今日は、リボーンから部屋をでるのかと言ってきた。どうやら私が勝手に部屋を出ていく行為にたいして諦めたみたいだった。なので、私はちゃんとリボーンの許可をもらって部屋を出た。いろいろと注意事項を聞かされて。 「いいか?知らない奴がいたら近づくなよ。あと、なんかあったらとにかくその辺のもの投げろ。それで全力でダッシュしてここまでこい。わかったな?」 え、まって何かって、何があるんですか…っ!不安になって、リボーンを見上げるも、彼は表情を変えることはない。 「それと、雲雀にはあまり近づくな。いいな?」 その目が真剣だったから、とりあえずうなずいた。今まで歩いてても雲雀さんと出くわさなかったし、たぶん雲雀さんの部屋の方に行かなかったら会わないでしょ。 でも、なんで近づくな、なんて…。 いや、怖いんだけどね。 やっと離してもらえて、部屋から出た。どこへ行くともなしに足を進めていく。真っ赤な絨毯は、裸足の足には心地よい。 「ねえ、君」 にしても、この広い屋敷で雲雀さんとかに会う方が珍しいんじゃないかな? だいたい、雲雀さんだって、こんな子供にわざわざ声をかけたりしないだろう。彼自身も言っていたけど、群れるのを嫌いみたいだし。咬み殺すとも言ってたっけ。咬み殺すって、本当に咬みつくのかな? 「ちょっと、無視しないでくれる?」 ぐいっと後ろから手首をつかまれそのまま回れ右をさせられた。そして、目の前にいたのは不機嫌そうな雲雀さんだった。 「僕のことを無視するなんて、咬み殺されたいの?」 さ、さっそく出会っちゃったっ!なんというか、ベタな展開…。というか、リボーン!雲雀さんに会っちゃった場合はどうすればいいの!! 会うなといわずに、会った時の対処法も教えてほしかった…。さすがに、周りの物を投げるわけにはいかないだろう。というか、周りに投げれるようなものなんて何もないんだけどね。 「ハア、まあいいや。それより、君に話があるんだ」 なんか、学校での呼び出しみたいだ…。 「ついてきて」 [りぼーんが] 「赤ん坊が?」 あ、でも、リボーンのせいにしたら、あとでリボーンが怒るかな?そう考えて、雲雀さんについていくなって言われたという言葉を書きかえる。 [おやつのじかんにはかえってこいって] 「…ふーん。大丈夫。僕のところでもおやつを出してあげるから」 え、そういうもんだいですか!?違くない?え、そういう問題で、いいの、かな??混乱してしまった頭では反論することもできない。 「ほら、おいで」 そう言われ、気づいた時にはもう雲雀さんに持ち上げられていた。これって、もう強制的だよね。怒らせるのも怖いのでとりあえず大人しくしておく。それに気をよくしたのか、彼は頭をポンポンとなでてくれた。 はい、なぜ今、私はこんなことになっているのでしょうか。 私の今の状況を説明すると、あのあと雲雀さんは私を草壁さんに渡し、草壁さんは私に浴衣を着せました。なぜ雲雀さんが子供用の浴衣を持っているのかという疑問は聞くのは、怖いから置いておくけど…。 そして、私は浴衣のまま雲雀さんのところへつれていかれ、畳の部屋で正座をしている状態です。 「恭さん。お持ちしました」 入ってきたのは、さきほど別れた草壁さん。リーゼント頭を少し下げた後、入ってきた彼の手には黒い小さなお皿。私の位置からはその底しかみえない。 彼は、それを私と雲雀さんの前に置くと早々に立ち去った。あ、ついでに、雲雀さんは私と向かい合って座っています。座布団も敷かず、胡坐をかいて座る彼はとてもかっこいい。 私たちの前に置かれたのは、精巧に作られた、和菓子だった。すっごくかわいいっ!! 「食べていいよ」 雲雀さんを見ると、彼はもうすでに無表情になっていた。笑った気がしたから、その顔が見てみたかったんだけど…。 いただきます、と心のなかで言ってから、和菓子を手に取る。ピンクのお花が形どられたそれは、本当にきれいで食べるのがもったいなく感じる。 思い切って一口小さくかじると、甘さが口の中に広がった。 「…そうしていると年相応に見えるね」 年相応って…、一応実年齢は17歳だけどね。 「ヒバリ、ヒバリ」 「やあ、ヒバード。君もおやつかい?」 雲雀さんの肩にとまったのは、いつかに外で出会ったことのある、黄色い鳥だった。丸々とした体に、短い足。見た目からしてもこもこな鳥は、触り心地も気持ち良かった。 [ひばりさんのとりですか?] 「そうだよ」 なんというか、意外だ。雲雀さんが鳥を飼っているなんて。ああ、でもだからこの鳥は人慣れしていたのか。 ヒバードは、雲雀さんが差し出した手に飛び移り、手から少しだけ食べると、また外に飛び立っていった。 「さて、食べたらすこし話をしようか」 視線を雲雀さんに移せば、雲雀さんは不敵な笑みを浮かべていた。そして、草壁さんを呼ぶと、草壁さんはすぐに何か紙を持って現れ、それを渡すとまた出て行った。草壁さんは、雲雀さんの秘書みたいだ。 「さて、君は沢田と街で会ったって言ってたね。なぜそんなところにいたんだい?」 なぜと聞かれると困る。だって、気づいたらあんなところにいたんだし、ここは日本じゃないし…。しかも、なぜか5歳になっているわけで…。って、こんなこと言っても信じてもらえるわけがない。 [おいかけられたから] 「それは沢田にあったときのことだろう?君の親は?家は?」 [しりません] というか、この国にはそんなのないし。 「子供がいるのはおかしくない。でも、それが日本人なら別だ。こっちに来て何かしらがあったとしても日本に戻されるか何かされるだろう。といっても、事故があったという報告は受けてないけどね」 つまり、私があそこにいたことがおかしい、ということか。 「君を調べさせてもらったよ」 雲雀さんは紙を見ながらあぐらをかいた膝に頬杖をつく。少し寄せられた眉は何を思ってのものなのか。 「情報はスラムにいようとどこにいようと一般人なら、何かしら出てくるはずだ」 そういうと、雲雀さんはその紙を私のほうによこした。 私はとりあえずそれを受け取りのぞきこんだ。たった一枚だけの紙は、ほとんど何も書かれていなくて、上の方にたぶんイタリア語で3行の言葉が書かれているだけだった。 そして、まんなかに『No data』と書かれている。 ノーデータ。 つまり、情報無し。 私に関しての情報がないってことだ。 それはどういうことだろう?雲雀さんは、一般人なら情報が必ずあると言っている。でも、私の情報は何もなかった。 なぜ? 私が突然ここに現れたから? 「このことから考えられることは2つ。君がマフィアか…、それともこの世界には“ありえない人物”か、だ」 マフィアでないことは私が一番よくわかってる。ということは、ありえない人物? イレギュラーな存在? 私が? ああ、でも、17歳から5歳に若返っているというだけでもイレギュラーだろう。そんなことがあると知れれば、テレビの取材がかなり来るだろうに。 「そして、僕は後者だと考えた。……君、何者だい?まるで赤ん坊……リボーンのように子供らしくない物ごし、態度。アルコバレーノってわけじゃあるまいし…」 あるこばれーの?なんだろう、それ。子供らしくないっていうのは、しょうがないと思うのだけど。 「君は何者だい?」 切れ長な目でじっと見られる。視線をそらすことは許されない。まるで、草むらから獲物を狙っている肉食動物のように、静かに、私に目を向けている。 少しでも、変な動きがあれば襲いかかれるようにと。 何者ってきかれても、本当に、こまる。ただの人だし…。それに、私がこの世界の人間じゃない?じゃあ、私は?どこからきたの? どこから、 ……異世界、とか?パラレルワールド?でも、そんな非現実的な…。いや、17歳から5歳になってる時点で非現実的なんだからいまさら、か。 異世界から来たのだとしたら? そんなことが本当にある? 子供になってしまったのも、その影響だというのだろうか? なら、なぜ声がでない? [わかりません] 眉をしかめる雲雀さん。 [でも、] 言わないと、逃がせてもらえない。でも、言ったら?信じてもらえる?ここを追い出される?皆に、嫌われる? 「でも、なんだい?」 [ひみつにしてください] 「…事と次第によるね」 [ひみつにしてください] 同じものをそのまま見せたまま見つめていると、諦めたようにハアと息をついた。それは了承ととっていいのだろう。 それを確認してから、私は絵を描いた。 17歳の私、ママが私を殴る場面、イタリアの街、ガラスに映った私の姿、男二人、そして、お父さん。 その様子を、雲雀さんは黙って見ていた。私は、それを紙芝居のようにして、合間合間にセリフと説明を書いた。 [しんじてもらえないかもしれないけど、ほんとうのことです] 17歳の私。長い髪は、今より随分と大人っぽい私がワンピースを着ている姿だ。絵だけを見ても少なくとも中学生以上には見えるだろう。 [これがほんとうのわたしです] ママがわたしを殴る場面。般若のように顔を歪めた母は、化粧が崩れ髪も振り乱していた。振り上げている手は私の机にあったスタンドが握られている。 [『この、化け物!』 ママは、たまにかえってきてはなぐります。それで、きがすんだらまたおとこのとこにいきます。ここでわたしは、なぐられていしきがなくなりました] イタリアの街。初めて見た街中。明らかに日本じゃ無い風景。 [きづいたら、まちなかにいました] ガラスに映った私の姿。それは、髪が黒くなり、ずっとずっと身長が低くなった私。 [がらすにうつったのは、いまのわたしのすがたです。だから、“たぶん5さい”です] 男二人。路地裏に入り込んだら、取引をしている男二人がいた。 [こわくて、はしりまわっていたら、うらみちにいて、そこであの2りをみました] お父さん。そして、お父さんに出会った。 [あとは、しっているとおり、2りからにげておとうさんにあいました] 簡易的な説明になってしまったけど、十分だろう、十分であってもらわなくちゃこまる。これ以上どう説明すればいいのだろうか。 「…その本来の姿のときの歳は?」 [17です] 「ふーん……」 [しんじますか?] 「信じられないね。でも…、なるほど。異世界か」 雲雀さんは目を細めて笑った。酷く楽しそうに笑う彼の様子からは、信じているとも信じていないともとれなかった。不安で彼をずっと見つめていると、その視線に気づいた彼は口角をあげた。 「いいね。信じてあげるよ」 [ありがとうございます] 「ああ、ほら。迎えが来たみたいだね」 むかえ? そう思った時、ばんっと音を立てて襖が開けられた。驚いてその襖の方を見ると、黒いボルサリーノをかぶった彼が。 「やあ、赤ん坊」 「…俺はもう赤ん坊じゃねえぞ」 「Io sembro piacere moltissimo lo(随分と気に入ってるみたいだね」 「…È.., qualsiasi cosa?(ハッ、なんのことだ?」 二人の間に、私にはわからない視線での会話が繰り広げられた。 その視線を先に逸らしたのは、以外にも雲雀さんだった。 「いや、なんでもないよ」 彼はそういうと、私が持っていた紙をすっと抜きとってぐしゃぐしゃに丸めた。それは、黙っていてくれると言うことだろう。さっきの約束を守ってくれるようだ。 「紫杏、またおいで」 「行くぞ」 リボーンに手を引かれる。部屋から出る際に、雲雀さんの方へ一礼だけして彼の後に続いた。 「あのリボーンがあそこまで他人に入れ込むなんて、ね」 「恭さん?」 「いや、なんでもないよ」 珍しく、雲雀が戦闘以外で笑みを見せたことにぎょっとした草壁だった。 |