受話機と困惑

今日は、リボーンは雲雀さんとあそびにいっているから、私はお父さんの執務室で大人しく本を読んでいる。


遊びといっても、雲雀さん流の遊びだから…。さっきから地下からドオ…ンという音が響いている。そして、その振動がソファーに座っている私にまで直に伝わってきて、しかも、天井からはみしみしと言う音とともに埃が堕ちてくる。


[こわれない?]


「…大丈夫、だと思うけど…。雲雀さんとリボーンだからなあ…」


そう呟いたお父さんはどこか遠い目をしていた。そして、また、地下からドオン!という爆発音。いったいどんなことをしているのやら…。


お父さんに聞いた話だと、戦っているらしい。それが雲雀さんにとっては遊びで、リボーンにとってはその遊びに付き合う、という形になるんだって。


「そろそろ、止めてくるか…。ジャンニーニが血相を変えて飛んで来るかもしれない…」


じゃんにーにって誰だろう?
そんなことを考えながらも、お父さんがしぶしぶ立ちあがってそっちへ行くのを見ながら、私は再び本へと視線を戻した。


リボーン達は今、地下の修行場で戦っているらしい。私も行ってみたかったけど、あぶないから、とお父さんに全力で止められてしまった。なので、暇つぶしついでに、ここにいる。


呼んでいた本をパタン、と閉じる。短い絵本のようなものだったから、すぐに読み終わった。
私は、それを棚に戻す、ことは身長的に無理だったので、それを机の上に置いておいて、ゆっくりと執務室を見て回る。


壁際には戸棚があって、そこにはたくさんの本が置かれている。その壁の反対の壁側には、低いテーブルと、ソファーが置かれている。ソファーは本当にふかふかで、座っていて思わず寝てしまいそうになる。


そして、ドアの正面の窓際にはお父さんの執務机が置かれていて、その上には書類や、パソコンその他雑多なものが置かれている。


後ろにある窓からは、青空が私を見ていた。


私は、お父さんの執務机にある椅子によじ登るようにして座る。お父さんは、いつもここに座っているんだ…。
そう考えたら、少し感慨深いものがあった。


私が座れば、座高の違いもあって、部屋の中が見えずに机だけが視界の中に広がった。目の前にある引き出しに、手を伸ばすが、触れようとしたところで手を引っ込める。
開けちゃだめだよね。何が入ってるかわからないし。


温かい日差しが部屋の中を照らし出す。ぽかぽかしてきた身体は、急速に眠気を誘っていった。その眠気に身をゆだねて、私は椅子に身を沈めた。





トゥルルルルル


電話のなる音に、私は驚いて飛び起きた。鳴っている電話を私は反射的につかみ、耳に当てる。


「………」


≪もしもし?ツナか?≫


受話器越しに聞こえる声を聞いて、眠気から一気に引き戻された頭が高速回転を始める。


私がいるのは、寝る前にいたお父さんの執務室。そして、今、私はお父さんの机にある電話をとっていた。


「………」


≪オレだ。ディーノだ。この前言ってたことなんだけどよー≫


電話の相手は、私が返さないままでもそのまま話し始めた。…やばい。どうすればいい?切っちゃったらまずいよね?お仕事のお話みたいだし。


というか、なんで私と受話器とっちゃうの!?話せないのにどうやって電話するというのさ!


耳から話し、受話器を置いて切ろうとするが、寸でのところで思いとどまる。もしかしたら、大切な仕事の相手かもしれない。それを無言のまま、何もいわずにきるのは、お父さんに迷惑をかけてしまう。


≪でさ…、おい、ツナ?聞いてるか?≫


聞いてません。お父さんは現在部屋にいません!って伝えられたらどんなにいいか。


≪?誰もいないのか?おーい≫


ああ、本当にどうしよう。未だかつてこれほどまでに声が出てほしいと思ったことがあっただろうか。


それでも、私は口を固く結んで、どうしようかと思考を巡らせる。


とりあえず、切られるのもまずいと思って指で受話機を軽くたたく。そうすれば、向こうの相手は、ずっとお父さんを呼んでいたのに、ピタっと声を止めた。


でも、そのままたたき続けていると、あちらで息を飲んだのがわかった。


≪誰だ。お前≫


低い声が問いかけてくる。さっきまでの陽気な声の主とはまったくの別人のようだ。
そのままたたき続ける。


≪……ツナはどうした≫


リズムを変えてたたき続ける。
お願い、切らないで。もうすぐ、お父さんが帰ってくるから。


≪おい…、≫


そのとき、ドアの向こう側からお父さんたちの声が聞こえた。
私は、急いでスケッチブックに文字を書く。
書き終わると同時に、執務室のドアが開いた。


[おとうさんにでんわ]


「!!」


お父さんは、私を驚いたように見つめた後、すぐに、私から受話器を受け取った。


「もしもし?」


心配しながらお父さんを見つめていれば、それに気付いたお父さんが頭を撫でてくれる。そして、口ぱくで“だ・い・じょ・う・ぶ”そういった。


「ああ、ディーノさんでしたか。すいません。紫杏が間違って電話にでちゃったみたいで」


うう…、ごめんなさい。


しゅん、として、俯いていると、突然身体が浮いた。吃驚して、顔を振り向かせると、そこには、黒い黒曜石の瞳があった。


「ディーノ相手なら心配する必要ねえぞ」


「そうだよ。あんな人なんてほっとけばいいんだ」


「相変わらず、雲雀さんはディーノさんには冷たいですね」


「違えぞ。子弟愛だ」


「ちょっと。気持ち悪いこと言わないでくれるかい」


子弟愛?雲雀さんってディーノさんって言う人の弟子なの?というか、弟子…。想像できない…。絶対に師匠でもかまわずトンファーで殴ってそう…。


「紫杏。変な想像しないでくれる?」


まるで、心の声が聞こえたかのように言い当てられてしまって、ビクッと肩が跳ねたが、勢いよく首を横に振った。トンファーは痛いから嫌!


「にしても、確かにできねえな」


私のことをまじまじと見ながら言うリボーンになんのことかわからず、首をかしげる。


「電話だ。なんかあったときに困るだろう」


確かに…、困るかもしれない。でも、そんな事態になるかな?それに、言葉がしゃべれなくて電話なんて…。メールでいいよ。面倒だけど。


「そうだな……」


じっと見据えながら、考え込まれて、私はどうしていいかわからずに、とりあえず、その瞳を見つめ返す。


「モールス信号ならなんとかなるか」


頭の上にたくさんのはてなマークを浮かべる。モールス信号ってあれだよね。音の長さの違いと組み合わせで一文字ずつあらわすってやつだったと思う、んだけど…。


それと、今の電話とどう関係があるのかがわからなくて、首をかしげた。


「じゃあ、またあとで。はい。…はい。…では、」


ガチャっという音がして、そちらを向けば、お父さんが電話を終えたところだった。


[ごめんなさい]


「大丈夫だよ。ディーノさんも気にしてなかったし」


「にしても、電話をとるなんてどうしたの?」


[ねてて、でんわでおきて、あせってとっちゃった]


「あ、それ、私もよくある!寝ぼけてるから余計に自分の行動ってわかんないのよね」


そうそう。よく、前は携帯でしたものだった。耳元で鳴る携帯を無意識のうちにとって、耳に当てるけど、途中で頭が覚醒して、自分のとっている行動が理解できなくて焦っちゃうの。


あれは、困る。現状把握するのに時間がかかっちゃうんだよね。


「で、ディーノから電話があったってことは…」


「そ。去年同様。向こうはよっぽど気に行ったみたいだね」


「…じゃあ、あの人がここに来るの」


「まあ、そうですね。今向かってるところですよ」


その、お父さんの言葉に雲雀さんは思いっきり眉をしかめた。それをお父さんは、清々しい笑顔で見ているだけだった。
雲雀さんは、しばらく何かを考えていた後、すぐに踵を返して、ドアへと歩み寄った。


そして、ドアに手をかけて、こちらを振り返ることもなく言う。


「あの人がきたら、絶対にこっちに来させないでよね」


「いや、オレにそれは…」


「あの人が来たら…噛み殺す」


低くそうつぶやいた後、さっそうと出て行ってしまった。


「雲雀さんは相変わらずね…」


「まったく…。オレが言って聞くような人じゃないだろ。ディーノさんは」


「綱吉は、噛み殺されちゃうね」


「……麻依…」


「紫杏、とりあえずお前はこっちだ」


「?リボーン君、何するの?」


「紫杏に電話の仕方を教えるんだぞ」


その言葉に、お父さんとお母さんは顔を見合わせて首をひねった。
私は、リボーンに抱えられたままだったから、そのまま連行されていった。


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