山猫は怒とうの嵐

長い廊下を一人で歩いている。今日はリボーンとは一緒じゃない。リボーンは部屋で書類を片付けているけど、暇だからちゃんと断りを入れて出てきたのだ。


といっても、直接言う勇気なんてなかったから、トイレに立った隙に書置きをしてきただけなんだけど。大分ここにも慣れたし、書類整理しているリボーンの傍にずっといれば気が散るだろうと思って出てきたのだ。


「あ!こらっ!待ちやがれっ!」


どこからともなくそんな声が聞こえてきたから立ち止まって耳を澄ませてみると、すぐ近くにあるドアからだった。
たしか、ここは獄寺さんの部屋だ。


首をかしげたままそこに突っ立っていると、ドアが少し開き、その隙間から一匹の猫が出てきた。


「瓜!部屋から出るんじゃねえ!」


獄寺さんが叫んだが、それを無視して、聞く耳持たずの猫はするりとドアから抜け出した。それを凝視していた私に猫は気付いたのか、私のことをじっと見つめてくる。


首を傾げたのと同時に、ドアが勢いよく開いた。それに、私も猫も驚いて少し飛びあがり、あろうことか猫は私の方に駆け寄ってきた。飛びあがった猫は、そのまま私の胸へとダイブ。
突然の猫の行動に私は対処しきれず、その反動のまま尻もちをついてしまった。


「瓜!…大丈夫か?」


腕に抱きかかえたまま私はとりあえずうなずく。獄寺さんが私を起こそうと手を伸ばした時、腕の中にいる瓜と呼ばれた猫は毛を逆立てさせ、獄寺さんに威嚇した。
その威嚇に、思わず手を引っ込める獄寺さん。手が引っ込んだのを確認すると、瓜ちゃんは私に甘えるように喉を鳴らした。
しかし、獄寺さんが手を伸ばすとまた威嚇をする。すごい変わり身の早さだ。


「チッ、おい、紫杏。とりあえず、部屋入れ。今瓜に出て行かれると困るんだよ」


うなずき、立ち上がると、部屋に通された。獄寺さんはなぜか裸足だった。


[ごくでらさんのねこ?]


ソファーに座ってから聞く。


「あ?瓜か?まあ、そう、だな」


[うりっていうんですか?]


「ああ」


瓜は私の膝の上でごろごろと喉を鳴らした。だから、喉元をなでてやると、気持ち良さそうに目を細める。
かわいい…。


[さっき、]


「あ?」


[なにしてたんですか?]


「ああ、さっき、な。瓜を洗おうと思ったんだよ。なのに引っ掻きやがって」


そういう獄寺さんの腕には痛々しい引っかき傷があった。でも、納得してしまった。だから、獄寺さんは裸足だったのか。スーツのズボンはひざ下まで折り曲げられている。


私も裸足だけど、そういう理由じゃないし、ね。


「で?お前はあんなところでなにしてたんだよ」


[おさんぽ?]


とくに理由もなく、ただリボーンの部屋にいるのが暇だったし、気が散るだろうから屋敷内を歩き回ろうと思っていた矢先のことだったのだ。


「あ?リボーンさんはどうしたんだよ」


[へやでおしごとちゅうです]


そこまで書いて、今はよくわからないと思って次のページにたぶんと付け足す。そのたぶんという言葉を見た獄寺さんは、思いっきり眉根を寄せた。


「たぶん?言ってきてねえのかよ」


[おきてがみだけしてきました]


「置手紙って…」


獄寺さんはうなだれると、一人ぶつぶつと、知らせた方がいいのか?いや、でもよ、と何か言っていた。その間も、瓜が私にすりよってくるから、かわいくて背中をなでてやる。そうすれば気持ち良さそうに目を細める瓜。なんで獄寺さんにはなついてないのかな?こんなにも人懐っこいのに。


[ごくでらさんは、きょうはおやすみですか?]


「ああ、…その、ごくでらさんって書くの大変じゃねえか?」


[ごくでらさん]


書いてみて、首をかしげるが、それ以上どう書けばいいのかわからなくて疑問のまなざしを向けると、彼は頭をかきむしって、私から視線をそらした。


「あー、その、よ。長かったら名前にしろよ。なんか、ガキに敬称付けられるのは、キモチワリイ」


つまり、名前で呼び捨てにしろとこの人は言っているのか。普通、年下には敬語と敬称をつけさせるものじゃないのかな。と思いつつ、彼の名前を思い出して書いてみる。


「……[はやと?]」


「あ?ンだよ」


[なんでもないです!]


「その敬語もやめろ。読んでてメンドくせえ」


めんどくさいといわれても…。と思ったが、実際に心の中では敬語を使っていないわけだし、もともと敬語キャラじゃないし。


[ありがと]


「ああ、」


と、ちょうどそのとき、部屋のドアが開いた。振り返ってみると、リボーンが立っていた。


「紫杏、こんなところにいやがったか」


[うりとあそんでた!]


「そうか。おやつの時間だぞ。いらねえのか?」


そう言われ、時計を見てみれば、本当に3時で急がないと食べ遅れてしまう。最近の日課のおやつの時間。


[たべる!]


私が立ち上がろうとすると、瓜がウルウルと目をうるませて私を見てきた。


それを見て、立ち上がろうとした私は動きを止めてしまう。しばらく見つめ合いが続く。
かわいい、かわいい、かわいい。しかも、目がいかないでって訴えてる。


でも、おやつも食べたいし、でも、瓜とも離れたくないし…。


どうしたものかと思って、獄寺さんこと隼人の方を見ると、隼人は溜息をついた。


そして、おもむろに私の膝にいる瓜の首根っこをつかんで引き離させた。もちろん、瓜は精いっぱいその小さな体で抵抗している。隼人の腕に思いっきり爪を立てていた。


「おら、行けよ」


一度、瓜をなでてから、私はリボーンの方へ行く。


[きょうは、ありがと]


「ああ、」


「行くぞ」


リボーンが伸ばしてきた手が大分当り前になってきていることを感じながらも、そのままその手を取ってその部屋を出る。


そのあとは、リボーンの部屋でおいしいおやつをもらった。


「獄寺の部屋は楽しかったか?」


[はやとのねこの、うりがかわいかった!]


「?呼び捨てにするようになったのか?」


[よびすてでいいっていわれた。あとけいごもなしだって]


「…そうか」


私の目の前には、ティラミスがあって、それをスプーンで食べる。うん、おいしい。


「うまいか?」


大きくうなずけば、リボーンは喉の奥でクツクツと笑った。


「本当に、うまそうだよな」


[りぼーんもいる?]


「くれるのか?」


スプーンに乗せてリボーンに差し出せば、リボーンはそれをパクッと一口で食べた。


「ん、甘いな」





(…い、意外と顔が近かった)


(ん?なんだ。照れてるのか?)
([てれてない!])
(ククク、そうか?)


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