なぜか、順番にだいたいの人と話せた。それでわかったことは、リボーンとお父さんお母さん以外の人たちが守護者っていうらしいこと。 で、たけにいは野球が好きで、お兄ちゃんみたい。 隼人は、ツンデレで、お父さん命な人。 笹川さんは、ボクシング大好きで極限が座右の銘の熱い人。 雲雀さんは意外と小動物好きで、何気に優しい。 ランボは大人になったり子供になったり。しかも、泣き虫。今も泣き虫。 リボーンは、すごくめんどうを見てくれるし、優しい。 六道、さん…。は全然話したことがない。 話す機会がないというか、避けられているというか…。 だから、今日はお父さんに六道さんについて聞いてみよう!ということで、お父さんの執務室に来てみた。 なんというか、どうせだから、ちゃんと皆さんと仲良くなっておきたいな…という。 …調子に乗ってるのかもしれないけど。 ドアをノックすれば中からお父さんの声。背伸びしてドアノブをつかみ、ドアをゆっくりと開ける。 中には、お父さんしかいなくて、今日はお母さんはいないみたい。お母さんはお父さんの秘書みたいな感じらしい。書類の整理したり、お茶を入れたり…。 「あれ?紫杏。どうかしたの?」 [いまへーき?] 「うん。ちょうど休憩にしようとしてたところだから」 立ち上がったお父さんを見てから、部屋に入る。ソファーに座っていたらお父さんがジュースを出してくれた。 「で?どうしたの?」 [ろくどうさんってどんなひと?] 「骸?どうして?」 [ろくどうさんとだけはなしてないから] 「うーん…。骸は人嫌いだからね…。あれでも優しい奴だよ」 [わたしもきらわれてる?] そう聞けば、ニコッと笑って頭をなでられた。 「骸と仲良くなりたい?」 うなずく。どうせなら、仲良くなりたい。それに、あの人はなんだか寂しそうだ…。 [ろくどうさんはさびしそう] そう書けば、お父さんは目を見開いた。 [ないてるみたい] 「…そっか。…どうして、そう思ったの?」 どうしてそう思ったんだろう?すごく、さびしそうに笑ってて、笑ってるのに、寂しそうで、泣きたそうで…。 誰かに似てた。 ああ、そっか。 「紫杏?」 [ママとおなじめをしてるから] ママもパパがいなくなった時、同じ顔してた。とても、さびしそうに。泣きたいのに泣けないみたいな、顔。私にはどうにもできなくて、励ますことも、慰めることもできなくて、そんなママをずっと見てた。 ママはずっと笑ってて、壊れそうだと思ったら…、本当に壊れちゃった。 「ママって…、本当のお母さん?」 うなずいてから気づく。そういえばお父さんに本当の両親のことを話してなかった…。話せないけど。 「そっか…。紫杏のお母さんってどんな人?」 どんな人だっただろう…。 昔は、よく笑ってくれていた気がする。 でも、ここ最近はそんなに笑ってなかった。というか、会うことの方が少なかったけど。会えば、殴られたり罵声を浴びせられたりで、会話らしい会話なんて無かった。 [おぼえてない] 「?そっか…」 話すのが嫌で、そこから立ち去ろうとすれば、お父さんに呼び止められた。 「紫杏!骸ならきっと書庫にいるよ」 [ありがと] お父さんの部屋を出てから、書庫へと向かう。書庫は確かここから結構遠くにあって、ほとんど人が通らない場所だったはず。 中をのぞいてみれば、天井まである棚にびっしりと入っている本、本、本。そして、そんな本に囲まれた真ん中に大きな机があって、その机の横には、ソファーとローテーブルがある。 そのソファーの方に六道さんがいた。 長い脚を組んで本を読んでいる。音をたてないように中に入って、その様子をしばらく見ていると、ちらっとだけこちらを見た。しかし、すぐに視線を本へと戻してしまった。 追い払われないってことは、いてもいいのかな? とりあえず、本を見て回る。首が痛くなるほどの高さにも本があって、私には到底届きそうにない。それに、何語かわからないけど、いろいろな国の言葉の本があるみたいだ。中にはちゃんと日本語もあったけど。 一通り見て回って、日本語の小説みたいなのを見つけたからそれを手にとって、とりあえず六道さんの向かいのソファーに座った。 ちらっとだけこっちを見たけど、すぐに視線は本の方へ戻ってしまう。 スケッチブックを横に置いて小説を読み始めた。 小説を読むのは久しぶりだった。 こっちに来てからは初めてだ。 座って読むのが疲れてきて、ソファーに横になる。六道さんをちらっと見ると、何か分厚い本を読んでいて、しかも、どこかの国の言葉。たぶんイタリア語、かな? なんて書いてあるのかは読めない。今度、リボーンにイタリア語でも教えてもらおう…。 そんなことを思っていたら、横になっていたせいか、いつの間にか視界はシャットアウトしてしまっていた。 「おい、紫杏。起きろ」 「……」 目の前にはなぜかリボーン。あれ?ここどこだ? 気づけば、なぜかそこは私の部屋。でも、確かに私は書庫にいたはずだ。ついでに六道さんと。なのに、なんでリボーン?しかも、なんで私の部屋? そんな私の疑問に気付いたのか、リボーンが説明してくれた。 「書庫でお前が寝ているのを見つけて連れてきたんだぞ。それに、もう晩飯だ」 おお、もう、そんな時間なんだ。 [ありがと] 「?何がだ?」 [はこんでくれたから] そう書いて見せれば、リボーンは口元に小さく笑みをつくって頭をなでてくれた。 「ほら、さっきツナが心配してたぞ。さっさと行くぞ」 まだ、眠気が覚めない目をこすり、コクリとうなずいてからベッドから降りる。 ああ、そういえば、六道さんはいなかったのかな。 でも、聞くのがなんとなくめんどくさくて、手をひかれるままに夕飯を取りに向かった。 *** ツナに聞いて紫杏を書庫に迎えに行く途中、骸にあった。 屋敷内で顔を合わせても、ほとんど話すことなんてないという今の状態。もちろん今回も話さずに終わるだろうと思い、すれ違おうとしたときだった。 「アルコバレーノ」 「……なんだ?珍しいじゃねえか」 「いえ。ただ、世話係ならしっかりと監視しといてもらいたいと思いましてね」 「…監視?紫杏をか?」 「クフフ…、ずいぶんと入れ込んでいるようですが…。黒の死神と謳われた貴方が堕ちたものだと思いまして、ね」 「…気になるか。紫杏が」 「気になる?僕がですか?クハハッ!面白いことをいう。僕はただ、目障りだと思いまして。僕には近づかないように言っておいてください。ガキは、マフィアの次に嫌いだ」 あざ笑うようにそういう骸はそのまま通り過ぎ、どこかへ行ってしまった。 「お前が、一番救われるかも知れねえぞ」 お前もマフィアだろうが、という言葉は心にしまったまま。 ツナに聞いた。紫杏が骸を寂しそうだといったらしい。それを言おうかと迷ったが、結局言わずに終わった。 お前の心は未だ闇に凌駕されたまま。 俺と骸は初めから闇の世界にいた。生まれた時から闇の世界で生きてきた。 ツナたちとは違い、光の生活を知りながら、身を置くのはいつでも、いつまでも闇の世界。闇の世界が心地いい。 罪悪感なんてものはない。初めから、今までも。そんなものこの世界において、必要なものではない。 それでも、闇に侵食されるのは、光に包まれるよりも早く、登るのはつらく落ちるのは簡単だった。 でも、紫杏は手をつかんできたから。垣間見た光は闇にいて見えなくても、傍らにあると感じられる。 罪悪感はないにしろ、体の何かが軽くなった気がした。 「フッ…、堕ちた、のかもな」 [だいじょうぶ?] 袖を引っ張られる力を感じ、下を見てみれば、そんな言葉が書いた紙と俺を見上げてくる目があった。どうやら、ぼーっとしていたらしい。 「ああ、心配いらねえぞ」 大分、この屋敷に慣れてきた紫杏を見て、そろそろ職場復帰か、と頭をよぎった。 射撃練習しとかねえといけねえな。最近してねえからなまっちまってるかもしれねえ…。 まだ、心配そうに見つめてくる瞳があったので、安心させるように、抱き上げてみた。 温かいぬくもりに触れて、そのまま顔を見られないように、紫杏の頭を肩にやり、歩く。そうすれば、紫杏の手も俺の背中に回って、小さな手がなでるように、背中を動いた。 「…俺は大丈夫だぞ。紫杏。…骸と仲良くなれればいいな」 紫杏を抱く手に少しだけ力を込めて歩きはじめる。帽子にのっているレオンが紫杏の顔があるほうと反対側の肩に移り、紫杏の手をなめている。 それに、紫杏の体は揺れた。笑っているんだということに気付いたのはそれから少ししてからのこと。 そういやあ、なんで紫杏は声が出ないんだろうな。今度シャマルにでも、見せてみるか…。 |