策略は狸にお任せを

「Vuole sentire una storia con lo scaglione superiore?(上層部とのこと聞きたい?」


ツナから発せられた言葉に俺を含めた全員が反応を示した。ツナを見れば少し黒い笑みをたたえている。あの、骸と雲雀でさえ、浮かせていた腰を再び椅子に落ちつけた。紫杏は何がなんだかわからないようで不安げにツナと麻依を見ていた。
しかし、麻依が紫杏を連れて出て行った。


「昨日のこと、か」


「そう。気になってるかなって思って。っていうのは建前で皆にも知っておいてほしいんだ」


それを言ったツナの顔は、先ほどの紫杏に見せるようなふやけた表情ではなく、ボスの威厳を含ませた表情になっていた。
それに、少しだけ頬が緩む。
それを隠すように、ボルサリーノを深くかぶりなおした。


全員が座りなおしたのを確認してからツナは口を開いた。


「上層部は、紫杏を諜報部員に、と言ってきた」


「なっ!」


諜報部員、情報を探り味方に知らせることに長けた機関。ボンゴレの諜報部員も並みじゃない。たいていのことなら何でもわかっちまうほどの実力の持ち主たち。
ボンゴレもそれで保っているといっても過言ではないほどの…。


「紫杏の瞬間記憶能力と絵の才能をかって、だってさ」


「おいおい…。あいつはまだ5歳だぜ?」


呆れ半分、信じられない気持半分といった感じの山本の言葉にツナもうなずいた。そう、まだ5歳で諜報部員に入れるなんて異例だ。それほど、能力がほしかったというのか…。


「紫杏は孤児だからね。死んでも誰も疑問に思わない。そして話せないから彼女の口から敵に情報が漏れることはない。だったら、最高の“諜報部員”だろ?」


「クフフ、これだからマフィアというものは…。まったくもって愚かですね」


「だから、オレはあの子を養子にした。上に手出しをさせないために」


「…それが、お前の答えか。ツナ」


ツナは少し目を伏せたが、俺の目をまっすぐに見た。きらりと光った瞳にはオレンジの光が混じっている。
この質問に対する答えなんてわかりきっている。


「ああ」


決意に満ちた瞳は、ここ数年の経験を思わせる。
ボルサリーノを深くかぶりなおしてから、立ち上がる。


「だったら、その思いを忘れるんじゃねえぞ。ダメツナ」


「…もうダメツナじゃないだろ?」


「ハッ、お前はいつまでもダメツナだぞ。ダメツナ」


「いい加減にしないと殺すよ」


「やれるもんならやってみやがれ」


黒い笑みを浮かべると、同じように返してくるリボーン。彼直伝のその笑みが、彼に効くわけもない。


「はあ、今はいいや。そういうことだから、上と紫杏の接触はなるべく避けるようにしてね」


立ち上がった面々にツナはそういうと、ツナも立ち上がった。


「ま、僕には関係ないね」


「僕にもですね」


「あ、雲雀さん。あの子は白ですよ」


「……なんのことだい?」


「調べ物もいいですけど、ほどほどにして書類、書いてくださいね?」


「!!…さあね」


少し見開いた目が図星を指していたことを示す。しかし、雲雀はそれをはぐらかして出て行った。


「本当はさ、もうちょっと反対されるかなあって思ってたんだ」


俺とツナ以外いなくなった後に、こぼすように呟かれた言葉。
まあ、そう考えるのは当然だろう。山本とバカ牛はともかく、獄寺は忠犬だしな。ボンゴレを一番に考える。まあ、あいつはツナが決めたといえば引くんだろうが。


「そうだな。雲雀と骸はもっと反対するかと思ったぞ」


「その2人だけじゃなくて、リボーンにもね」


「何言ってやがる。俺は女には優しいんだ」


「へえ?でも、紫杏に手は出さないでね?」


ボルサリーノの隙間からツナに目をやれば、黒い笑みを浮かべていた。
親バカなところは親譲りか…。


「フッ、どうだろうな」


壁にかかっている時計に目をやる。紫杏が出て行ってからもう20分はたっている。そろそろ麻依たちも準備ができているころだろう。それに、ツナがいった集合時間まであと10分だ。


「俺はもう行くぞ」


ドアのほうへと歩を進めるが、ツナが動き出す気配がしない。少し振り向けば、何か考え事をしているようだった。
ツナの奴、時間のこと忘れてやがるな…。


「ツナ。お前ももう、準備しろ」


「……え?」


「じゃねえと、麻依に怒られるぞ?」


「え…、あっ!わっ!もうこんな時間!?急がないとっ!なんでもっと早くに言わないんだよ」


「うっせえ。それぐらい自分で気づきやがれ。ダメツナ」


「ダメツナって言うな!あーっ!もう!麻依に怒られる!!」


急いで自室へと向かったツナを見送ってから、一つ溜息をこぼす。


「ああいうところは、昔から変わらねえな」


10年前と変わったところはたくさんある。それは、ツナだけに言えることじゃねえ。俺も含め、守護者全員変わった。


まず、自室へ向かう。準備するほどのものなんてたいしてない。
紫杏の部屋の前を通れば、楽しそうな麻依の声が聞こえてきた。
とくに用意するものもないので部屋の前で待ってみる。


「うん!かわいい!よし、皆のとこに行こう?」


中から聞こえた麻依の声。そのあとに扉の向こうから近づいてくる2つの気配。その気配が扉の前でいったん止まったとほぼ同時に、扉は開いた。


「あれ?リボーンちゃん。どうしたの?紫杏ちゃんのお迎え?」


「そうだぞ」


麻依から下に目線をずらせば、麻依の後ろに隠れている紫杏の姿が。説明を求めるように麻依を見れば、うれしそうに顔をほころばせた。


「ほら!恥ずかしがってないで出てきなって。かわいいから、大丈夫だよ!」


そっと顔をのぞかせた紫杏の頭は、ウサギの耳のように上で2つに縛ってあった。
麻依に背中を押されながらも出てきた姿は、さっきまでの白いTシャツではなく、淡い水色の肩口にレースのあるノースリーブだった。


「どう?かわいいでしょ?私のノースリーブのでかいやつを着せたら、スカートになったの」


恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせて、いまだに麻依にひっついている紫杏は、少し涙目で俺を見てきた。
俺は、紫杏に手を伸ばして、抱き上げる。


「にあってるぞ。紫杏」


[ありがと]


少し震えている文字は、小さくて、紫杏はまだ恥ずかしそうに首をすぼめたままだった。


「ほかのみんなはもう玄関?」


「だと思うぞ。ツナはまだだろうがな」


「えー、綱吉遅刻?」


「リビングを出て行ったのが時間の10分前切ってたからな」


「綱吉が、時間決めたのに…。昔から時間には弱いからね。綱吉は」


麻依は苦笑した。紫杏は相変わらず、俺に抱っこされたままの状態で会話を聞いていた。
5歳にしては、大人びていると思う。アホ牛とかを見ているとなおさら、だ。
わがままなんて言わねえ。それに、敬語も使ってる。


玄関にはすでに獄寺とアホ牛がいた。そこには、やはりツナの姿はない。


「ごめん!待った?」


「おせえぞ。マフィアなら時間ぐらい守れ」


「それマフィア関係ないから!って、なんでリボーンが紫杏を抱っこしてるんだよ」


「世話係だからな」


ニッと笑ってやれば、ふてくされたような顔をするツナ。それに麻依は苦笑する。


「ほら、行こうよ」


麻依のその一言で、俺達は用意させておいた車に乗り込んだ。


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