次に、紫杏が訪れたのはもちろん雲雀のところだった。 雲雀さんのところは、やっぱり不思議で、中に入ったら知らない人に会った。しかも二人組。やば、どうしよう…。あ、でも、お父さんってここのボスだし私のこと知らないかな…? 「È.? Lo facevo come? Un bambino di qualcuno(ん?どうしたんだ?誰かの子供か?」 イタリア、語…、外見から見ても、確かに日本人じゃないけど…、どうしよう、日本語しかわからないし、何言ってるかわからない。それに、ちょっとトラウマなんだよね…。 「Poi io ero ad una perdita qui e non mi fui accalcato?(じゃあここに迷い込んだんじゃないですか?」 「Lo riporti ad un presidente?(委員長に報告するか?」 「Poi noi o questo bambino è bitten a morte.(それじゃあ、オレ達かこの子が噛み殺されますよ」 そう言った部下の人は、それを思い出したのか顔を青ざめさせて身震いした。もう一人の部下はそれに苦笑する。 あー、このままだったら、ここから追い出される?でも、雲雀さんに会いたいしなあ。別に大した用事があるわけではないし、でも、写真撮りたいし。 二人は何かを話し合った後、私の方に向き直ってしゃがみこんだ。私は一歩後ずさりする。 二人は何かを言ってきているけど、私にはもちろん伝わらない。今度、誰かにイタリア語を習うべきだと本気で思う。でも、とりあえず、今は、怖いっ。 子供になってから、感情を抑えるのがへたくそになった。感情の起伏が激しくて、自分じゃどうにも抑えられない。 雲雀さんの部下だ、ということはわかっているけど、怖くて体が思うように動かない。伸ばされた腕から逃れようと一歩、一歩後ずさる。 二人は顔を見合わせた後、何か少し話して立ち上がり、一人の人が両手を伸ばしてきた。 その手から逃れようろ、震える体に鞭をうち、相手の間をすり抜けて走る。一度来たことがあるからどこに雲雀さんの部屋があるかはわかっている。 「Un nipote! Aspetta! Ehi!(おい!待て!こら!」 後ろから追ってくるのがわかる。でも、私は後ろを振り返ることなく全速力で廊下を駆け抜けた。 ここを曲がったら雲雀さんの部屋だ!そう思って勢いよく曲がったら、いきなり誰かに抱きかかえられた。 一気に高くなる視界と浮遊感に驚いていると、後ろから追いかけてきた人たちの上ずった声が聞こえる。 「Un presidente!(委員長!」 「È il coraggio che è buono correre in te, il corridoio. Mancanze esso per essere soppresso?(君たち、廊下を走るなんていい度胸だね。噛み殺されたいのかい?」 この声は!!雲雀さんだ! 私はそのまま抱きかかえられて、雲雀さんの洋服にしがみつく。安心感に身を包まれながらも、また思い出されて体が震える。やばっ、このままだったら雲雀さんに伝わっちゃう…。 それが嫌で、抱っこされている状態から降りようとじたばたと暴れて雲雀さんの体を押すけど、離す気はないとでも言うように背中に当てられている手に力が込められた。 でも、どこか安心している自分がいるのは確か。えっと、守護者、だっけ?の人たちは安心する。でも、やっぱり一番はお父さんとお母さんかな。 あ、リボーンのそばも居心地がいい。 「È rapidamente ritorno Rina nel posto. Io sono ostruttivo.(さっさと持ち場に戻りなよ。目障りだ」 雲雀さんが再び何かを言うと、部下の人たちは情けない声を上げながら去って言った。 そして、上から聞こえる溜息。 ビクっと体が揺れたけど、雲雀さんは気にしていないと言うようにそのままの状態で歩き始めた。遠ざかっていく光景から、たぶん雲雀さんの部屋に向かっているのだろうと思う。 あー、それにしても、あれは私にとってかなりトラウマだったようだ。 確かに、あんな、いきなり変な場所にいて、なぜか子供になっていて、さらには、よくわからない男の人に銃をぶっ放しながら追いかけられるなんて経験そうそう、しないもん、ね。 また、その時の光景を思い出してしまってぎゅっと雲雀さんのスーツを握る。あ、しわになっちゃうかも。雲雀さんごめん。 ふすまが開けられる音で、部屋についたことが分かった。鼻をくすぐる畳の匂い。 「ハア、いい加減泣きやんだらどうなんだい?仮にも17なんでしょ?」 仮にもってなんだ、仮にも、って。れっきとした17歳さ。なぜか5歳に戻ってるけど。精神年齢は17歳だ!と、…信じたい。 涙でぬれた顔を自分の手でごしごしと拭うと、腫れるよ、と言われた。 [こどものすがたになってから、かんじょうが] 「ふーん、まあ、どうでもいいけどさ。今度はちゃんと僕の名前だしなよ」 こくんとうなずき、やっとおさまってきた涙を拭って、鼻をぐすっとならす。 あー、泣いちゃう気なんてなかったのに。本当に、5歳になってから、感情の起伏が激しくなったというか、抑えれなくなったというか。この前だって、リボーンの前で雷のせいで泣いちゃったし。 いつもなら耳をふさいで、布団の中に潜ってれば一人でも平気なのに。…慣れてきちゃったからかな? 「で?僕になんの用?来たからには何か用があったんでしょ」 あ、そうだった。忘れるところだった。 手に持っていたカメラを雲雀さんに見せる。 「…ずいぶん、旧式のを持ち出してきたね」 胡坐をかいて、座っている雲雀さんは、膝に肘をついて、そこに頬を載せてこちらを見てくる。和の部屋にスーツ姿の雲雀さんって、なんか、あってないようであってるよね。あ、でも、やっぱり和服の方がこの部屋にはしっくりくる。 [しゃしんとらせてください] 「……条件付きならいいよ」 条件、ってなに?? 雲雀さんをおそるおそる見てみると、ニヒルな笑みを浮かべて私のことを見ていた。 「キスしてくれたら、ね」 そういいながら、自分の頬をトントンと叩く雲雀さんに、私は思わず数歩後ずさってしまった。拒否されるとは思っていたけど、まさかこんな条件が付きつけられるなんて思ってなかった…。 「で?どうする?」 さも、おもしろいというように笑いを含んだ物言いで、これは、私のことを試しているんじゃないだろうか。 え、どうするって、他に選択肢無し?しなきゃいけないけい?いや、頬だからいいのか?いや、ダメだろ。え、別によくね?雲雀さんのところに来た時はいつも混乱してばかりだ。 目を見開いたまま固まって、頭の中でもんもんと考えていると、いきなり腕をひかれて前のめりになるも、行きついた先は雲雀さんのスーツだった。 「ねえ、するのしないの?」 上を見上げれば、かなりの至近距離に雲雀さんの顔。そして、面白そうに吊り上げている口元で、雲雀さんがこの状況をかなり面白がっているということは一目瞭然だった。 私は、すぐには言葉とかが出てこなくって、口をパクパクと金魚のように開けたり閉じたりしている。っていっても、声なんてもともと出ないんだけど。 徐々に状況を理解するとともに、顔に熱が集まってくるのも分かった。 「クククッ…、君でもそんな表情できるんだ」 肩を震わせて笑う雲雀さんはおもむろに、私の手に握られていたカメラを取ると、自分の方に向けて、カシャっと撮った。 「ま、キスは冗談だしね。珍しい表情見れたんだし、サービスしてあげるよ」 え、何それ!?つーか、遊ばれただけだったりするのかな!? 「ほら、もう行けば。僕もまだ仕事があるからね」 あ、そっか… [おじゃましました] ??あってるけど、なんでこんなにも違和感を感じる言葉をかいてるんだろう…。なんか、もう、当初の目的とは大分変わっちゃった気がしなくもないんだけど…。 雲雀さんのところを出てから、さっき撮られた写真を見てみた。 そこに写っていたのは、雲雀さんを見上げて顔を真っ赤にしている私と、めちゃくちゃニヒルな笑みを浮かべている雲雀さん。それにいつの間にいたのか、後ろの縁側に続く場所にヒバードがとまっていた。 本当に、いつの間にいたの。ヒバード…。 なんか、雲雀さんのところに写真を撮らせてもらいに行っただけなのに…。なんで、こんなにも時間が長く感じられたんだろ…。そういえば、あとは…、お父さんたちと、リボーンと、笹川さんと、六道さん?かな? |