早朝の初任務

部屋に入る眩しさに、うっすらと目を開ける。見えたのは、カーテンがしまっていない窓から差し込む朝日だった。その光が直接目にあたったのだ。
眩しい…。
どうやら、太陽は今顔を出し始めたようで、こんなに早くに目が覚めたのは久しぶりだった。


ボーっとする頭で、周りを見回す。そこは、慣れ親しんだ自分の部屋ではなく、昨日沢田さんにあてがわれた部屋だった。
そして、私はいつの間にか5歳の子供には大きすぎるベッドにしっかりと布団をかぶせられていた。


いつのまに、部屋に戻ってきたんだろう?


昨日の夜の記憶があいまいだ。


たしか、昨日は沢田さんが家族になってくれると言ってくれて、それで嬉しくて、そのあと皆がお酒を飲み始めて…。カメレオンがレオンだとわかって…。その辺から記憶がない。
途中で寝ちゃった、のかな?


さて、これからどうしよう?とりあえず、起き上がって顔を洗う。それから、着替える服もないので、ベランダに出てみる。


下をのぞけば、そこは3階で結構高い。下には庭が広がっていて、どこぞの大豪邸のようだ。
マフィアってお金持ちなんだ…。
庭には、庭師によって綺麗に整えられた木や、草たち。そして噴水などもあって、何も知らないで入ったらここがマフィアの屋敷だなんて気付かないだろう。


朝のすがすがしい風がほほをなでる。少し、肌寒い。
私は、今、昨日と同じ薄いTシャツを着ている。昨日は白かった服も、あの男たちに追いかけられて隠れたりするうちに薄汚れてしまっていた。


山から顔を出した太陽に目を向ける。少し痛いくらいの光が、街を光で飲み込んでいく。その光景がなんとも、美しかった。
ずっと見ていたいと思う。
でも、それを遮るように太陽から目を無理やりそむけさせた。


朝の風がカーテンを揺らす。


私は、すべてから目をそむけるように、まだ見ていたいと思う本能を理性で押さえつけて背を向ける。
そして、私はきのうリボーンと歩いた廊下を、今日は一人で進んだ。



リビングに行けば、そこにはなぜか獄寺さんがいた。


「?ああ、お前何しに来たんだ。こんな早くに」


[おきちゃったから、ごくでらさんは?]


「あ?俺は朝食作ってんだよ」


眉間にしわを寄せながらも、せっせと手を動かしていく獄寺さんは主婦顔負けだろう。
というか、普通、こういうお屋敷ってメイドとか使用人さんがするのでは?
というか、コックとかいるでしょ。


[こっくさんはいないの?]


「あ?ああ、コックな。食事は全部守護者で回してんだ。どこにスパイがいやがるかわからねえからな」


スパイって、なんかカッコいいな。というか、そういうの本当にいるんだ…。


[なに、つくってるんですか?」


「…これは、昼食の準備だ。おら、もうすぐ十代目たちも起きてくるだろうからリビング行ってろ」


そのまま忙しなく動きながら、ぶっきらぼうに言われ、大人しく従う。
獄寺さんは、なんとなく怖い。子供嫌い?…そういう問題でもない気がするけど。


リビングは、本当に広くて、手前に皆で食事をするための縦に長いテーブルがある。それには白いテーブルクロスがかけられていて、2か所に花瓶が置かれている。


その横を通り過ぎて奥に行けば、ソファーとローテーブルがあって、そこにはテレビとなぜか暖炉もある。夏には用無しのものだけど、趣があって、私はこの暖炉が何気に気に入っている。ハイジみたいだなあって。


ソファーによし登るようにして座る。体が小さいと、何をするにも前と同じようにはいかなくて大変だ。体力もあまりないのか、すぐに疲れてしまうし。
でも、きっと17歳だったらここには住ませてもらえなかった。沢田さんはわからないけど、獄寺さんとか、雲雀さんとか…。
とにかく、いろいろと楽、かもしれない。


待っている間、絵を描く。


しばらくそうしていると、獄寺さんが入ってきた。キッチンの方からお皿を運んでいる。彼に近づいて、服を引っ張って自分に注意を向けさせてからスケッチブックを見せる。


[てつだいます]


「あ?別に…あー、じゃあそうだな。十代目起こしてこい」


[じゅうだいめ?]


「お前の父親になったお方だ」


[さわださん?]


「…ああ。…部屋は、わかるか?」


首を横に振る。執務室には行ったけど、沢田さんの部屋には行ったことがない。


「だよな。そうだな…。お前の部屋から出て右にいったら階段がある。そこを上って、右に曲がったら右手にドアがある。行けば分かるはずだ。って、わかるか?」


今度はうなずく。体は5歳でも頭は17歳だから、理解はできる。ただ、迷わなければいいけど…。


「まあ、わからなくなったら、戻ってこい。オレはほかの奴を起こしにいってくっからよ。きっとそのうち誰か来るだろ」


うなずく。


「十代目の部屋には麻依さんもいらっしゃるからな。頼んだぞ」


深くうなずいてから、私はリビングを出た。


それから、私はまず自分の部屋に戻る。一度部屋に入ってから、獄寺さんが言ったことを思い出していく。瞬間記憶能力はこういうときに役に立つ。瞬間記憶といっても、いろいろあるらしくって、私はみたものを一瞬で覚える。でも、聞いたことも、他の人よりは記憶していられるらしい。


昔、いろいろと医者に診察という名の実験をさせられたのだ。


とりあえず、部屋を出て、獄寺さんが言った通り右に行く。しばらく歩けば、確かに階段があった。しかも、結構長い。体が小さいせいか、一段上るたびに両足を合わせないと登れないから結構つらい。
足がどんどん重くなり、疲れてくる。


なんとか上り終わったと思ったら、そこはまだ半分で、折り返しでまた同じだけ。
体が小さいと、本当に果てしない。


なんとか上りきって、一息つく。さあ、沢田さんの部屋までもう少し!!
獄寺さんは、行けばわかるって言ってたけど、ほかに部屋があったらわからないんじゃないかなあ。


上り終わった階段から少し進めば廊下が見えてきて、そこには一つのドアが。


なんとなく納得してしまった。なるほど。ドアが一つしかないから、ここが部屋なわけね。


というか、やっぱり、お金持って何考えてるかわからない。なぜ、廊下にシャンデリアがいるの!?
きらきらしてて綺麗だけど、キレイなんだけど!!でも、無駄!あー、ここに住んでたらこれもなれちゃうのかなあ?


ドアの前に立って深呼吸をひとつ。ノックをしてみるけど、その音は廊下の静けさに吸い込まれていっただけで何も反応はない。


勝手に中に入るのは忍びないけど、しょうがないよね。獄寺さんに頼まれたし!
背伸びをして、ぎりぎり届いたドアノブを回して中に入る。


中もまた広かった。私の部屋の2倍はあるだろう部屋。そして、ソファーにテレビ。ローテーブルに本棚、箪笥に椅子。そして、ツインベッドに眠る2人。
気持ち良さそうに寝ていて、起こしてもいいものかどうか迷う。でも、獄寺さんに頼まれたし…。


こういうときは、声が出ないと困るな。不審者に間違われませんように!いきなり入って怒られませんように!


裸足ののせいか、足音はまったくしない。そのまま進んで行って、ベッドの横に行く。でも、ベッドが思いのほか高くて顔が少しのぞけるぐらい。上に登ることはできなさそう…。


上に登れないと起こせないから、周りを見回して何か登れそうなものを探す。部屋の片隅になぜか置いてある椅子。
あれなら、登れるかもしれない。


あまり大きな音をたてないように、その椅子を引っ張る。なんとか、ベッドのわきに持ってきて、その上に乗る。額に少し汗が浮かんできたけど、はやくしないと獄寺さんに怒られちゃうかもしれない。
獄寺さんは、私が見ている限りずっと眉間にしわを寄せてる。あ、でも、沢田さんを前にしたときは、眉間のしわは薄れていた。


そのまま椅子の上に座っていたいとも思ったけど、その気持ちを思いとどまらせて、ベッドに体を移す。這うように進んで、真ん中に寝ている二人に近づく。


手前に麻依さん。奥に沢田さん。二人、寄り添うように寝ている。
ママもこんな時があったのかな?


そっと手を伸ばして、麻依さんの肩を揺らす。


「……う…ん…」


それでも、なかなか起きないから、今度は沢田さんに手を伸ばす。
沢田さんの肩に触れた瞬間に、彼の腕はいつのまにか私の腕をつかんで引っ張っていた。
あっという間に視界は反転して、温かいぬくもりに包まれていた。


ビックリして目を丸くして固まっていると、後ろでクスクス笑う声が聞こえてきた。
ビックリしたまま声も出ない口をパクパクと鯉のように開け閉めしていた。


「おはよう。紫杏」


後ろには、まだ忍び笑いをもらしている沢田さんがいた。


私はいつの間にかベッドに引き連れられていて、後ろには沢田さんが。前にはまだ気持ち良さそうに寝ている麻依さんがいた。


「麻依。麻依。起きて。紫杏が起こしに来てくれたよ」


「ん…綱吉?紫杏…ちゃん…」


沢田さんは私の上から手を伸ばして麻依さんを揺らす。麻依さんはうっすらと目を開けて、私と沢田さんを見た。


「ハハ、まだ寝ぼけてるね」


「うーん…。紫杏ちゃんだあ…」


麻依さんはそのまま手を伸ばしてきたかと思うと、私を抱きしめた。いわゆる、抱き枕みたいな?


「う〜ん。あったかい…。おやすみ…」


って、麻依さん!?寝ないでください!


「ククク…。麻依。紫杏が困ってる。そろそろちゃんと起きたら?」


沢田さんはそういいながらも、まだ笑いをこらえている。


「んー、綱吉…。あれ?紫杏ちゃん?へ?なんで?」


「あ、やっと起きたんだ。おはよう。紫杏が起こしに来てくれたんだよ」


沢田さんって、いつから起きてたんだろう?


「そうなの?わーっ!ありがとう!ごめんね!私、朝苦手でさ。それにしても、よく私たちの部屋わかったね」


バタバタと手足を動かして麻依さんの拘束から逃れる。登るときに下に置いておいたスケッチブックを取りになんとかベッドから降りた。


これがないと会話ができないなんて、やっぱり不便だ。


[ごくでらさんにおしえてもらいました]


「隼人君に?]


「隼人が…ね。じゃあ、次のおつかい、頼んでもいい?」


うなずく。


「リボーンを起こしに行ってくれないかな?」


[へや?]


「えっと、紫杏の部屋を出て左にいって、4つめの右のドアだよ」


うなずく。


[ごくでらさんが、ちょうしょくできたっていってました]


「うん。じゃあ、オレ達も着替えたら行くからリボーンのことよろしくね」


うなずいてから、外に出る。再びお使いだ…。


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あきゅろす。
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