「はああああっ!?」 屋敷内に響く絶叫。思わず立ち上がった綱吉は目の前の男、というより少年を呆然と見つめる。綱吉は先ほど聞いた言葉が信じられなかった。いや、信じられないなんてものではない。目の前の少年自体偽物なのではないかとすら思った。これはいつもの自分を揶揄うための冗談なのだと。 しかし、目の前の少年はいつになく真剣な目をしていて、その傍らには少年の後ろに半ば隠れるようにしている娘がいる。 ふらりとめまいがした。 意味がわからない。何がどうなってそうなったんだ。 「まあっ!素敵!許嫁ってことね!リボーンくん、うまくやったわね!」 いまだに事態を飲み込めない綱吉をよそに、傍らで成吉に絵本の読み聞かせをしていた麻衣が歓声をあげる。 しかも全面肯定だ。 「さすがっす!リボーンさん!」 「やるなー、小僧!」 「極限にめでたいぞーっ!」 たまたま任務の報告に来ていた隼人、武、了平の三人がそれぞれ感想を述べるも、誰も二人の婚約発言に関して突っ込む人間がいないことに愕然とする。 「ちょっと待ってっ!?待って!意味がわからないから!なんでいきなり結婚前提!?だいたい、年齢考えろよ!!」 「うるさいぞ、パパン」 「ひええっ、リボーンからパパンとか怖いっ!怖すぎるんだけど!?」 「紫杏ちゃんもリボーンくんのこと大好きだもんねー?いいじゃない。リボーンくんなら私も安心だわ」 「いやいやいや!?麻衣もそんなのんきなこと言って!そもそもそういう問題じゃないだろー!?」 この場で反対しているのは俺だけである事実に、俺がおかしいのかと頭を抱える。 「十代目、マフィアの世界では幼い頃から許嫁がいることは珍しいことじゃないんです。マフィアも世襲制だったり、同盟関係を結ぶために婚姻関係を結ぶことだってあります」 「いや、そうかもしれないけどっ、それとこれとは違うよね!?」 「つべこべ言うな、パパン。俺と結婚すれば紫杏は家を出て行かなくていいし、俺のそばが一番安全だろ。いいことづくめだぞ」 「た、確かに……。他の変な男に引っかかるよりは……。それに、リボーンの強さもわかってるし……って、流されてるーっ!!しかも、パパン呼びが定着しつつあるし!」 頭を抱える綱吉をよそに、麻衣は結婚式について想いを馳せ、隼人は同盟ファミリーに連絡しなければと意気込んでいる。武と了平はのんきに談笑している。 「娘さんを嫁に貰っていくぞ。もちろん否とは言わせねえ」 銃口を突きつけられながら言われたセリフにいつものごとく条件反射で悲鳴をあげる。情けないとか言っていられない。だってリボーンは撃つ時は容赦なく撃つ。 「親への挨拶に脅し!?結婚なんてまだ早いだろ!?」 「わかってるぞ。だから許嫁なんだ。俺も紫杏もまだ結婚できる歳じゃないからな」 「っていうか、紫杏はともかくリボーンが誰か一人に決めるって、信じられないっていうかそうだよ、愛人とかどうするんだよ!認めないからな!」 「もちろん、全員手を切ってるに決まってるだろ」 「ええっ、あのリボーンが!?ってことはビアンキとも!?」 「当たり前だぞ。それより、紫杏に変なこと言うんじゃねえぞ」 リボーンはちゃっかり紫杏の耳を塞いでいて、紫杏に聞こえないようにしていた。隠してもいつかバレることだと思うんだけど。しかし、あのリボーンが数多くいる愛人と全て手を切っているとは驚いた。それだけ紫杏に本気だと言うことだろうか。 「はあ……。本気、なんだ?」 「じゃなかったら、こんな話はしていない」 「はあ、わかった。でも!もし紫杏が結婚できる年齢になった時に嫌だって言ったり他の人を好きになっていたりしたら紫杏の意思を尊重すること!これだけは譲れないからな!」 「わかってるぞ。紫杏が16歳になるまでは待ってやる」 相変わらず自身たっぷりな様子に俺は盛大にため息をついた。先ほどからずっとリボーンによって耳を塞がれている紫杏は頭にハテナを浮かべて俺とリボーンを交互に見ている。 俺は紫杏の前に膝をついて彼女と目を合わせた。リボーンの手が彼女の耳から離される。 「紫杏。リボーンとの許嫁の件は一応認めるけど、紫杏はもっといろいろ見て大きくなった時にもう一度よく考えてみて」 「うん」 「それでも、リボーンが……その、好きだっていうなら俺は反対はしないから」 「うん」 「でも、あんまり早く巣立っていかないでよ。もうちょっと俺たちの娘でいて?」 紫杏の頭を撫でながら言うと、紫杏は少し頬を赤くして頷いた。 可愛い娘の姿に頬を緩ませ、まだ小さな存在を抱きしめていると頭上からリボーンの舌打ちが一つ。 「まあいい。言質は取ったからな。反対はしないんだろう?」 「紫杏が!望んだらだからな!」 「俺が本気になったんだ。他によそ見をさせるわけがねえぞ」 「その自信はどっからくるんだよ……」 いつも通り俺様なリボーンの言動にぐったりする。 でも、と思考を切り替える。 ヒットマンをしているリボーンはいつもどこか危うげなところがあった。以前も言っていたがろくな死に方をしないだろうからと大切な人を作らないようにしている節があった。しかし、今は違う。大切な存在ができて、リボーンの雰囲気はどこか柔らかくなった。 きっと、紫杏にとってもリボーンにとってもお互いの存在がお互いにいい影響を及ぼしているのだろう。 「これからよろしくな。パパン」 「ひいぃぃっ!やっぱりリボーンが息子とか考えられないって!!!」 「ママンもよろしく頼むぞ」 「こちらこそ、紫杏をよろしくね!リボーンくん!」 〜Fin〜 top |