アンビリーバボーって、え?

ガヤガヤと騒がしい。まるで、街中みたいだ。たくさんの人が、行きかう街中。


目を開けてみれば、私の予想通り街中だった。
って、街中?は?なんで、街?
私、さっきまで部屋にいなかったっけ!?ママにいつものように虐待されて…。そうだ。それで私、殴られて、死ぬなあって思ったんだった。


混乱しきっている頭で、最後の記憶を思い起こすと胸に痛みが走る。同時に頭もいたんだ。頭に触れると大きなたんこぶができている。これは痛い。


それにしてもどうして私はここにいるのだろう。ここはどこだろう。家は、ママは、どうなったのだろう。私はどうすればいいのだろう。


途方に暮れて立ち尽くす。不安が胸中に渦を巻き思考を鈍らせていく。目の奥が熱くなり涙が溢れそうになるが、泣いても仕方がないのだとぐっとこらえた。


とりあえず、ここがどこなのかを把握するために歩いてみる。周りを見回してみると、気づくこと。


うーん?なんか、視線が低い。大人がでかい…。建物がでかい…。


それよりも気になったのは見る人見る人、日本人特有の黒髪も黒目も短足でもないということだ。すらりとした長躯。太陽の光を反射するような金糸、色とりどりの目の色。高い鼻。白い肌。


どう見ても日本ではない。日本にも外国人はいるが、街中にいる割合から見ても、建築物から見ても、立ち並ぶお店の看板から見ても、ここは外国のようだった。


それにしても、私の視線が低いのはなぜだろう。いくら日本人の平均身長が低いといっても、これはない。


というか、外国ということは受け入れてしまってもいいのだろうか。私は、一度も日本から出たことはない。もちろんパスポートも持っていない。これは不法入国になるのだろうか。不思議体験?犯罪の危機?


もうしばらく歩いて行くけど、やっぱり知っている場所はない。意味がわからない。傷口を触っても、やっぱり傷はないし、それに、手がなんか…


と、改めて意識してみて、見える範囲の自分の体が明らかにおかしいことに気づいた。モミジのような小さな手。ふにふに、もちもちしたやわらかい肌。


私は、自分の手を見つめていてふと思い当ったことに、サアッと血の気が引いて行くのを感じた。周りのすべてがでかくなったことも、それに比例するように自分の手が小さいことも、もしかしたらっ―――


私は、何か自分の姿を映せる鏡のようなものがないかと思って走りだした。あたりを見回しながら走る。周りから見たら、誰かを探しているようにしか見えないだろう。でも、私が探しているのは人ではなく姿見だ。


私は、ある店の前で立ち止まった。ショーウィンドウに映っている自分を見て愕然とした。そこに映っていたのは、17歳の私ではなくて、5歳ごろの私だった。


背も低くなっているし、なぜか着ているものは大人物のTシャツ一枚で、背が低いためスカートみたいになっている。染めてこげ茶だった髪は昔の黒髪に戻っていて、しかも、腰ぐらいまである長さになっていた。
足には子供用の簡易な靴を履いている。
アンビリーバボー!
って、遊んでる場合じゃなくて!


「Ehi, e Lei bambino perduto?」


本当にどうしよう。このままだったら、おそらく餓死で死ぬ。


「E tutto raddrizzi?」


すぐ横に、座ってきた外人さんはじっと私の方を見ていて、さっきからの声は私にかけられていたのだと気づく。しかし英語が堪能ではなかったわたしは彼が何を言っているのかまったくわからなかった。


ついでに言えば、英語ではないであろうことはわかった。


外人さんが、何を言っているのかはわからないけど、私に手を伸ばしてきた。思わず、ママのことがフラッシュバックする。その瞬間に本能が、逃げろと体に命令した。


私は、それに従って、少し後ずさり首をかしげている外人さんをしり目に回れ右をしてダッシュで逃げだした。


「Lei!?」


後ろで何かを叫んでいるけど、気にしない。こんなところで、言葉も分からないのに知らない人について行くなんてできないよっ!


私はがむしゃらに走って、人目を避けるように裏道へとそれていった。


しばらくして、後ろを振り返れば追ってきているような人は誰もいなくて、本当はいい人だったのかもしれないと、心の隅で思いつつもゆっくりと速度を落として立ち止まる。
そこでやっと落ち着いてあたりを見回せば、薄暗い路地に、何か腐臭がする。


上を見上げれば両側にある建物の壁がそそり立っている。自分の身長が縮んだせいかもしれないけど、建物の隙間から見える空が小さい。あんなにも、空が遠くなってしまった。


空に届かないとわかっていても伸ばしてしまう手をそのままに空を見上げていると、いきなりパンッという軽快な音が響いた。


誕生日とかにやるクラッカーの音をもっと大きくしたような音だ。
私は、上にのばしていた手を引っ込めてしばらく立ち尽くしたまま、また音がしないかと思い耳をすませる。


しばらくすると、また、今度は2回続けて音が鳴った。


私は、好奇心を抑えられずにその音が鳴ったと思われる方へ向ってみる。しばらく走って音のした方へ行くと、今までの狭い路地から少し開けた場所に出た。


いきなり変わった視界に立ち止まっていると、横から男の人の声が。


「un ostacolo entro」


「Questo e gia morto.Più primo che lui "la cosa in questione"」


男は3人いた。いや、正確には4人だ。一人倒れている。寝ているだけなのか、それとも…。そこまで考えてぞっとした。もしかしたら、ここへは来てはいけなかったのかもしれない。


男たちは、黒づくめのスーツを着て、胸元には鳥の模様が描かれている。


幸いなことに、会話をしている3人は私にはまだ気づいていない。彼らの姿が見えない壁に寄りかかり少し息を整える。下手に動けば物音がしてしまうかもしれない。そうしたら、あの横たわっている男の人のように…。


「Io lo capii.Portera propriamente i soldi?」


会話だけが聞こえてくる中、意味はわからないけどひそひそと話している2人の様子が気になる。
好奇心が抑えきれずに少しだけ顔をのぞかせてその現場を見つめる。


一人の男がスーツケースのような黒い箱を持ち上げ、中を見せるようにふたを開けた。私の位置からじゃ見えないけど、一人の男が中身の一つらしきものを持ち上げた。透明な袋の中には大量の白い粉。


それを見て、箱を持っていない2人がニヤリと口元をゆがめた。


白い粉の袋を持っていた男はそれを箱の中に戻し、箱を持っていた男はふたを閉じて鍵をかけて相手の男に渡した。
なんというか、映画を見ているみたいだ。麻薬取引現場みたいな…。


って、麻薬だよね!?あれ!?慈善家さんにはどうみても見えないし。みなさん強面でどうみても一般人じゃないし。ヤクザみたいな雰囲気。


もう、ここにいるのは危ないかな。よし、音をたてないように離れよう。


映画とかって、こういうときにちょうど小枝を踏んだりして見つかって追いかけられたりするよねー。


パキッ


私って、馬鹿?
音がして足元を見れば、何というベタな展開。小枝を踏んでいた。


「Chi e!?」


み、見つかったァァァァ!!


それでも、好奇心には勝てないというか、なぜかこういう場合は悲しいことに振り返って相手の様子を見てしまうもので、思いっきり男たちと目が合ってしまった。


「E quel individuo!Lo prenda!」


「Lei lo prende con Lei!」


「Si」


あたりまえだけど、あたりまえだけどっ!追いかけてきた〜!


相手が何か叫んでいる間に、私はなかなか動こうとしなかった足を自分の拳で一回叩いて、無理やり走らせる。
その間にも、相手は走ってきて、手には拳銃を…。って、銃刀法違反だから!法律守ってよ!おじさん!!


「Aspetti!」


何言ってるかわからないんだよ!


私は、とにかくがむしゃらに走った。相手を翻弄するように右に、左にと曲がりながら、自分でもどこに向かっているのかもわからない。でも、とにかく走った。


体が小さい分小回りが利くため、曲がっていけば、足の速さでは叶わないけど少し距離を開けられる。たまに、隠れたりして相手を翻弄させつつ、とりあえず大通りに出たいっ!


どれくらい走ったのかわからなくて、後ろを振り返ってみれば男たちは見えなかったけどそれでも走り続けた。発砲されなかっただけ運がいいかもしれない。


しばらく走れば街中の騒がしさが耳に聞こえてきて、私は無我夢中でその音の方に走った。薄暗い路地の向こうに光が見えた。私は、そこに飛びこむようにして強く地面をけった。


と、顔に強い衝撃が走り、私は尻もちをついた。鼻がつぶれた…;


「.!Io sono spiacente.E tutto raddrizzi?」


上からのやさしそうな男の人の声に私はそっと顔をあげてみる。そこには、真っ白なスーツを少し着崩して着ていて、はちみつ色の髪を無重力のように立たせているお兄さんがいた。


私は急いで立ち上がって、後ろを振り返った。そこには誰もいなくて、振り切ったんだとほっと一安心。
と、安心した途端に、今までの恐怖が襲ってきて体が震え、涙が出てきた。


「Oh!?Io fui fatto male leggermente!?E tutto raddrizz!?」


お兄さん、心配してくれているのはなんとなくわかります。でも、何しゃべってるのかわからないんですけど!!


お兄さんは戸惑っていたけど、私をじっと見つめた後そっと頭を人撫でして私を抱き上げた。


って、なんで抱えられてるの!?


抗議の声を上げようとすれば、そこでまた気づいたことが一つ。


声・が・で・な・い!!


私は、抗議することも抵抗することもできずに放心状態でお兄さんの為すがままになっていた。









紫杏が出てきた路地からは2人の男がその光景を見ていた。


「Che e Don il vongole(あれはドン・ボンゴレだな)」


「Fu preso con un ragazzo difficile da un ragazzo difficile….(厄介な奴に持っていかれた…)」


「E un rapporto per un capo per l'essere di tempo.(ひとまず、ボスに報告だ)」


「Si(了解)」


2人の男はそれだけの会話をした後、まるで親子のように去っていくドン・ボンゴレと少女を見送って、再び路地裏の闇の中へ姿を消した。


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あきゅろす。
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