍にいてほしいけど、でも、迷惑かけたくない。って、ここに来てる時点で迷惑になるのかな?でも、ここ、離れたくないしな…。 そんなことを思いながらも、私はすぐに眠りの底へと落とされていくのだった。 *** 「紫杏?」 麻依と部屋を出た後、紫杏の部屋へと向かえば、そこはもぬけの殻となっていた。 麻依の方を振り返れば、心配そうにこちらを見上げてくる。彼女の頭をポンポン、と撫でて、とりあえず麻依を連れて中に入る。 もしかしたら、連れ去られたのかもしれない、と考えて、警戒をしながら中に入る。ベッドへと近づいて、そこをさわれば、まだ少しだけ温もりが残っていた。 「まだ、温かい…」 「シーツが無くなってるね…。ねえ、紫杏ちゃん、誘拐とかじゃないよね?」 「それは、まずない。ボンゴレの本部にわざわざ子供をさらうような危険を冒すなら、情報を盗みにくるよ」 「でもっ!」 「大丈夫」 心配そうに見上げてくる麻依の頭をなでて、笑顔を向けてやる。そうすれば、とりあえず、うなずいてくれた麻依。でも、本当にどこに行ったんだよ…。 熱出してるのに、大人しく寝てなきゃ治るモノも治らない。 渋る麻依の背中を押して、とりあえず部屋をでて執務室へと戻るために廊下に出る。 思いつめたように視線を下に向けている麻依は、たぶん、自己嫌悪のようなものに陥っているんだろう。 「こんなことなら、ちゃんと傍にいればよかった…」 「麻依…。……じゃあ、これから、傍にいればいいんじゃない?」 「え?」 オレは、麻依を執務室の方向から転換させて、寝室へと向かう。途中に堕ちていたシーツを拾って。 「綱吉。それ…」 「うん。たぶんね」 視線をまじわらせて、クスリと笑う。階段を上ったところにある部屋、オレ達の寝室への扉を開けた。 「やっぱり…」 部屋に入れば、ベッドの上で丸まっている小さな姿があった。麻依と顔を見合わせて、二人で近づいていくと、膝を抱えるようにして猫のように丸くなり眠っている紫杏がいた。 「ハア。でも、よかった。ね?麻依」 「うん」 麻依は、紫杏が寝ている横に座り、紫杏の前髪をそっとどかした。 「泣いてた、のかな…。紫杏ちゃん。頬に跡がついてる」 見てみれば、たしかに、跡がついていて、布団も少し湿っていた。麻依は、そっと紫杏の頭をなでる。 「寂しかったのかもしれないよ。起きて誰もいなかったら、そりゃあね…」 小さく丸まっている体を、起こさないようにそっと抱き上げる。 「ここで寝かせる?」 「ああ。どうせだし、今日はここで、一緒に寝ればいいんじゃないかな?」 「賛成!私、一回川の字っていうのやってみたかったの」 川の字って…、と思いながらも、麻依が布団をめくったので、そこにそっと紫杏を寝かせてやる。汗で額にはりつく髪をどかして、そこに口づけを落とす。 「ねえ、綱吉?今日は、ここで仕事しない?」 「ん、そうだね。今日は、うっとうしいぐらい傍にいてあげようか」 ニコッとほほ笑めば、麻依も嬉しそうにほほ笑んだ。そうときまれば、ということで、オレは携帯を取り出してリボーンに電話をかける。 「もしもし?」 (なんだ。仕事はどうした) (今日は、寝室でやることにしたから) (は?) (紫杏の傍にいようと思って。ってことで、あとのことよろしくね) (……俺を使うなんて、いい度胸だな。ダメツナ。俺に頼むぐらいだ。今日中に、溜まってた書類が終わるんだろう?) (…………) (お・わ・ら・せ・ろ・よ) (大丈夫だよ。リボーン君。私がちゃんとやらせるから) (麻依!?) (ああ、頼んだぞ。麻依) (はいはーい) |