赤面に不満

さて、次は誰をとりにいこうかなー。今まで撮ったものを見ながら、歩いていれば、いきなり抱きあげられた。


「!?」


「紫杏!何してるの?」


その声は、お父さんのものだった。振り返れば、お父さんの鷲色の目と目があった。その目はとても楽しそうだった。


[おかあさんは?]


「んー?執務室じゃないかなあ。麻依に何かあった?」


首を横に振る。あれ?でも、お父さんってこの時間帯っていつも仕事じゃなかったっけ。


[おしごとは?]


「………」


お父さん…。今、明らかに目をそらしたよね?また、お母さんに怒られるよー。


「あの、書類の量からは逃げたくもなるから…」


あー、あの、机の上に山積みの書類ね。うん。あれは大変そうだと本当に思う。


「あー、紫杏は癒される。うん」


ぎゅーっと抱きしめてくるその腕に、少し苦しくなりながらも、まんざらでもない。
だって、やっぱり、うれしいし。


「あー!いた!綱吉!また逃げ出して!」


「げっ、麻依」


「しかも、紫杏ちゃんと一緒とか!何それ!ずるいじゃない!」


するするとお父さんの腕から降りて、その二人の痴話げんかを眺める。お父さんに詰め寄るお母さんは、きっとこの中で最強なんじゃないかなー、なんて思ったり。お父さんがボスだから、その上を行くんだし。


そっと、カメラのスイッチを入れて、そんな二人の様子を写す。


パシャ


「「!!」」


写真には、廊下で詰め寄っているお母さんと、それにたじたじのお父さんが写っていた。


「紫杏!?何、そのカメラ!しかも、何写してるんだよ!」


「わー、随分古い型だね。どうしたの?」


[りぼーんにもらった]


「へー。見てもいい?」


お母さんに写真を見る設定にして渡す。


「ハハハ、綱吉、たじたじ」


「…かっこ悪いなあ…」


頭をかくお父さんにお母さんはクスクス笑いながら次々と見ていく。


「わー!懐かしい!見てみて、これ。綱吉が高校入学のときの写真だよ!ほら、これなんて、リボーン君に蹴られてる」


「うっわっ。そんな写真、まだあったんだ…。皆若いなあ…」


いやいや、お父さんたちは今でも十分若いと思うけど。だって、24でしょ?若いよ。十分。


「あと撮ってないのは…リボーン君とお兄さんと骸さん?」


[うん!りぼーんはいまからとりにいくの]


「そっか。リボーンは部屋じゃないかな?」


シュタッ!と手を挙げて了解の意を示し、そのまま手を振って別れを告げた。向かうはもちろんリボーンのところ。


あ、でも、仕事中なんじゃないかな??いいかな〜、ま、いっか。ということで、部屋の扉をノックしてみる。


「誰だ」


え、入っていいのかな?これ、答えられないし…。声出せないし。
ってことで、背伸びをしてドアノブをつかむと、そっとまわしてつま先立ちのままドアを押す。


「?…ああ、なんだ。紫杏か」


たぶん、普通の子よりも背の低い私。こういうときに、本当に子供って不便だと思う。大人しかいないからって、大人用にドアとかも作られていて、高さが割にあわない。そのせいで、ぎりぎり届く取っ手では、とても扉を開けにくい。しかも、重いの。この扉。


「どうした。写真をとりにいったんじゃないのか?」


[つぎは、りぼーんだよ]


「……」


あ、リボーンって写真撮られるの嫌いなのかな?
執務ようの机に、常務用の回る椅子に座っているリボーンに近寄れば、どうやら、報告書か何かをかいていたようで、万年筆と数枚で束になっている紙が置いてあった。
リボーンの部屋は、シンプルで無駄な物がほとんどない。それに、色も少なくて、黒とかが多い。


「なんだ。もう全員撮ったのか?」


うなずきながら、カメラを差し出せば、ピッピッと操作をして、撮ったものを見ていく。しかし、ある写真でその動きを止めた。
リボーンの顔を見てみれば、わずかながらに眉間にしわが寄せられている。つまり、何か不快な写真があったってことなんだろうけど…。そんな変な写真とったっけ?


そう思いながらも、リボーンの腕につかまり写真を覗き込もうとしたら、そのまま抱き上げられて降ろされたのは、リボーンの膝の上。
吃驚してリボーンを見上げれば、先ほどの表情はなく、ニヒルな笑みを浮かべた顔だけだった。
あれ?なんか、やばくない?


「この写真。なんで、紫杏はこんな顔してるんだ」


デジカメの画面を見せられて、そこに写ったのはさっき雲雀さんととった写真だった。なんでって…。


どう説明していいかわからずにあたふたしていると、紫杏と呼ばれて諌められる。


「しかも、何抱きしめられてるんだ」


そ、それは…、雲雀さんにしかわからないんじゃないかとっ!


[しらない!]


「ほう…?大方、何か言われてからかわれたってところだろうけどな」


うっわ…。ばれてる。
まるで見ていたかのようにズバリと言い当てられてしまって言葉に詰まった。


「で?何言われたんだ」


え、これって、言うべき?言うべきなの?写真を撮る条件に頬にキスしろって言われたーって?そんなの言えるわけがない!恥ずかしくて顔から火が出ちゃうよ!
あ、でも、これって使えるかも?


[じゃあ、じょうけん!]


「条件?]


[はなしたら、しゃしんとろ?]


もっと、ちゃんとした言葉で言うと、話すかわりに写真を撮らせろってこと。


「5歳児が条件なんかだしてんじゃねえ」


むっ。5歳児じゃないもん!5歳児だけど…。いや、でも、中身は17歳だし。つまり、精神年齢は17歳のはずだし…。だったら、やっぱり、5歳児じゃないよ!
というか、リボーンだって11歳のはずじゃん!


[じゃあ、いわない!]


「ククッ、誰もその条件を飲まねえとは言ってねえだろ」


おっ!撮ってくれるんだ。


「だから、言ってみろ」


あ、この条件だしたの間違いだったかもしれない…。結局私が一番恥ずかしいんじゃないか?


「………[しゃしん、とるじょうけんで、ほほに、きすしろ、って]…」


「……したのか?」


勢いよく首を横に振る。するわけないじゃん!つ、付き合ったこととかないし…。そんなの、はずかしすぎる。第一、ここの人たちは皆、美形なんだから!
というか、私、今5歳だからね!雲雀さんは事情知ってるにしても、そんなことでからかう必要なんてないのに!


というか、言った!言ったんだから、写真撮ってもいいよね?


[しゃしん!]


「なんだ。話を逸らすのか?」


そらすもなにも、絶対に面白がってるでしょ!くいっと顎の下に添えられた指が、私の顔を上に向かせた。予想以上に近い距離に焦る私に、リボーンは珍しいぐらいに笑みを見せている。
というか、近い!ただでさえ、美形なのにっ!


「ククク…。顔が赤いぞ。紫杏」


フイっと顔を逸らして俯かせる。絶対に楽しんでる!だって、まだ上でリボーンが笑ってるもん!


じたばたと暴れてリボーンの拘束から逃れて逃げ出そうとするが、それは部屋を出ようとドアノブに手を伸ばしたところで、いきなり体が持ち上げられた。
体が小さいって悲しいっ!


「フッ…、紫杏は小さいな。写真はもういいのか?」


[からかうもん]


「クク、悪かったな。ほら、撮るんだろう?」


頭を撫でられて、しかも、彼にしては珍しいほどの普通の笑顔が見れて不覚にも、機嫌が直ってしまった。


コクンとうなずき、そのまま部屋にあるソファーに座らされる。私は、そのままリボーンの膝の上。
あれだよね。大分慣れてきちゃったんだよね。皆に抱っこされたり、膝の上に載せられたりするの。


「ほら。撮るぞ」


リボーンを見れば、腕を伸ばして、カメラをこちらに向けていて、私はあわててカメラの方を向き、ピースをする。


パシャと音がなって、同時にたかれるフラッシュ。


リボーンは今撮ったのを見て、クスと笑う。


「写真を撮るときまで無表情か」


「?」


よくわからなくて、首をかしげると、なんでもないぞといってカメラを返してもらった。私も見ると、いつも通りの私。というか5歳の私と、ボルサリーノを深くかぶり、顔を見えないようにしているリボーンが写っていた。
むう、結局リボーンの顔は見えないし。


「なんだ。不満か?」


わがままを言う訳にもいかず首を横に振る。さて、これで、一応今いる人全員撮れたよね。


あとは、笹川さんと、六道さんなんだけど…。笹川さんはともかくとして、六道さんは撮らせてくれないかもな…。


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あきゅろす。
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