サテン生地に指を滑らせ

「はい、じゃあ腕をあげて」


言われたとおりに腕をあげる。地面と平行になるぐらいまで上げられ、私の腕にメジャーがひかれた。


「ん。次は肩幅ね」


今は洋服の採寸だ。


もうすぐあるクリスマスの時に舞踏会のようなものが開かれるらしい。いわゆるマフィアたちのマフィアたちによるマフィアたちのためのクリスマス会なのだとか。といっても、イタリアではクリスマスは家族と過ごすものらしく、同盟ファミリーの中でも特に近しいファミリーが集められるらしい。


そして、私はその時に着るドレスの採寸をさせられている。ちなみに、身長はしっかり伸びていた。やったね。


ちなみに、今回のパーティーはお母さんと隼人は欠席だ。理由は成吉。


まだ生まれたばかりで首が座っていない成吉をパーティーなんかに連れて行ったらそれこそ狙ってくださいというか最大の弱点をさらすようなもの。そのためにお母さんは欠席だ。


本来ならお父さんが傍についていたいところだけれど、パーティーでファミリーのドンがいないわけにはいかないためにお父さんは出席決定。ここはリボーンとも結構もめていたのを少し聞いた。


ではお母さんの護衛を誰がするかということなんだけど、ファミリーの人間といっても、やっぱりお母さんを守るのだから幹部でなくてはいけない。


でも、骸は却下。雲雀さんはよくよく聞けば、正式なボンゴレファミリーではなく、独立した風紀財団という組織らしい。最近初めて知った。そして群れるのが嫌いな雲雀さんは無理。


では了兄、たけ兄、隼人、ランボの中からだけど、ランボは論外。了兄はずっと出張でいない。たけ兄と隼人だったらどっちがいいかという話し合いの末、隼人は中距離型の攻撃と、防御を得意とする戦い方をするらしく、接近戦を得意とするたけ兄より隼人の方がいいという判断らしかった。


その任務を与えられた隼人は、犬の尻尾を振り振りさせて目をらんらんと輝かせてお父さんに「命にかけても麻衣を守ります!十代目!」と言っていた。


ちなみに、隼人を護衛につかせた理由の中に、隼人が以外にも子供の世話が上手かったから、隼人がいいとお母さんが言ったというのが含まれているのは秘密だ。むしろこっちのほうが理由の大半を占めているなんて知ったら、隼人はきっと微妙な顔をするだろう。


「はい終わり。あとはデザインね」


ようやく終わった採寸に、肩の力を抜く。じっとしていなきゃいけないから、疲れてしまった。


「ドレスのデザインだけど、貴方の要望はあるかしら?」


デザイナーさんが紙とペンを持ったまま訪ねてくる。


もともと、ドレスを着る習慣などまったくないため、どういうのがいいかなんてわからない。首を傾げ、どんなのがいいかと考えてみる。


私は、パーティーの間はだいたいリボーンと行動することになるらしい。このパーティーの間、リボーンは私の護衛の任につくからだ。


[おとなっぽいの]


おそらく、リボーンの出で立ちはいつもとかわらないだろう。ボルサリーノにスーツという恰好なのだろうけど、せっかくのクリスマスパーティーで一緒に行動するのだ。


せめて、少しでも年齢が近づけられればいいと思った。どれだけ背伸びをしようと、この体ではたかが知れていることなんて重々承知しているけれど、少しでもいいから近づきたい。


「大人っぽいドレスね。ふふ、大人の男性に恋でもしてるのかしら?」


首を横に振る。


恋なんかじゃない。


私が恋なんておこがましい。ただの憧れだ。


いつも私を支えてくれて、味方でいてくれて、側にいようとしてくれる人。


本来ならたくさんの女性から引く手数多だろう。周りは綺麗な人ばかりだから、私なんてすぐに見えなくなってしまうだろう。


でも、リボーンは任務だから私のそばにいてくれる。本来なら私みたいな子供の護衛なんてしなくていいはずなのに。だから少しでもリボーンの隣にいるにふさわしい格好をしたい。


「あら、違うの。残念」


デザイナーさんはそれ以上何も言わず、仕事部屋として与えられた部屋へと引っ込んでいった。


今日の私の仕事はこれで終わりだ。


採寸部屋を出れば、廊下の壁に腕を組んでもたれかかっているリボーンがいた。ずっと待っていてくれたのだろう。駆け寄ると終わったのかと声をかけられた。


[しんちょうのびてた]


「ああ、確かに。あった時よりもでかくなってるな」


頭に手を乗せられる。


最初は、ドアをあけるときに背伸びをしてドアノブをつかまなきゃいけなかったのに、今はそんなことない。


階段だって、たまにこけそうになるけれどスムーズに降りられるようになった。


確実に成長していっているこの体。


私はこのまま成長していくのだろうか。それとも、いつか17歳に戻れるのだろうか。


「紫杏、どうした」


首を横に振る。


こんなこと考えても仕方ない。


そもそも、どうしてこの世界に来たのか、しかも場所がイタリアなんていったことのない国だったのかすらよくわからないのだ。


[おやつ?]


「お腹すいたのか?」


[すこし]


「なら、リビングに行くぞ」


手を差し出される。その手に自分の手を重ねた。


リボーンの手に比べればずっと小さな手。リボーンの掌にすっぽり納まってしまう手。いつまでこうしてリボーンと手をつなげるだろうか。


リボーンの手を握る手にすこし力をいれる。すぐに気づいてくれたリボーンが私を見降ろした。


ボルサリーノの上にいるレオンは今日もいない。病気か何かかと聞いても、変身し続けるくらいには元気だと返された。


もう片方の手をあげて、抱っこをせがんでみた。


無表情に近かったリボーンの口角がわずかにあがる。そして、私の脇に手をさしいれて持ち上げてくれる。リボーンの腕に座るような形で抱っこされた。


普通に立っているよりずっと高い視点はリボーンの目線だ。そして、片腕なのに安定していて、とても安心できる場所。


「珍しいな。紫杏が甘えてくるなんて」


[きのせい]


「紫杏はもっとわがままいっていいんだぞ」


[じゅぎょうやりたくない]


「それは無理だな」


[わがまま、いったのに]


「それとこれとは話が違うからな。俺は生徒には手を抜かないことにしてるんだぞ」


[だんす、にがて]


リボーンにすりよるように頭を肩にのせると、背中をぽんぽんと優しくたたかれる。


テーブルマナーや、礼儀作法は見て覚えられるからどうとでもなるのだけど、ダンスはそういうわけにもいかない。ステップを見て覚えることはいくらでもできるのに、それを音に合わせて足を動かすというのがどうにもできなかった。


ステップも気を付けないといけないのに、姿勢や目線、指の先端まで気を配らなければいけないのだから大変だ。


「踊れるようになったらご褒美をやる」


[ごほうび?]


「そうだぞ。だから頑張れ」


ご褒美につられて、頭を縦に振る。


リボーンは飴と鞭が上手だと思う。


でも、それをお父さんに言ったら、リボーンは鞭しかないと言い返された。そんなことないんだけどな、と首をかしげていると、紫杏は特別なんだなとお父さんは何か納得していた。


「今日はイチゴのムースだぞ」


とりあえず今はおやつを堪能しようと思う。


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あきゅろす。
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