「紫杏、骸のとこに行くのか?」 出て行こうとしたら、リボーンに声をかけられた。というか、なんでわかったのかな?とりあえずうなずいておけば、なぜか微妙な表情をされた。その表情に首をかしげる。 「いや、なんでもねえぞ。気をつけていけ」 そう言って、頭をなでられた。何に気をつければいいのかな? とりあえず、また書庫に向かう。意外と面白いところだったし。行ってみれば、また六道さんがいた。よかった。いなかったらどうしようかと思ってた。 また、ちらりと見られただけで、視線を戻してしまった。 今日は、ここで絵を描こうと思って。 ついでに、六道さんに許可も取るために膝を叩く。そうすれば、ちらっと向けられた視線。 [ここで、えをかいてもいいですか?] 「…僕に許可をとる必要が?」 [いちおう] そう書けば、溜息をつかれ再び視線を本へと戻された。 「好きにすればいい」 それだけ言われたので、じゃあ好きにしよう、とそのまま六道さんの座っている隣に座り、絵を描き始める。 最近、あまり書いてなかったし、絵具がないから全部鉛筆の白黒。 さっき、見た本を読んでいる姿の六道さんを思い出して描いていく。 そういえば、なんで六道さんの瞳って赤と青なんだろう…。あれって、確かオッドアイって言うんだよね。それに、赤い瞳の中に六って書いてある。藍色の髪だし、日本人って顔立ちじゃないよね。イタリア人なのかな?それとも、別の? というか、この屋敷ってイタリアなのに日本人が多いよね。 絵が出来上がった。椅子に座り、本を読んでいる骸さん。背景は無し。骸さんはもしかしたらすごいどこかの御曹司とかなのかもしれない。すごく、優美な動作をする。洗練されたというか、自分の魅せ方を分かっているかのようだ。 「……そんなに見られると読みにくいんですがね」 「!…[すいません]」 「いえ。絵は描けましたか」 [ろくどうさんです] さっき描き上がったばかりの絵を見せれば、面白そうに口元を歪めたままその絵を見た。 「クフフ…。本当に、奇異な能力だ。上層部が欲しがるのもうなずけはしますね。…マフィアの考えることなんて想像もつきませんが」 六道さんもマフィアじゃないのかな?そう思ってしまったけど、もちろん、伝えることはしなかった。 そして、やっぱり、クフフと笑う六道さんは、私にはさびしそうに見える。 [ろくどうさんのめはなんでオッドアイなんですか?」 「……、この目、ですか」 とても、きれいな青と赤。二つの相反する色。すごく、きれいだと思うのに、六道さんは、赤の瞳の方を右手で覆い隠してしまった。青い瞳はどこを見るでもなく宙をさまよっている。 「これは、六道輪廻というものです。憎きマフィアからのプレゼントですよ。血の、ね。クフフ…」 血?血にしては鮮やか過ぎるだろう…。どちらかと言えば、沈みゆく太陽のような…。赤でも、紅でもなく、朱といったところだと私は思った。…それもやっぱり違うのかな。その瞳を赤と区切ってしまうにはもったいないほどのきれいな色だと思う。 「さあ、お話は終わりです。僕は静かに本を読みたいんです」 目に当てていた手をほんのページをめくるのに使い、さっきまでのさびしそうな、哀しそうな瞳なんて嘘だったかのように平然とした表情となり、そう言われた。 この人は、表情を偽るのが上手い。 きっと、傷つくことがあっても、平然と笑っているのだろう。表面では。 でも、きっと、お父さんなら気づいちゃうんじゃないかな?そういう隠していること、とか、本当の気持ちとか…。これは、なんとなくだけど。お父さんの瞳は人の心を見透かしているように見える。 [じゃあ、またあした] 「……明日は僕は任務ですからいません」 [いつかえってきますか?] そう、聞けば、ハア、とめんどくさそうに溜息を洩らされた。そ、それでも、負けないよ! ろくどうさんは、人を突き放す。一人でいようとする。それは、なんだかとても寂しかった。 「さあ、いつでしょうね」 [かえってきたら、またおはなししませんか?] 「…どうして、貴女は僕にまとわりつくんですか」 [おはなし、してみたかっただけ] 「なら、もういいでしょう」 おお!何気に会話になってるよ!すごくない!? なーんて…。もう、六道さんに対しては、私はポジティブで行くことに決めた。 そっけなく、返す六道さんは私から目をそむける。 一つの大きな窓の外から隼人とたけにいと笹川さんの声が聞こえてきた。隼人は怒っているみたいで、笹川さんもそれに対抗している。で、たけにいの笑い声が響いていた。 六道さんがそちらに目を向ける。 横を向いたことによって、私からは青い瞳だけが見える状態になった。その瞳が、細められた。 その瞳が、やっぱり私にはさびしいと、あの光景がうらやましい、と言っているようにしか見えない。 私も、知っているから。孤独を、置いて行かれる寂しさを、そして、幸せな者たちを見る羨望の眼差しを。 どうしても、伸ばせなかった手。つかめなかった物。それは、計り知れないもので、手を伸ばすことに畏縮してしまう。 思い切って伸ばしてみれば、意外と近くにあったりするのに。 私が、そうだったように。 真っ暗な中でも、畏縮して手を伸ばさないのであったら、たとえばそれが手の届く範囲にあったとしてもわからない。だから、手を伸ばしてみなくちゃいけない。もしかしたら、案外近くにあって、すぐに手が届くかもしれないから。 [さびしい、ですか?] 「……なんのことですか」 [さびしい、ですか?] そのまま、言葉を見せたまま見つめる。見つめ返される瞳は、オッドアイ。 「僕が、さびしい?何をいってるんですか。貴女は」 [わたしもね、さびしかったの] 「?」 [まえはね?でも、もうさびしくないんだよ。おとうさんとおかあさんとりぼーんとみんながいてね。さびしくないんだよ] 「………、知りませんよ。そんなこと」 [にてるな、っておもった。てをのばせば、とどくのに。あんがい、ちかくにあるんですよ] 「……何が言いたいんですか」 [にんむ、きをつけて、いってらっしゃい] そのまま、いい逃げのように書庫から出た。六道さんの見開かれた目。何について、そんなに驚いたのか、私にはわからないけど、でも、伝わっただろうか…。私がいいたかったこと。 「紫杏、こんなところで何してんだ?骸のとこじゃなかったのか」 [さっき、いってらっしゃいって、してきたとこ] 「ああ、あいつ、任務だったな」 [にんむ、りぼーんもいくの?] 「……紫杏がこの屋敷に慣れてきたら行くぞ」 [けがしない?] 「!…フッ、俺を誰だと思ってるんだ?」 帽子をすこし下げて、口元に笑みを浮かべたリボーンは自信に満ちているようで、安心した。彼が言うことは信用できる。それは、彼が憶測などで過剰な物言いをしないからだ。 「さっき、麻依がお土産だっつってケーキ買ってきてたぞ」 [たべたい!] 「ああ。行くか」 心なしか、うれしそうな表情をする紫杏を見て、リボーンは目を細めた。 |