年越しのサプライズ
「Felice anno nuovo!!!!」


掛け声とともに盛大に打ち上げられた花火をテラスから眺める。


慌ただしかった年末。ボンゴレファミリーが主体となって執り行われた年越しパーティーには多くの同盟ファミリーや地元の有識者などが集められているようだった。


いつもより厳重な警備のもと、ボスであるお父さんやその妻のお母さん、幹部たちは客のもてなしにせわしなくしている。


成吉は、信頼できるベビーシッターに預けられお留守番だ。


私はというと、いつもより着飾った格好をして壁際に置かれた椅子に座っている。今日は年越しまで起きていようと思ってお昼寝だってしたというのに、子供の体ではもうそろそろ起きているのも限界に達しそうだった。


さっきから気をぬくと目を閉じてしまいそうだ。


でも、こんな時間まで起きているのは久しぶりで、大人の世界の仲間入りをできたような不思議な高揚感がある。だから、眠ってしまうのはもったいなくて頑張って目を開けようとしているのだけど。


「眠いなら寝ちまえ」


いつものごとく、私の護衛としてそばにいてくれているリボーンは呆れたように私を見下ろした。


私はゆるく首を振り、目をこする。


「まだ、へいき」


言い聞かせてみるが、やっぱり眠い。ジューズを飲んでみても眠気は覚めそうにない。好きにさせると決めたらしいリボーンは一つため息をつく。


そんなリボーンを見上げると、不意に彼は彼方へ顔を向けてた。そして、口角をあげる。


「紫杏。お待ちかねのオトモダチが来たみてえだぞ」


その言葉に眠気が吹っ飛んだ。


リボーンの視線をたどる。眠さで気づかなかったが、会場内にざわめきが広がっている。その中心にいるのは、一般人が委縮せざるおえないほどの威圧感と異常性を兼ね備えた一団だ。


誰かが小声でヴァリアーだと呟く。


私は久しぶりに会えたことに嬉しくなって、リボーンを見上げた。私の意図を正確に受け取ったリボーンが一つ頷くのを確認し、壁際の椅子から飛び降りてそちらへ向かった。


仕事が詰め込まれていたためパーティーに来られるかどうかわからないと聞いていた。何より、ボンゴレ最強の暗殺部隊と言われる彼らはこういうパーティーをくだらないと忌避している。


お父さんからも一応招待状は送ったけれど、あのザンザスが参加する可能性は低いだろうと言っていた。だからあまり期待していなかったのだ。


ヴァリアーのみんなと会うのは本当に久しぶりだった。ベルとフランはハロウィンの時に、他のみんなはザンザスさんの誕生日パーティー以来だ。


お父さんたちに挨拶をしにいったらしいザンザスさんに近寄ると先にベルに気づかれた。


「ししし、お子様がまだ起きてて大丈夫なわけ?」

「あら、紫杏ちゃあん!今日もかわいい格好してるわねえ」

「紫杏」


ザンザスさんが私をみた。私はザンザスさんの前に行き、彼を見上げるとこの日のために練習していた言葉を告げる。


「ざ、ざんざすさん、フェリーチェ アンノ ヌオーヴォ」


たどたどし、巻き舌などできていない言い方だったけれど、ザンザスさんがわずかに目を見開いたのが見えた。


他のヴァリアーのみんなも驚きをあらわにしている。いたずらが成功したこ
とを知り嬉しくなる。


ザンザスさんは私をまじまじと眺めていたが、やがて満足したようにふんと鼻を鳴らした。


「まじで紫杏が喋ってるし!なあ、もう一回なんか喋れよ」


ベルが私の前に来ると、勢いよく抱き上げられた。


「べる」


ベルの名前を呼ぶと、彼は上機嫌に笑った。そして、何が楽しいのか、私の頬を人差し指で突いて来る。それが痛いから手で押し返そうとすると今度はほっぺをつねってくる。


「せんぱーい、何やってるんですかー。紫杏のほっぺ赤くなってるじゃないですかー」

「うっせ」

「ロリコン」


最後にぼそりと付け足された言葉にベルがかちんときたようで、応戦しようとベルの手にナイフが現れる。相変わらずどこから取り出しているのかまったくわからなかった。


「べる、ふらん」

「ししし、紫杏待ってろよ。今あいつ始末してくるから」


そして始まる乱闘を前に私はリボーンの方へと放り投げられた。文字通り放り投げられた私を難なくキャッチしてくれたリボーンは呆れながらベルとフランを見ている。


リボーンの腕の中に戻ってくると、いつもの安心するリボーンの匂いに再び眠気が襲ってきた。そう気づいた時にはすでに私は夢の中へ旅立っていた。






まるでスイッチを切ったかのように動かなくなった紫杏は、俺の腕の中でぐっすり眠っている。お昼寝をしていたとはいえよくここまで起きていられたものだ。


「あらん、紫杏ちゃん寝ちゃったのねえ」


俺の腕の中にいる紫杏に気づいたルッスーリアが紫杏の顔を覗き込む。


「ふふふふ、かーわいーわー」


サングラスの奥で目を細めて笑うルッスーリアに思わず紫杏を抱えたまま後ずさったのは当然の反応だろう。


「あらん、そんなに警戒しないでもいいじゃない。紫杏ちゃんには何もしないわよう。どちらかというとあなたの方に興味があるわあ」

「気色悪いぞ」

「でもまだコレクションには早いのよねえ。もうちょっと大人になってからじゃないと、好みじゃないのよ〜。残念だわあ」


頬に手を当て、腰をくねらせるルッスーリアを、ちょうどやってきた了平に託す。


ツナに紫杏が眠ったことを告げ、パーティー会場を後にした。


暴れ出していたベルやフランは適当なところで獄寺やスクアーロあたりが止めにはいるだろう。


車で屋敷に帰ってきた俺は、紫杏の部屋へは行かずにそのまま自室へと戻った。


なんとなく、今日はこの小さな存在を腕の中から離すのは惜しく感じたのだ。


子供らしく着飾ったドレスは彼女に似合っていた。ヴァリアーの連中と久しぶりに会えるかもしれないと聞いて、イタリア語の発音を練習し始めた紫杏。もともと書くことに関しては問題なかったから習得は早かった。ただ、発音はやはり日本語にない巻き舌があるため難しいようだったが、それも可愛げの一つだろう。


珍しくあのザンザスが満足げだったことから考えても、紫杏の努力は報われたようだ。


紫杏をベッドに横たえメイドを呼ぶ。紫杏の着替えなどを任せている間にざっとシャワーを浴びて寝支度を整えた。


寝室に戻る頃にはもうメイドはおらず、俺の大きなベッドの上に小さな紫杏が丸まって眠っている。


俺もその隣に潜り込み、再び紫杏を腕のなかに納めた。


小さくいまだに細い体は少し力を強めるだけで折れてしまいそうだ。しかし、なんとも言い難いほどの庇護欲にもかられる。守らなければならない存在であり、守りたい存在だった。


“彼女の手を離さないでください”


ユニの祖母に似た瞳が、悩ましげに眉根を寄せる姿が思い浮かぶ。どうにも嫌な予感がするのは、最近のレオンの落ち着かなさもそうだが、それ以上に勘が告げていた。


きな臭い匂いがする。そのきな臭さが、紫杏に降りかかっているような気がしてならなかった。


まるで霧の幻影に阻まれているかのように釈然としない何かがそこにある。


それが何かわからないからこそ、妙な苛立ちが募る。


不意に腕の中で身じろぎした紫杏。顔を覗き込むと、いい夢でも見ているのかふにゃりと頬を緩ませていた。


そっと彼女の額に唇を落とし、俺も浅い眠りについた。


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あきゅろす。
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