咲く花のように

落ちついた声に、そちらを見れば、六道さんが呆れ顔でこちらを見ていた。


「骸!」


お父さんが六道さんに気を取られている隙に、お父さんから逃れる。がくがく揺すられたせいで、少し目が回った。


「今、帰りましたよ。といっても、報告は明日の方が良さそうですがね」


「おかえり!怪我はしてないな?」


「ええ。もちろんですよ。では僕は―――」


「よっし!じゃあ、骸も飲もうぜ!」


「いえ、僕は―――」


「そうだな!皆で飲まんと極限詰まらんからな!」


「……」


「クスクス、逃げられなくなったね?」


「ハア、まったく。僕は任務帰りで疲れているというのに」


お父さんが六道さんに向かってクスクスと笑いながら言えば、六道さんは思いっきり溜息をついて、そのままお父さんに連れられてこちらへ来た。六道さんをランボの隣に座らせて、そのままグラスにお酒をそそいだ。


六道さんはそれを受け取って、飲み始める。
雲雀さんがチラッと六道さんを見たけど、何も言わなかった。


私は、お母さんの台所でジュースをもらってきて、お母さんのお隣に座った。
お母さんは、自分のペースで少しずつチュウハイを飲んでいる。他の人は、結構飲みながらしゃべったりしているけど。
あ。リボーンがランボを蹴った。


「クスクス。皆楽しそう」


お母さんを見上げれば、とてもうれしそうに笑っていて、何がそんなにうれしいのかと思って首をかしげた。


「こんな風に、皆で飲み会って久しぶりなのよ。皆、楽しそうでしょ?」


コクンとうなずく。六道さんも、雲雀さんも態度には表わさないけど、いつも一緒にはいない彼らがそのままここにいるんだから、やっぱり楽しいんだろう。


[みんな、おさけつよいね]


「そうね。私は、もう、飲めないけどね?」


お母さんは弱い人らしい。隼人も弱いみたいだけど、他の人はそれなりに強そう…。というか、リボーンとランボに関してはお酒って飲んでもいいの?外国だから、別にいいのか?え、いいんだっけ??


[だれが、いちばんつよいの?]


「うーん?誰が一番強いのかな?お酒」


その、お母さんの言葉に、その場の空気が凍った(ように感じた)お父さんと隼人とランボ以外。


それぞれが、それぞれを睨むように視線を走らせる。お父さんと隼人はそんな皆にきょとんとしている。ランボは、顔をひきつらせている。


「そういやあ、そういうの勝負した事ねえな!」


「極限!燃えるぞ!」


「勝負事なら引くわけにはいかないね」


「クフフ…、おもしろそうですね」


「俺もやるぞ」


上から順に、たけにい、笹川さん、雲雀さん、六道さん、リボーンの順番に口が開かれた。


「え、ちょ、皆?」


「ツナもやるよな!」


「や、山本…。俺は…」


「おい!10代目を困らせるんじゃねえ!」


「なら、獄寺もやればいいじゃねえか!な!」


「お、オレは…」


隼人は、困ったように視線をさまよわせる。しかし、たけにいは隼人の返答などまっていなくて、厨房へと行き、さらに何本もの酒をもって来た。
うっわ。まだ飲むんだ。


「じゃあ、ルールは、最後まで飲んでた奴の勝ちな!」


「じゃあ、よーい!始め!」


その言葉を合図に、皆は一気に飲みだした。というか、この飲み比べって六道さんが有利じゃないのかな?だって、今、参加したところだし…。


みんな、どんどん飲んでいく。今までは、楽しく飲もう!みたいな感じだったのに、勝負事ということで、競って飲んでいた。そして、お父さんも飲まされている。隼人は、自重してか、グラスに入ったものを少しずつ飲む程度にとどめていた。


ランボは、眠いといって、さっき部屋へ戻って行った。私も部屋に行こうかな…。時計を見れば、もう日付が変わっている。うん、眠い。
子供の姿に変わってから、眠くなるのが早くなった。


なんて考えていたらいつの間にか、その場はすごい盛り上がりになってしまっていた。
隼人と、お母さんはもう寝てしまっているし、たけにいと笹川さんはビンからそのまま飲んでるし、お父さんはつがれて、言われるままに飲んでる。
リボーンは、雲雀さんと六道さんと3人で飲み進めていた。


あ、大分、お酒ない。お酒、もっと持ってきた方がいいのかな?


「おーい!誰か、極限、お酒もってこーい!」


「ハハハ、ほら、ツナ、もっと飲めって!」


「クフフ、雲雀恭也。大分顔が赤くなってきてますよ?」


「フン。君と違って、最初っから飲んでたからね」


「骸は、時間の差があるからな。ほら、これ度数が高いから飲め」


どんどん開けていくビンの数に比例して、皆どんどん酔っぱらっていく。とりあえず、私は厨房の方へと行ってみると、忙しそうに、コックさんたちは棚の中からお酒を運び出していた。
うっわ。あんなにも棚の中にお酒あったんだ…。


一度、皆のところにもどって、リボーンの服の裾を引っ張ってこちらに注意を向ける。


「?なんだ?紫杏」


[それをはこびますって、いたりあごでかいて!]


「?いいぞ」


[Io lo porto]


書いてもらったそれを持って、厨房へ向かう。リボーンにとらえられそうになったけど、それは頑張って切り抜けてきた。


机の上にたくさんのお酒、あっちの部屋からは、酒ー!という声が聞こえてくる。忙しそうにしている人のうち、一人の服をつかんで引き留める。


「Cosa è? Questo; quando è occupato!」


それで、さっきのものを見せて、お酒を指差す。彼は、その指を先を見て、少し悩んだあとに、違う人を呼びとめた。その人は、私がいつも食べたお皿を返す人だ。


二人は、何かをいっていって、たまにちらっとこちらを見る。私は、さっきのイタリア語を見せたまま二人を見上げていると、私がお皿を返す人が、目線を合わせるようにしゃがみこんできた。
だから、もう一回、お酒を指差す。


「Io chiesi.」


よくわからなくて、首をかしげると、彼は、私の頭をポンポンとなでたあと、お酒を二本私に渡した。つまり、持って行っていいってことだ。


私は、それをもって、開けてもらった扉からお父さんたちのもとへ向かった。


「あれ?紫杏がお酒を持ってきてくれたの?」


うなずくと、抱き上げられて、頭をなでられる。


「偉い、偉い!さすが、オレの子!」


「ダメツナが。紫杏に気安く触ってんじゃねえぞ」


「何言ってるんだよ。リボーン。オレの子なんだから、触ったっていいだろ」


「でも、ツナだけずるいのなー」


えっと…、何の話ですか??私、まだ、お酒運ばないといけないんだけど、な…。


「ところで、なんで紫杏が給仕なんてやってるんだ」


[いそがしそうだったから]


「あいつらの仕事だぞ」


「…[おてつだいしたかったから]」


「……」


言い方を変えたら、リボーンは黙ってまたお酒を飲みだした。私は、頭にはてなを浮かべながら、再び厨房へ行って、お酒を貰ってくる。


戻ってきたときには、、どういう経緯でそうなったのか、六道さんが、たけにいと笹川さんに肩に腕をまわされている。
そして、たけにいと笹川さんはそうとう酔っているのか、大声で叫んでいる。おもに笹川さんが。


それを見た、お父さんは笑っていて、雲雀さんは無関心、リボーンはニヒルな笑みを浮かべている。


「ほら!ツナも!」


「うわああっ!」


たけにいが、お父さんを引っ張って立たせて、やっぱり、肩を組んで、その揺れに参加させた。


六道さんが、一瞬だけど、その光景を見て、綺麗に笑った。


あ、写真と思った時にはもう戻っていて、いつもの含みのある笑いになっている。
でも、確かに、さっきは綺麗に笑っていて、いつもの、自嘲的で少しさびしげな笑みではなかった。


やっぱり、彼の周りも人がいたんだよ。手を伸ばしたら、掴んでくれる人が、いるんだよ。


「ん?どうした。紫杏」


リボーンが、六道さんを見て少し放心していた私に気付いた。私は相変わらずお酒を持っていて、それを取りあげて机の上に置くと、私を抱き上げた。


[ひとりじゃ、なかったよ]


雲雀さんが、しびれを切らして、大声で歌っていた笹川さんをトンファーで殴ったのを視界の片隅にとらえる。それをみて、六道さんと、たけにいは笑っていて、お父さんはおろおろしてる。


意味がわからずに、首を傾げてくるリボーンに、そういえば、お礼を言ってなかったな、と思う。


[いつも、そばにいてくれてありがとう]


ここにきてから、独りを実感することなんてなかった。独りでさびしいと感じることなんてなかった。お父さんたちが、配慮してくれていたから。
でも、きっと、リボーンはもうすぐ仕事に戻るから。


目を見開いて固まっているリボーンに、クス、と笑ってから、抱きつく。ほのかに香る香水のにおい。それに、リボーンの温かさが伝わってきて、安心する。やっぱり、ここは、このボンゴレは居心地がいい。
リボーンは、おそるおそるといった感じで腕をまわしてきて、ぎこちなくはあるものの、そっと私の頭をなでたり、背中をたたいたりしてくる。


そのリズムが心地よくて、私はリボーンに寄りかかったまま眠りにおちて行った。


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