目の前には、執務用の机で真剣に書類を整理しているリボーンの姿が。そして、私の膝の上にはレオン。部屋の中は異様なほどの静けさに包まれていた。 物音も自分の息の音さえも出してはいけないような気がしてしまい、ずっと息を詰めている状態。 どうしようか、いや、どうしようもないんだけど…。それでも、どうしよう、気まずい…。というよりも動くことさえできない雰囲気。 何もできないから、気配を消すように息をつめて、身動きも何もせずに、ずっとリボーンがしていることを見つめる。 「―――なんだ?」 顔を上げることなく声をかけられたことに吃驚して、肩を揺らした。リボーンの机には、まだまだ書類が山積みにされている。 その書類の間からリボーンはこちらを見てきていたが、とくに何もないため首を横に振る。 そして、訪れる沈黙。二人して目があったままどちらも逸らすことがなかった。が、先に目をそらしたのはリボーンだった。 リボーンは、窓の外に視線をやった。 「山本か」 その呟きに、首をかしげ、レオンをソファーの上に下ろして窓に近づいてみる。窓から見える庭には山本さんが野球のバットを振っている。 「行くか」 リボーンはおもむろに立ち上がったかと思えば、私に手を伸ばしてきた。私は、訳も分からずそのまま差し出された手を取って、ひかれるままに歩く。 リボーンはソファーの上にいたレオンをボルサリーノの鍔(つば)にのせると私には麦わら帽子をかぶせて靴を履かせた。 私は、今でも裸足で屋敷内を行き来しているの。 理由は、めんどくさい! だって、日本人なのに、なんで屋敷の中でも靴を履かなきゃいけないの? リボーンは無言で私の手を引いていく。 外に出れば、熱い日差しが差し込んできた。 リボーンはそのまま手を引いて山本さんが素振りをしているところまで来た。 「お!小僧に、紫杏じゃねえか。どうしたんだ?」 「山本が素振りをしているところなんて久しぶりに見たな」 「ああ、今日は任務が無くてな!久しぶりに素振りでもしようかと思ったんだ。本当はキャッチボールしたかったんだけどな?獄寺はいねえし、相手がいなくてな。…小僧、一緒にしねえか?」 「俺はまだ、書類が残ってるから無理だぞ。遊ぶなら、紫杏と一緒に遊べ」 「なんだ、紫杏も暇なのか?じゃあ、一緒にキャッチボールしようぜ!」 この、体格の差でキャッチボールって…、できるのかな?持っていた野球バットを肩に担ぐようにして、トントンと肩を叩いている。 「山本。ちゃんと手加減しろよ。じゃあ、あと頼んだぞ。紫杏、俺は部屋にいるからな」 うなずけば、リボーンは麦わら帽子越しに頭をなでて戻って行った。 「よし!じゃあ、ボールもってくっから、日陰で待っててくれな!」 そういうと、山本さんは屋敷の方へと向かって、そこにひとつ開いていた窓を飛び越えるようにして中へと入って行った。 近くにあった木陰に入り、座り込む。 上を見上げれば、葉の間から光が漏れていて、キラキラと瞬いていてきれいだった。一陣の風が吹く。 麦わら帽子が頭から離れる感触があった。すぐに、頭に手をやって抑えるが、手に触れたのは麦わら帽子の麦わらの感触ではなくて自分の髪の毛だった。 飛ばされた方を見れば、山本さんがちょうど窓から出てくるところで、すぐ上に浮いている帽子を見て、窓にかけた足でそこを思いっきり蹴り上げ、飛びあがった。 かと思えば、うまく帽子を手にとって着地していた。それは、まるで野球選手がバックヤードまで飛んできたボールをとるときのように見えて、思わず拍手をする。 「ハハハ、あぶなかったな。紫杏。ちゃんとかぶってろよ?」 キャッチした帽子を少しはたくと、私の頭に被せて、その上からポンポンと軽くたたいた。 ありがとう、と意を込めて、頭を深く下げれば、またポンポンと叩かれる。その手は、とても優しかった。 「にしても、本当に飛ばされなくてよかったのな!」 帽子越しにわしゃわしゃとなでられ、少し痛い。 [やまもとさんは、おにいちゃんみたい] 「俺が?」 そのまま思ったことを書いて見せれば、少し驚いたように目を見開いた後、またいつものさわやかな笑みを浮かべた。 「そりゃあ、いいな!じゃあ、紫杏は今から俺の妹な!だから、山本さんじゃなくて、お兄ちゃんって呼べよ!それか、武、だな!」 武か、おにいちゃん? [おにいちゃん?] 「ああ!じゃ、キャッチボール、しようぜ!」 そのあとは、山本さん、改めおにいちゃんとキャッチボールをして過ごした。 おにいちゃんは手加減をしてくれて、楽しかった。 (お前ら、いい加減にやめろ。もう暗いぞ) (小僧!紫杏が妹なんだ!) (は?) ([おにいちゃんがおにいちゃんになったの]) (……山本が紫杏の兄になったのか) (そうだぜ!かわいいだろ?俺の妹!) (でも、おにいちゃんだけじゃ誰のことかわかんねえな) (……[じゃあ、たけにいにする!]) ということで、山本さんもといおにいちゃん、改め、たけにいになりました! |