晴れゆく霧

「ほら!ツナも!」


「うわああっ!」


山本が、ツナを引っ張り、3人の中へ連れ立っていく。ツナも酔っているからか、ふらふらでそのまま山本に腕を肩に回されている。


珍しく骸も絡まれてやがるな。
骸も仲間に入れてきたということか。ま、半分は酒の力だろうけどな。
あと、良平の強引さだな。


ふと、俺の斜め後ろに紫杏がいて、じっとじゃれている4人を眺めていた。


「ん?どうした。紫杏」


紫杏を抱き上げれば、ゆっくりとこちらを見上げてくる紫杏はしばらく目をパチクリとさせていたが、すぐにスケッチブックに言葉を描きだした。


[ひとりじゃ、なかったよ]


雲雀が、いい加減うるさくなったのか、良平を噛み殺した。


紫杏の言っている意味がわからずに、首をかしげる。紫杏としばらく見つめ合う形になる。
くりくりとした瞳が見つめてくる中、その瞳に、こっちが全てを見透かされているような、そんな感覚に陥りそうになった。
俺も、相当酔ってるのか。


紫杏は少首を傾げた後、また何か書きだした。


[いつも、そばにいてくれてありがとう]


予想外の言葉。今、このタイミングでお礼を言われるとは思っていなかった。


それに、普段は見せることのない笑顔。綺麗に笑った紫杏は、5歳児のはずが、かわいい、じゃなくて綺麗だと思わせた。その笑顔にも驚き、固まる。


もともとは、ツナの命令で世話係になった。それでも、別に嫌だとは感じなかったのは、やはり、最初に見たときに、縋るように求められたからかもしれない。


しばらく、自分を忘れている俺に紫杏はクスと笑って、俺に抱きついてくる。
幼い体温が服越しに伝わってくる。香水じゃない自然の香りが心地いい。俺によってくる女たちとは違う。汚れを知らない存在が、今腕の中にいた。


壊れてしまうんじゃないかと思う。ボンゴレにいることで、この真っ白な存在が、どこか大人っぽいこの子供が、壊れてしまうんじゃないかと。ボンゴレに置いたのは間違いじゃないかと。
今さらだ。


そっと背中をなでる。
日本人特有の黒髪に指を通せば、サラサラと流れていく。


そのまま、背中を軽くたたいてやれば、紫杏はゆっくりと目を閉じていった。





***

ふっと、目を覚ますと、そこは私の部屋でも誰かの部屋でもなく、リビングだった。


時計を見れば、まだ明け方の4時で、起きるには早すぎる。それに眠い。


周りを見回してみれば、もう皆眠っていて、あちこちに空の酒ビンが転がっている。あのあとも相当飲んだようで、ビンの数がかなり増えている。


お父さんたちは、床の上で雑魚寝状態になっていて、たけにいと笹川さんとお父さんでからみあってそれぞれがそれぞれを枕にしたりけとばしたりして寝ていて、面白い状態になっている。


そういえば、リボーンが後で撮った方が面白いものが撮れるって言ってたっけ。


ということで、カメラを探せば案外近くに落ちていた。


だから、それの電源を入れて、フラッシュをたかないように設定をしてから、今の状況を写真に収める。


「くくく、何とってるんだ。紫杏」


[おとうさんたち、おもしろいことになってるから]


「まるで、ガキだな。あいつらも」


[たのしそうだったね]


「ああ…。たまには、羽が伸ばせていいだろ」


そう言ったリボーンの目は優しかった。


「まだ、4時だ。子供はまだ寝てろ。俺も眠いぞ」


そう言って、目を閉じたリボーンにならって、私ももうひと眠りすることにする。


明日は、六道さんに写真がとれなかったから絵を描こう。そして、それをあげよう。独りじゃないんだよ、って言って…。




***

次の日、私は、本当にスケッチブックにあの時の光景を描いた。


右から笹川さん、六道さん、たけにい、お父さんの順で肩を組んでいて、皆笑顔だ。もちろん六道さんも、あのときの優しい笑顔。


それを少し緊張しながら持っていく。


六道さんもリビングで寝ていて、さっき起きてきた。私は、皆より早く起きて、絵を描いていたんだけど、他の人は、やっぱり遅くに寝たからかなかなか起きてこない。


[あげます]


「?……これは」


六道さんの手に渡ったのを見届けてから、スケッチブックを開いてペンを走らせる。


[ろくどうさんの、しゃしんだけとれなかったから、かきました]


「……」


[いがいと、ちかくにあったでしょう?]


「なんの話ですか」


[てをのばしたら、ちかくにあったでしょう?]


オッドアイの瞳が見つめてくる。六道さんは、最初っから。少なくとも私が着た時からは、独りじゃ無かったよ。


[ろくどうさんは、きたなくなんかないよ]


「…骸」


「?」


「ろくどうさん、では描きにくいでしょう。むくろと呼びなさい」


[いいの?]


ふいっと顔を逸らされてしまったけど、でも、その手には、まだ絵が持たれていて、うれしくなった。


[むくろ]


「なんですか」


[よかったね!]


「!クフフ…、本当におせっかいな子だ」







(うぅ〜、頭、痛い…)
([おはよう])
(ああ、紫杏…、おはよ…う)
([あけがたの、おとうさんたち])
(へ?)
(((………)))
(極限すごい状態だな)
(ハハハ、ツナ、蹴ってたみたいで悪いな!)
(笑ってすましてんじゃねえよ!野球バカ!)
(うわ、俺、腹出して寝てるし…)


Preparation…準備
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あきゅろす。
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