酔いに任せ

「なあ、なあ、ツナ。久しぶりに飲まねえか?」


「何言ってんだよ。野球バカ!」


「うん、久しぶりにいいかもね」


「そうっすよね!十代目!」


うわーお。隼人の早変わりが面白い。あ、そうだ。今度隼人に犬耳としっぽつけた絵をかいてみよう。きっと、たけにいあたりが爆笑すると思う。
隼人はきっと、焦るか、怒鳴るかするだろうけど。


たけにいが、大きなキッチン、というか厨房から取り出してきたのは、ビールから、焼酎、ウィスキー、日本酒、ワイン、とにかくたくさんの種類のお酒を両手いっぱいに抱えて入ってきたのだ。


私は、リボーンから逃れてリビングでくつろいでいて、お母さんと一緒にお話しをしていた。おもに聞いてるだけだけど。


そんなときに、お父さんが来て、隼人が来て、ランボが来て、わいわいやっていたら、たけにいのご登場。それからは、夕食の準備をしていたシェフが、じゃあお酒に合うものをということで、夕食は飲み会、というか、宴?ということになった。


だから、いつものながーいテーブルじゃなくて、皆で囲めるローテーブルの周りに座って皆でわいわいがやがや。私には、シェフの人が考慮してくれて、お子様セットのようなものを作ってくれた。


しかも、珍しく雲雀さんもリボーンも一緒にテーブルを囲んでいる。雲雀さんは日本酒を。リボーンはグラスに白ワイン。ランボは赤ワインだ。
お父さんは、焼酎で、たけにいは日本酒。隼人とお母さんは、チュウハイだ。


リボーンと雲雀さんは、一人用のソファーにそれぞれ座って、何やら楽しげに、というか、黒い笑みを浮かべて話しあっている。お父さんとお母さんは二人がけのソファーに。私はローテーブルにご飯を置いて、そこで一人もくもくと食べている。
たけにいと隼人は、もう、どかっと床に座って、言いあいというか、いつもの掛け合いをしていた。
ランボは、私の後ろにある二人用のソファーで一人優雅にワインを飲んでいる。


私の今日のメニューはお子様セットならぬ、ハンバーグに、ご飯、そして、デザートにプリン。しかも、プリンにはかわいい旗が乗っていて、すごく懐かしいと思ってしまった。
というか、この屋敷に旗なんてあったんだ…。いったい、いつ使う予定だったんだろう?まさか、私がきたから、とか?いつも、皆と同じようなメニューしか食べてないのに。


やっと食べ終わり、一人手を合わせて心の中で御馳走さま。
後片付けをするために、皿を持って立ち上がり、厨房の方へ行く。


厨房へ、入ってお皿をそこの人に差し出す。ここのシェフさんは皆日本語をしゃべれないので、イタリア語だ。だから、私も話しようがないので、このまえリボーンに書いてもらった言葉をスケッチブックの中から探し出す。


[Grazie]


「Prego」


頭をなでながらそう言われた。前に意味を聞いたことがあって、たしかどういたしまして、だったはず。そのあと、その人は、近くにいた人に指示をだして、何かが入った皿を持ってこさせて、それを私に持つようにさしだした。


「?」


「È. bocconcini. Prendilo.」


何を言われたのかはわからなかったけど、とりあえず、もらったのだし、お父さんたちにもっていけばなんとかなるだろうと思い、うなずいて受け取った。お皿の中には、つまめるようなお菓子がたくさん置いてあった。クッキーとか、クラッカーとか、チーズもあって、おいしそう。おつまみかな?
そのあと、ちゃんと頭をさげて厨房を出る。


そこの部屋を傍からみたらすごい光景に、お酒の充満した匂い。すでに出来上がっているのか、どことなく顔が赤い彼ら。とりあえず、そこのローテーブルにおつまみをおき、お父さんに報告。


[こっくさんからの、おつまみ]


「紫杏、ありがとう」


ふにゃ、と崩れた笑みを見せたお父さんは、相当酔ってるんだろう。頬も赤くなってるし、ぽわーとしてる。その隣のお母さんも、顔が赤らんできているし、たけにいと隼人も頬に赤みがさしている。


でも、リボーンと雲雀さんは別に普通だった。


つまり、お母さんと隼人は弱くて、たけにいとお父さんが同じくらい、リボーンと雲雀さんがお酒に強い。ということかな?


そのまましばらくお酒を飲んでいる彼らを観察していたらドアがガチャと開いた音が聞こえてドアの方を見た。
そこには、今日一日いなかった笹川さんがいた。


「今帰ったぞ!」


「お兄さん!お疲れ様です」


「ああ。お?なんだ。今日は飲んでるのか!オレも飲むぞ」


そうして、笹川さんは、隼人とたけにいの輪に入って、隼人にどつかれながらも、たけにいが酌んだお酒を一気に飲み干した。
そして、笹川さんも入り、さらにドンチャン騒ぎに…。時計を見れば、もう10時だ。さすがに眠くなってきた。


「紫杏。来い」


床に座り、眠くてぼーっとなっていたら、いきなりわきに手を差し込まれて気づけばリボーンの膝の上。それに吃驚して眠かったものもふっとんだ。


「なにしてんだ?紫杏」


リボーンを見上げれば、いつもとあまり変わらないご様子。でも、雰囲気から、やっぱりちょっとは酔っているようで、いつもより上機嫌といったところ。
それに、口から吐かれる息は、やっぱり酒臭い。
思わず怪訝な表情をすると、喉の奥でクツクツと笑う彼。


諦めて、溜息をひとつつき、リボーンの体に寄りかかる。あ、そうだ。この光景、写真のとればいいんじゃない?なんか、皆いつもよりいきいきしてるし。と、思い立ったが吉日。日じゃないけど。


カメラはいつものテーブルの上に置いてあるはず。と思ってリボーンの腕から逃れようとするけど、逃れられない。
睨むように見上げれば、今度は不機嫌そうな表情をしていた。


「どこ行こうとしてんだ」


スケッチブックは今、リボーンに抱きあげられたときに床に落ちていたし、とりあえず机を指差す。
リボーンはその指先を追ってテーブルを見るが、ここからはテーブルの上にある小さなカメラが見えるはずもなく、もう一度私の顔を見てきた。
今度は両手の人差し指と親指で四角をつくり、口ぱくで“カ・メ・ラ”とすれば、カメラか。と呟かれたのでうなずく。


これで、降ろしてくれるだろう、と思っていたが、私を抱えている腕は離れない。どうやらそうもいかないらし…。
なんで…?


「獄寺」


「はいっ!なんすか?リボーンさん!」


あれ、隼人って、リボーンにも敬語なんだ。年下なのに??
隼人は、リボーンに呼ばれて、それはもう、さっきみたような犬の尻尾とか耳とかが見えそうな勢いで、素早く近寄ってきた。でも、やっぱり、その足元はおぼつかなくて、見ていてはらはらする。


「テーブルの上にカメラがあるから取ってこい」


「はい!」


シュタッ!といって、シュタッ!と帰ってきた隼人はそれをリボーンに献上するかの如く差し出したあと、笹川さんに呼ばれて怪訝そうに眉をしかめながらそちらへ行った。
あ、笹川さんも結構酔ってる。


「ほら」


差し出されたカメラ。電源を入れて、この光景をリボーンの膝の上から撮る。


「どうせなら、もっと後に撮れ。その方がおもしろいものが見れるぞ」


意味がわからなくて、リボーンを見上げれば、まさに悪役といった感じの笑みを浮かべていた。


「赤ん坊。今度僕と遊んでよ」


「俺は、もう赤ん坊じゃねえ。今は無理だぞ。紫杏の世話をしてるんだ。それがなくなったら、勘を取り戻すための運動にはいいかもしれねえがな」


「ふーん…」


え、私の問題ですか?雲雀さんがこちらを見てくるし、というか、雲雀さんは酔ってないのかな?さっきから、結構日本酒を飲んでるけど…。


「紫杏、おいで」


手招きをされ、え、と思いつつも、リボーンの腕からするりと抜け、雲雀さんの方へ行く。


雲雀さんは、目の前にきた私をじーっと見つめたあと、おもむろに抱き上げて、膝に座らせるとそのままギューっと抱きしめられた。


え、あの!?雲雀さん!?なんで、こんなことになってるの!?
後ろから抱きしめられている状態。それは、いつもリボーンとかにされているから、いいんだけど、相手が雲雀さんだ。普段なら絶対にそんなことしないような人だよ!?


「雲雀。いい度胸じゃねえか」


「フン、リボーンのものじゃないだろ?」


「お前のでもねえぞ」


「僕は、小動物が好きなだけさ」


いや、小動物って、雲雀さん。確かに、人間も動物だけど、動物ですけどね?仮にも雲雀さんは私のこと17歳だって知ってるわけで、それで、この状況ってどうなの?


そして、耳もとでそっとささやかれる言葉。


「君、もとは17歳なんだろう?もっと反応したらどうなの」


あ、この人楽しんでるんだ。というか、やっぱり息、酒臭い…。
というか、反応って…、現在5歳の私に何を期待するのさ。
そういう意味を込めて、見上げれば、深いため息を一つつかれた。


「ハア、つまらないな。もっとおもしろい反応期待してたのに。キスしてっていったときは、もっとおもしろい反応だったのに」


その言葉に、反応したのは、私よりも周りの方だった。もちろんリボーン以外。
他のみんなが、一斉に私の方を向く。私というより、雲雀さんかな?


「あれ?赤ん坊は反応しないのかい?」


「赤ん坊じゃねえっていってるだろ。俺は紫杏から聞いたからな」


「はああ!?ちょ、リボーン!それに、雲雀さんも今の、どういう意味!?」


「どういう意味も何も、そのままさ」


って、雲雀さん、完全に楽しんでるでしょう…。もう、どうしようもなくて、私は雲雀さんの腕から抜け出して、一番安全そうなお母さんのもとへ行き、その隣に座った。
お母さんも、顔を赤らめていて、目がトロンとしている。そう、トロンとしているの。なんか、いつもより、目じりも下がっていて、焦点が会ってない感じ。


「雲雀さんにキスしたの?」


面白そうに聞いてくるお母さんに首を横に振る。目の前では、雲雀さんに詰め寄ってるお父さんと、それを見て大笑いしているたけにい、笹川さん。それに、おろおろしている隼人。リボーンは知らん顔でお酒をまた飲んでいる。


[いわれたけど、してないよ]


「なんだ。そうなの?」


クスクスおかしそうに笑うけど、お母さんはわかっていたのかもしれないなーとかっておもった。


「紫杏!本当にキスしたの!?」


え、いつのまに、そんなに取り乱してるの?
肩をつかまれ、がくがくと揺すられて答える、というか、書く暇がない。


「おやおや…、すっかりできあがっているようですね…」


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あきゅろす。
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