愛鳥の過去

眠りについた紫杏を見る。薬のせいか、うなされることもなくぐっすりと寝ていた。それにしても、まさか、骸が見つけるとはな…。あいつも、ほっとけねえか。


「光、だな。紫杏。誰にも、染まらせねえから…」


頭をなでて、額にキスをして俺は部屋を出た。向かう先は、心配している紫杏の父親の元。麻依は今、用事でヴァリアーに行っているためいない。それでも、電話したからきっともうすぐ帰ってくるだろう。


「ツナ」


ノックもせずに入れば、机の横に、トンファーを構えた雲雀と、それに降参のポーズをして冷や汗を流しているツナがいた。


「何やってやがる。書類は終わったのか」


「…全然はかどらないからね。今噛み殺そうとしていたところだよ」


「ほう…」


懐から、静かに銃をとりだして、銃口をツナに向ける。そうすれば、ヒイッと上がる声に、口端をあげる。


「そんなに、ハチの巣にされてえか」


「さ、されたくないから!第一、紫杏が熱出してるときに、大人しく仕事なんかしてられるかよ!」


「てめえは、一回見に行っただろうが」


「だからって!」


「紫杏なら、今眠ったところだぞ。行きたいんなら、そこにある今日中の仕事を終わらせやがれ」


溜息を一つついて、銃を懐へしまう。そうすれば、雲雀は幾分かつまらなさそうにトンファーをしまった。
ツナは、しぶしぶといった感じで、書類をやり始めた。ったく。麻依がいなかったら世話が焼ける。俺はお前の世話係じゃねえんだぞ。


「で、シャマルはどこ行った」


「シャマルなら、ビアンキと鉢合わせしちゃってどっかいったよ」


「ビアンキが帰ってきたのか」


「そう。さっき報告書と一緒にクッキーの差し入れもらったところ。食べる?」


机の端にある皿を差し出すツナを一瞥だけして視線をそらす。見た目こそはうまそうなクッキー。しかし、匂いがまだポイズンクッキングを醸し出してる。


「ビアンキが作ってくれたんなら、ツナが食べろ」


「無茶いうなよっ!殺す気か!」


「死ぬ気になれば食えるぞ」


「……あんな思いは、もう沢山だよ」


ツナはにがにがしげにいうと、再び書類にとりかかり始めた。


「おー、なんだ。リボーン、こんなところにいたのか」


「シャマルか。ビアンキはどうしたんだ?」


「いやー、まいったね。任務だって言うんだから、泣く泣く見送ってきたってわけよ」


「逃げられたか。相変わらずだな」


「そういうそっちは、随分と丸くなったようで」


フン、と鼻で笑って視線をそらす。丸くなった、か。紫杏の傍にいて、仕事から離れてるからかもしれねえな。


「お、なんだなんだ。パパは仕事中ってか?」


「からかうならよそへ行けよ。シャマル」


「つれないねえ。それよか、聞かなくていいのか?紫杏ちゃんのこと」


「!!」


「声の原因、知りてえんだろ?」


「わかったの!?」


「まあな。といっても、雲雀にもいったが、原因は精神的なものだ」


「雲雀さん、先に知ったんなら、言ってくださいよ!」


「聞かれなかったから答えなかった」


しれっとした顔をして、屁理屈をいう雲雀へと視線を向ける。その視線は交わることはなかったが、あっちは俺の視線に気づいてるはずだ。さっきといい、今といい、随分と気にかけてるな。雲雀にしては。


「で、その確固たるものはわかんねーが、嫌な記憶が関係してるだろうぜ」


「嫌な記憶、か」


紫杏の場合、瞬間記憶能力があるから、なおさら、か。


「おっと、無理に治そうなんて考えるんじゃねーぞ?子供の精神なんて、お前らと違って柔なんだ。あっちがしゃべりたくなるまで気長に待ってればいい」


「わかった。ありがとう、シャマル」


「礼なら、かわいいこちゃんを紹介でも…。あ、麻依ちゃんでもいいぜ?一日貸切で…―――」


ガシャン、という音とともに、シャマルに先ほどのクッキーが入った皿が投げられる。見事に命中した皿は、シャマルの顎にあたり、クッキーはうまい具合に口の中へと入っていく。
ツナも腕あげたな。


見事に命中して、いろいろな要素で瀕死状態になっているシャマルを尻目に、ツナは、お皿もったいなかったなーと言っている。


「ただいま!綱吉!紫杏ちゃんは!?」


「おかえり〜!まーいちゅわ〜ん!」


「シャマルさん!?」


復活したシャマルが、入ってきた麻依へと飛びかかる。それをいち早く、ツナが回避させていた。


「麻依、シャマルに近付いちゃダメだろ!」


「いると思ってなかったんだもの!それより、紫杏ちゃんは?大丈夫なの?」


「紫杏ちゃんなら、オレがしっかりと治したぜ?ってことで、お礼に〜!」


「じゃあ、麻依、紫杏のところに行こうか」


「え、あ、あれ?シャマルさんはいいの?」


「大丈夫。後でしっかりと焼いておくから」


「………」


ツナは、麻依の腰に手をまわして、部屋を出ていった。あいつ、麻依を利用して書類から逃げやがったな。


「いいの?書類」


「麻依が帰ってきたからな。後でやらせるだろ」


「ふうん。それより、そこで、うずくまってるこれ、どうする?」


雲雀の指さすところには、床に腹を抱えてうずくまっているシャマルがいた。シャマルが麻依へと飛び出した時に、ツナが腹に拳をめり込ませたのだ。しかも、麻依には気付かれない早さで。


「適当に街中に放っておけばいいぞ。誰か、部下にでもやらせておけ」


「…僕は嫌だ」


「…こいつがいたら、風紀が乱れるぞ」


「…それもそうだね。じゃあ、これの始末はこっちでやらせてもらうよ」


「いてててて…ひでえし打ち…ウガッ!」


ようやく立ち直りかけていたシャマルの背中をトンファーでなぐり、再び気絶させると、その襟もとを引っ張り、引きずりながら部屋を出ていった。


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