ディーノさんに抱えられていろいろと回った。コーヒーカップや、ゴーカート。ついでにミニ機関車までも。 まあ、楽しかったんだけど…。絶対に私より楽しんでたよね、ディーノさん。 その間、ロマーリオさんはずっと父親の目をして温かく見守っていた。 「よし、次はアレ行こうぜ!」 そう言って、指差したのは、どろどろっと何かが溶けている中、青白い明らかに血色の、というか血がなさそうな人が頭から真っ赤な血を流して上目づかいをしている看板が、その場所の上にドドーンと陣取っている。 その周りには、これまたいろいろと付属品としてか、剣が貫通しちゃってる人や、骸骨、その他もろもろが飾られてある。 つまり、お化け屋敷。 「おいおい、大丈夫か?怖すぎて嬢ちゃんに縋りついてちゃボスの名折れだぜ?」 「なっ!俺がこんなので怖がるわけないだろ!」 「前来た時は泣いて泣いて、結局最後まで回れなかっただろ?」 「いつの話ししてんだよ!それはガキのときの話だろ!ったく…」 [でぃーのさん、こわい?] 「なっ!紫杏まで、そういうこと言うか!?」 「ハッハッハ!嬢ちゃんは大丈夫なのかい?」 [だいじょうぶ] 「じゃあ、ボスのこと頼んだぜ」 「おい!ロマーリオ!」 ロマーリオさんは私の頭をひと撫でして、そういうと、ディーノさんが盛大に突っ込んだ。というか、頼むも何も、ディーノさんすごいしっかりしてるし、大丈夫なんじゃないかな? リボーンは何を心配してたんだろう…。 「ほら、紫杏!行くぞ!」 ディーノさんは私の手をとると引っ張って行って、グロテスクな看板が飾られた屋敷の中へと入っていった。ロマーリオさんはさっきまでと同じように外で帰りを待っているらしい。 まあ、なんていうか。怖いというより、吃驚するんだよね。いきなり驚かされると。 私はディーノさんと手をつないだまま、順番待ちして、中へと入った。奥からはいろいろな悲鳴が聞こえてくる。そして、薄暗い中で、うごめく者たち。ディーノさんを見上げれば、何かが出てくるたびに、うおっ!とか、わあ!とかってリアクションをしてる。 私の場合声が出せないので、悲鳴を上げることはない。 それに、結構暗いところは好き。何も見なくてもよくなるから。 「お、俺がいるから大丈夫だぜ?紫杏」 うん。頼りにしてますよ。ディーノさん。ギュッと握ってきた手を握り返す。そうすれば、少し笑ってくれた気がする。薄暗すぎてよくわからなかったけど。 それからも、お化けがぞくぞくと出てきて、下から照らされたライトによって、顔に微妙な感じでできる影とかが結構怖かった。 でも、一番吃驚したのは、後ろから追いかけてくること。しかも、その時にディーノさんが思いっきり転んでしまって、追いかけるお化けが立ち止まってどうしよう、って感じになってた。 お化け役の人御愁傷様です。そして、ディーノさんは痛そうだった。 この中で、私ってそういえば会話できないんだよね。暗いし。こんなところまでスケッチブックとペンを持って入るわけにはいかないから、ロマーリオさんに預けちゃったし。 なんとか立ち上がったディーノさんとともに、先へと進む。 やっぱり、外国のお化け屋敷はリアリティーに溢れてるよね。日本はどっちかっていうと作り物っぽいし。昔風に作られてるから、いまいち現実になじまないというか…。それに、私が行ったことある場所って、たいてい脅かし役より、人形とかのほうが多かったしね。 しばらく、何も出てこなくて、ずっと薄暗い中を進んでいた。下へ下がる階段があり、私たちはそれに足を踏み出した、途端、私たちは階段から転げ落ちた。正確にいえば、ディーノさんが足を踏み外して、手をつないでいた私はそれと一緒に堕ちた。 「いてえっ!」 階段から落ちた俺は、打った場所をとっさに抑えて、痛みに耐えていた。ったく。ここに入ってからやけに転ぶな…。 俺は周りを見回してみる、と、あ周りが真っ暗じゃねーかよ。しかも、紫杏と手放しちまったし。 とりあえず立ちあがって辺りの様子をうかがってみると、俺の手にするっと小さな手が忍び込んできた。なんだ、こんな近くにいたんじゃないか。 「よし、行くか」 俺はその小さな手をとって、先へと進んだ。 俺の手をつかむ小さな手は少し震えていて、俺は大丈夫だと伝わるように少しぎゅっと強く握った。あっちも握り返してきて、やっぱし、5歳だったら怖いよなと思った。 そして、ようやく出口が見えてきた、と思ったら、俺の手を掴んでいた手はいきなり振りほどかれ、小さな身体は俺より先に走り出した。 「パパ!」 あれ? 後ろを追いかけて外に出ると、走っていった女の子は俺の知らない男に抱きついていた。しかも、紫杏じゃない…。 「ボス、遅かったじゃねえか。…?嬢ちゃんはどうしたんだ?」 「ど、どどどどうしよう!ロマーリオ!置いてきたかもしれねー!」 「落ちつけ、ボス。中にいるんだったら、また入ればいいだろう」 「こんなことがリボーンにバレたらっ!」 ぞわっと背中に走る悪寒に身震いした。 「いや、ドン・ボンゴレの方が怖いかもしれないぜ?」 「そ、そうだよなっ!もし紫杏になんかあったら、ツナに会わす顔がねえ!」 「お、ボス、あれ…」 *** 私はどうやらディーノさんとはぐれてしまったみたいだ。あたりの様子を窺って見てもよくわからないし…。さて、先に進むか後ろへ戻るか…。 先へ進む道はよく見えないけど、とりあえず後ろへ行く道は見える。じゃあ、進む道はきまり! ってことで、私は逆走することに決めた。 私は前からくる一般客の人をどんどん追い抜かしていく。お化け役の人が何か言ってるけど、イタリア語なのでよくわからずに、私は覚えている道をどんどん進んでいく。 私が一般客の横を通り過ぎた後少しして、悲鳴が大きく上がった。やっぱり、このお化け屋敷って怖いんだなあ。 私はやっと入口から出れた。突然の外に光に、目がちかちかする。目が慣れるまでしばらくかかったけど、慣れてから辺りを見回して、ディーノさんからロマーリオさんを探す。 「紫杏!」 私の名前を呼ぶ声が聞こえてそちらを見れば、こちらに駆け寄ってくるディーノさんがいた。 「嬢ちゃんは一人で中を周ったのか?」 [はぐれちゃったから。みちはおぼえてたし] 「へえ、嬢ちゃんはしっかりしてるなあ」 「はあ、でも、本当に良かったぜ。悪かったな。紫杏」 頭を撫でれば、コクコクとうなずくこいつに、ちょっと笑う。あー、にしてもよかったぜ。もし何かあったら、本当にリボーンが…! 「ほら、ラストあれ乗って帰ろうぜ」 最後にディーノさんが指差したのは大きな観覧車だった。 観覧車は大きくって、上からみた景色は、夕日に照らされたイタリアの街並みが見れて本当に綺麗だった。帰ったら、描いてみよう。最近、あまり描かなかったし。 「きれいだろ?上からみたイタリアは絶景だぜ」 その言葉にコクコクとうなずいて返す。私は外の景色にくぎづけだった。 夕日の光がキラキラと輝いていて、イタリアの街並みにあるガラスがその光に反射していといとな方向に光が向かっている。 [きょう、つれてきてくれてありがと] 「ああ、今度は俺の屋敷に来いよ。ファミリーの奴らもきっと気にいると思うぜ。なんせ、ツナの娘だからな!」 ハハハと豪快に笑うディーノさんは、夕日に照らされて金髪が煌めいていて、彼自身がキラキラ光っているみたいだった。 屋敷に帰ったら、もう皆帰ってきていて、私はお母さんに抱っこしてもらった。 「楽しかった?」 [たのしかった。おばけやしきで、とちゅうから、ぎゃくそうしたの] 「?どうして…」 「いや、俺が途中で転んじまって、真っ暗ん中ではぐれたんだ」 「暗いの怖くなかったのか?紫杏」 リボーンに聞かれて、首を横に振る。 [なにもおぼえないから、すき] 「そうか」 頭を撫でられて、温かい気持ちになる。私は、頭をなでられるのが好きみたい。 次の日の新聞で (へえ。遊園地のお化け屋敷で幽霊が出たんだって) (綱吉…、朝から怖い話は嫌…) (それ、どこの遊園地だ?) (ん?えーっと…、あ、これって紫杏が昨日行った遊園地だ。記事には、逆走する子供の幽霊か!?だって) (おい、ツナ。それって…) (あ!もしかして…;) ((紫杏か…?)) |