「やあ、おはよう。リボーン。紫杏に変なことしなかった?」 「ダメツナが。そんな心配するならこっちに来させなければいいだろう」 リビングに入った瞬間に沢田さんの笑顔と声。そして、それに少し不機嫌そうなリボーン。 「紫杏ちゃん。こっち、こっち」 麻依さんに呼ばれ、リボーンにおろしてもらってから麻依さんの方へ行く。 「紫杏ちゃんはここね。私の隣。ね?」 そういって、ひかれた椅子にはしっかりと私用に高さを増すためのクッションがつけられていた。 沢田さんが来て、私を椅子にあげてくれる。机の上に並べられたものを見てビックリ。イタリアのはずが、なぜか和食!ご飯に味噌汁。そしてオムレツ。…おなかすいた。 まわりを見回せば、昨日紹介してもらった全員が席についていた。リボーンも席について、残るは沢田さんのみ。 「ねえ、早くしてよ。綱吉」 「わかってますから。それでは、いただきます」 皆、沢田さんの声に合わせて合掌すると、食べ始めた。それにすこしあっけにとられながらも、声が出せないから心の中で呟いて食べ始める。 「おいしい?」 声をかけてきてくれた麻依さんにうなずいて変えす。さすがに、朝食を食べているときに書くことはできないから。 それからは、沢田さんたちがイタリア語で会話をし始めた。それを不思議に眺めていると、麻依さんがそっと耳打ちしてくれた。 「お仕事のお話しているのよ」 お仕事ってことは、マフィアのことか。 でも、なんでイタリア語で会話?皆日本人なんじゃないのかな。あ、でもリボーンとランボさんは違うか。 でも、ここの人たちって基本日本語だよね?だったら、なんで…。 ああ、私か。 私がいるからおおっぴらに任務の話ができないのかもしれない。 優しい人たち。 私のことなんて気にしなくていいのに。 私の量は、昨日より少なくされていたから、全部食べることができた。それでも、おなかはいっぱいだけど。 朝からこれだけの量は結構大変…。 「おなかふくれた?」 [はい!ごちそうさま!] 「ん。いいこいいこ」 頭を撫でてくれる麻依さん。麻依さんのそばも安心するな。やっぱり。 「あ、そうそう。リボーンが世話係だから」 「は?」 突然日本語に切り替わった沢田さんの口から発せられた言葉。もちろん、は?って言ったのはリボーン。というか、何の世話係なんだ? 「だから、紫杏の世話係」 私!? 「オレも麻依も仕事があるし、それに年齢も近い方がいいだろ?リボーンもまんざらでもないみたいだし」 「おい、俺も仕事があるぞ」 そうだよ。リボーンにも仕事があるから、そんなことしちゃ悪いよ!リボーンの声に合わせて、ブンブンと勢いよく首を横に振るけど、それは綺麗に流されてしまった。 「大丈夫。紫杏がここに慣れるまで事務仕事のみにしたから」 そんなことしてもいいの!?やっぱ、そこはボスの権限?でも、さすがにそれはリボーンがかわいそうだと思い、椅子を降りてから、沢田さんのそばに行く。 [だいじょうぶですよ?ひとりでも] 「ダメだよ。ここは広いから、迷うだろ?」 私を抱き上げながらそういった沢田さんはリボーンのことをちらっと見た。 「チッ、仕方ねえ」 「あ、でも、今日は買い物に行くから。必要なものをそろえなきゃね」 え、そんなことまで、してもらうのはさすがに悪い!着れるものがあれば何でもいいんだから。 だいいち、ここに置いてもらえているだけでも、ありがたいことなんだし。 [さわださんたちにそこまでめいわくかけるわけにはいかないです] 沢田さんはそれを見た後、不機嫌そうに眉を寄せた。 え、私、なんかした?いや、この場合書いた? 沢田さんは私のほほをつまんだ。 「沢田さんじゃなくて、パパ、あるいはお父さん、だろ?それと、敬語!敬語なんて使わなくていい。わかった?」 ぎゅうっとつままれて地味に痛い。必死につままれたままうなずく。それに満足したのか、彼は手を離した。ひりひりする頬。絶対に赤くなってる…。 でも、それより先に、スケッチブックを手にとって書く。 [おとうさん] 「ん。いいこいいこ」 「えー!綱吉だけずるい!私も呼んで?」 [おかあさん?] 「キャー!かわいい!」 首をかしげながらも、これでいいのかという意味でクエスチョンマークをつければ、麻依さん、改めお母さんに抱きつかれた。 少し、こっちまで恥ずかしくなる。 「オレ達はもう、家族なんだから、遠慮なんていらないんだよ?だから、敬語もなし。わかった?」 うなずく。実際に敬語で書くのは面倒だったし…。 口の中で、声にならない声で呼んでみる。 おとうさん、おかあさん 胸の中に温かいものが広がった気がした。 ママ、私におかあさんができました。 ママ、私にお父さんができました。 きっと、この家族は壊れないように頑張るから。だから…。 「よし!じゃあ、買い物行くために準備しようか」 「ツナ。俺も行くぞ。…世話係、だからな」 「じゃあ、ほかの人は?」 「オレはお供します!」 「オレは任務だわ」 「オレも行きますよ」 「僕は行かないよ。群れるなんて虫唾が走る。それに少し調べたいものもあるしね」 「僕も遠慮しますよ」 「そ、じゃあ隼人とリボーンと麻依とランボだね。じゃあ準備したら玄関に集合。麻依は紫杏をお風呂に入れてあげて。ついでに服も何かに変えよっか。集合は…、30分後でどう?」 「わかった。紫杏ちゃん行こう?」 お母さんに手をつながれ、そのままリビングを出ようとする。ほかの人もそれぞれ立ち上がったところで、おとうさんがイタリア語で何か言った。 「Vuole sentire una storia con lo scaglione superiore?」 その言葉に、お母さんを含めて私以外の人たちがお父さんを振り返った。 でも、お母さんはお父さんとアイコンタクトを交わして何事もなかったかのように私を連れてリビングを出た。 |