熱く重く

急にパッチリと目が覚めた。
あおむけに寝ていたから、天井がよく見えた。
首だけ動かして窓の方を見れば、カーテンの隙間から差し込む光があって、もう夜が明けていることが分かった。


私は、そっと起き上る。
体は寝起きだからか、重く感じた。ベッドから降りて、箪笥から着替えを出す。
外では雨が降っていて、梅雨が来たのかもしれないと思った。というか、イタリアに梅雨ってあったっけ。季節的には梅雨なんだろうけど…。


そう考えたら、私がここに来てから、まだ一カ月もたってないんだよね。なんか、毎日が新鮮で色濃いものだったからもう何か月もいるような気がしちゃってるけど。
この体にも慣れてきたし。


私が着た服は、ワンピースで、腰の部分から上が白。下が黒のチェックに別れている。襟元にはレースが使われていてそのレースの真ん中部分に当たる胸元には黒のリボンがある。スカートの部分には二つのポケットもあって、白と黒でシンプルだけどかわいい服。


部屋についている洗面所で顔を洗ってから、少し鏡で髪型を整えて、部屋を出る。
洗面所には、私が届かないために台を置いてくれていたりする。


部屋を出た私は、とりあえずリビングに行こうと思うんだけど…。それにしても体が重い気がする…、なんか、動きたくないかも。


私はその場に座り込んだ。こんなところに座っていたらダメなのは分かっているんだけど、でも、これ以上動く気にもなれないし、なんだか体が熱いし、口の中も熱いし。
あ、床冷たくて気持ちいいかも。


そう思ったら、私はもう床に寝そべっていた。ひんやりとした感覚が私の体をめぐって行った。体は熱い。でも、寒い…。
床、冷たくて気持ちいいけど寒い…。でも、起き上がる気にもなれない…。


私はとりあえずそのまま自分の体を抱え込むように丸まった。
どうしよう、なんかさびしいし、涙が出てきた。でも、迷惑なんてかけれないし、かけたくないし…。
ああ、誰か、助けて…。リボーン、お父さん…。


そのまま、私は、重くなる瞼に逆らえずに堕ちて行った。


「おや…。まったく。こんなところで…。紫杏。起きなさい。風邪をひいても知りませんよ」


骸は、任務帰りのだるい体で、さっさと部屋に行きベッドへと身を沈めようと考えていた矢先に、廊下の真ん中でうずくまっている紫杏を見つけたのだった。


呼びかけても反応がなく、ここに置いていくわけにもいかないと思い、溜息をひとつつく。
寝ているのかは知りませんが、迷惑なことに変わりはありませんね…。


「紫杏。起きなさい。貴女のお父さんに怒られますよ」


しかし、起きない。さて、どうしたものか。と思い、近づく。


片膝をつき、その小さな肩に手をかければ、ごろんと転がる紫杏の体。


「!!」


転がった体により、顔が見える。顔はほてっていて、息が荒い。そのくせ、顔色が悪い。


「紫杏?」


いつもつけている手袋をはずし、額に触れる。そうすれば、伝わってくる熱が異様に高いことが分かる。
紫杏は、額の手の感覚がわかったのか、うっすらと目を開けた。涙で滲む目。頬には一筋の渇いた跡がある。


ポケットから携帯電話を取り出して、ある人物へとかける。携帯を肩と顔で挟んで、両手を自由にしてから、紫杏をそっと抱き上げる。


荒い息で、うっすらと開けられた目の奥は、宙をさまよっていた。


「もしもし。紫杏が熱を出したようです。……騒がないでください。今、彼女の部屋に連れて行きますから。後は頼みますよ」


そう言って、電話を切り、すぐそこにある彼女の部屋へと足を向ける。電話の向こうの人物のあわてようは、久しく聞いていなかった声で、少し笑いがこみあげてきた。
まだ、彼にもそんな部分があったのですね…。


部屋に入り、ベッドへとそっと寝かせる。開かれている目は、涙でうるんでいる。


「今、綱吉が来ますから。それでは」


立ち去ろうとすれば、かすかな抵抗を感じ、そちらを向く。向けば、スーツの裾をつかんでいる小さな手。その手のもとをたどれば、じっとこちらを見ている。その視線に、溜息を一つ。


「行くな、といいたいのですか。僕は、これでも任務帰りで疲れているのですがね…」


しかし、離れない手に、もう一度大きく息をついてから、その手をそっと離して、布団の中へと淹れてやる。


「綱吉が来るまでですよ」


そういえば、少しだけ出された手が、布団をギュッとつかんだ。何をいいたいのかはわからない分、彼女へと視線を向ければ、じっとこちらを見ている。いつもは、本当に変化のない表情が、今は泣き顔になっている。


「紫杏!」


勢いよく開けられたドアの方を見れば、彼女の父である綱吉がこちらに駆け寄ってきていた。それを見届けてから、そっと席を立つ。


僕の背後では、ベッドへ腰かけた綱吉が紫杏に二言三言話しかけているのを聞きながら、部屋を出ようとする。


「骸!」


呼ばれた名前に出ようとしていた足を止め、少しだけ視線を向ければ、微笑んでいる綱吉の姿。ボンゴレ10代目になってからは、久しく見ることのなかった顔。といっても、麻依の前では別でしょうが。


「見つけてくれてありがとう」


そういった綱吉を一瞥した後、すぐに部屋を出た。親子の空間であり、僕が立ち入るには、なんだか、場違いな気がしてならない。
……雲雀君のように、紫杏に当てられましたかね…。


「骸か」


「おや。アルコバレーノ。入らないのですか?」


出たところで、壁に背を預けているアルコバレーノ。


「親子の場だからな。俺は後でで良いぞ」


「そうですか」


「白いだろ」


突然の問いかけともいえる質問に、気付かれないように息をのむ。


「触るのさえ、ためらっちまう。それを、ツナは連れてきたんだぞ」


「拾いものも、大概にしてもしいものですね」


「ククッ…、気に入ったか」


「さて、なんのことだか。僕は、部屋で休ませてもらいますよ。これでも、任務で疲れている」


アルコバレーノの前を通り過ぎて、自分にあてがわれている部屋へと向かう。
白い。触るのさえためらってしまうほど。真っ白な存在。しかし、その白には、もちろん、影があるようですが…。雲雀君あたりは、その真実を大まかに知っているようですがね。


これからの出来事を少し考えて、思わずもれる笑いに、口元を覆い隠す。さて、僕は、部屋で休むとしますか。


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あきゅろす。
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