情報屋の災難

久しぶりにやってきたボンゴレ邸。邸というより、城、だな。何度見ても。俺は城を見上げ、苦笑する。


勝手知ったるなんとやら、ということでセキリュティをかいくぐり中へ入った。出迎えてくれたのは小さな女の子だった。


なるほど、この子が。


頷くと同時に挨拶をするために近寄る。女の子は突然の見知らぬ客人に驚いているのか、目を見開いて固まっている。


この子がマフィア界のトップといわれるドン・ボンゴレが養子にしたといわれる沈黙の姫であり、あのアルコバレーノ最強と云われるリボーンの寵愛を受けているといわれる少女、紫杏だろう。


少し前に入手していた彼女の情報をつらつらと頭の中に並べたてながら、勤めて笑顔で彼女へと歩み寄った。笑顔には自信があった。もともと、子供にはすかれやすい性質だ。だから、今回もすぐに仲良くなれるだろうと思っていた。


なんていったって、あの泣き虫ランボとも仲良くなれたのだから。


彼女の様子がおかしいと気づいたのは大分近づき、彼女の瞳孔の揺れを視認できたときだった。


真っ青になっている彼女は、尋常じゃないくらい体を震わせたかと思うと突如頭を抱えてうずくまった。


次いで、屋敷内に響き渡った悲鳴。


目の前で叫び声をあげる少女に驚きたじろいだ。この叫び声が自分の死に直結するものだということは容易に想像がついた。こんなマフィアの屋敷にいる女の子なんて聞くまでもなく誰なのかはすぐにわかる。


というかまだ何も手をだしていない。いや、そもそも出すつもりもない。ただ、不審者じゃないよと言いたかっただけなのに。なぜこうなった。


思わず、頭を抱えた。


大の男が、それも軍服を着た体躯のいい男が、力の限り叫んでいる女の子の前でうろたえる姿はなんと滑稽だろうか。やがて、視界の端に見知った姿をみつけ、これ幸いと呼びかけようとした。


「あ、リボーンせんぱ―――」


しかし、その言葉は最後まで続くことはなく、条件反射のように体は後ろへと飛びのこうとした。しかし、一歩出遅れた。いや、俺より相手の方がスピードが勝ったのだ。


黒い影は俺の腹に足をめり込ませると、俺の体はいとも簡単に吹っ飛び、壁に激突する。実力差など火をみるよりも明らかなのはわかっていたが、それにしても今は一戦にほとんど出ていないと聞いていたのにこの戦闘力。化け物か。


あ、化け物だったか。コロネロ先輩しかり、この人しかり。


背中に走った衝撃にうめき声を漏らす。周りに人が集まってくるのがわかった。


なんとか立ち上がり、打った背中をさする。


「いっつーっ、さっすが、リボーン先輩。あれで防ぎきれないとかまじか」


ぱらぱらと瓦礫と化した壁の一部が肩から落ちていく。リボーン先輩を見ると、先ほどまであらん限り叫んでいた子供を抱えている。彼女は気を失っているのか、失わせたのか、ぐったりとよりかかっていて、まるで人形のように見えた。


死んだか?と最悪の予想が頭をよぎり肝を冷やす。


「おい、何をした?」


リボーン先輩から殺気とともに銃口を向けられる。その標準は迷うことなく俺の心臓へと向いている。この距離だ。完全によけることはできなくても、致命傷を避けるくらいは俺でもできるかもしれない。


でも、本気になったリボーン先輩を相手にどうこうできるとは思えなかった。なんせ、相手は最強のヒットマンだ。ボックス兵器もなく戦えるのはこの人たちアルコバレーノぐらいだろう。


「…いや、えーっと、」


「3秒以内に応えねえなら、お望み通りその頭に風穴開けてやるぞ」


いや、誰も望んでねえよ。そんな反論ができたらどれだけよかっただろうか。


自分に銃口と殺気を向けている男は、自分の上司にあたる人の同僚であり、自分がどう頑張ってもきっと太刀打ちできないだろう。それだけ尊敬されている人だ。きっとマゾな人なら彼に銃口を向けられ、本気の殺気を浴びたといえば羨ましがるだろう。


いますぐ代わってやりたい。


「や、やだなあ、リボーン先輩。こんなかわいい後輩を前にして何言って」


一応手を上げながらおどけてみせると、短い発砲音とともに耳すれすれを風が通り過ぎて行った。はらりと落ちる髪の毛が目の端に見えて、顔を引きつらせる。


「リボーン、何があったんだ」


額に死ぬ気の炎をともした我らがボンゴレボスさまもお出ましした。


絶対零度の視線を向けられ、両手を上げたなんとも情けない格好のままへらりと笑ってみる。まじで絶体絶命。こっちこそ説明を要求したい次第です。


「ツナ、こいつをしばっとけ。逃がすんじゃねえぞ」 


「いや、まじ勘弁してくださいって!俺何もしてね……」


反論してみようと試みた瞬間、彼のチェコ製のCz75の1STが火を噴く。


「ダマレ」


うーわー、マジ切れっすか。


俺はもう、うなだれるしかなかった。


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