風のイタズラ

「チッ、ざけんな」


その言葉を残し、お父さんのもとへと向かったリボーン。立ち去る間際、彼は私にアルコバレーノの誰かに話しかけられても無視しろと言って、電話での呼び出しに応えに行った。


現在庭にてお気に入りの麦わら帽子をかぶり、木の下に寝そべって絵を描いている。今日は天気が良くて、11月のはじめだというのに、肌寒さをあまり感じない。薄い長そでTシャツ一枚で事足りる。


足を揺らしながら、以前ハロウィンの時にいたずらされたみんなを思い出しながら描く。あのハロウィンの日。リボーンの部屋におやつを用意させているから行くかと言われ、二つ返事で了承した私は、そのあと鳴り響く爆音や壁に伝わっていく振動を見て、お父さんに心の中で謝った。


結局、部屋で用意されたおやつと一緒に、お父さんやお母さんたちにもらったお菓子を二人でわけて食べたのだが、後から来た洋服をボロボロにしたベルと、カエルの目がバッテンになってへとへとになっているフランに、おやつを食べたことを怒られた。


まあ、楽しかったからいいんだけど。


カラフルになっていた了兄を描いていると、突如強い風が吹き付ける。


あ、と思った時には遅かった。突風は私のかぶっていた麦わら帽子をさらっていく。伸ばした手は届くことなく空へと舞いあがる帽子に、ペンを放り出し立ち上がった。


まるで何かに操られているかのようにふらふらと飛んでいく帽子を見ながら、私も同じようにふらふらと追いかける。


ようやく降りてきた帽子は、まるでそこを目指していたかのようにその場に立っていた人の手の中に納まった。


再びあ、と思って立ち止まる。


そこにいたのは、手の中にある麦わら帽子を見下ろしている赤いチャイナ服を来た雲雀さんに似ている人。リボーンたちにフォンと呼ばれ、私をかばってくれた人だ。


「どうぞ」


立ち止まっている私に気付いた彼は、柔和な笑みを浮かべその帽子を私に差し出してきた。それを受け取り、頭を下げる。スケッチブックはさっきの場所においてきてしまった。


「風にいたずらされたみたいですね」


その彼の言葉にこたえるように一陣の風が吹く。今度は飛ばされないようにしっかり帽子を持った。彼を見上げれば、まるで風に手を添えるように、そっと手を差し伸べている。


とても不思議な人だと思った。リボーンやほかの誰とも違う。不思議な雰囲気を持っている。彼もリボーンやお父さんたちと同じマフィアなのだろうか。


「おや?リボーンは一緒ではないのですか?」


小首をかしげる彼は、雲雀さんと顔が似ているのに性格は正反対らしい。ひばりさんが絶対しないような表情で私を見降ろしている。


首を横に振り、いないことを伝えるとそうですか。と言ったきりだった。特にリボーンに用事があったわけではないらしい。


「先ほどはすみませんね。もう大丈夫ですか?」


うなずいて返すと、彼はまた小首をかしげた。しかし何か思案するように視線をさまよわせた後、またやわらかい笑みを浮かべる。


「ここで何をしていたんですか?」


さっきまで寝そべっていた場所を指させば、彼はまた首をかしげる。私は、スケッチブックを取りに行くために戻ると、彼もあとをついてきた。


「ああ、絵を描いていたんですか」


[ぼうし、ありがとう]


「どういたしまして」


ふと、彼は上を向いた。その視線の先には、すぐそばに立っていた木だった。少し視線をさまよわせると、ある一点に視線をとどめ、ふと彼は相好を崩した。同じ場所を見てみるけど、そこに何があるのかわからず、もう一度彼を見上げる。


長いらしい髪は後ろで三つ編みにされている。


「鳥の巣、ですね」


その言葉にもう一度彼の視線をたどってみるけど私からは見えなかった。


「見てみますか?」


迷わずうなずくと、彼は私をゆっくり持ち上げる。香ってきた匂いは、だれのものとも似つかないもので、やっぱり不思議だった。


相変わらずやわらかい笑みを浮かべているこの人が、リボーンやヴァリアーであるマーモンと仲間であることがなんだか信じられなかった。


「しっかりつかまっていてくださいね」


一つうなずくと、彼は、私を持つ腕に少し力を籠め、一気に跳躍した。驚き、彼の服を握る手に力を込める。彼は、まるで猿のように木の枝をつかんだかと思うと反動を利用しつつするすると木の上へと登っていく。


そして、ある枝の上に降り立ったと思うと、そこに腰かけ体を安定させた。


「あそこです。驚かしてはいけませんよ」


彼が指さした、枝の根本には確かに鳥の巣があった。そして、そこにはもう成熟しきっているっぽい鳥が居座っていた。


もう11月だから、小鳥はいないだろうとは思っていたけれど、違う鳥が居座っているとは思わなかった。


じっと観察していると、その視線に気付いたのかこちらを向いた鳥は少し小首をかしげるとすぐに飛び立ってしまった。思わず手を伸ばすと、その手を止めるように彼の手が重なる。


「捕まえてはいけません。自然のままでなければ」


彼の手はリボーンのように私の手をすっぽり包んでしまう。瞳はどこまでも優しく細められ、黒く深いまなざしには慈しみがあふれているように見えた。


とても不思議な人だ、と何度目かになる感想がうかぶ。もう一度巣の方に視線をやると、小枝や葉っぱ、果てはどこから手に入れたのかわからないごみの切れ端などにより綺麗にあつらえられている。


鳥はあんな小さな体でこんな頑丈そうなものをどうやって作っているのだろうと思っていると、不意に甲高く短い動物の鳴き声が聞こえた。かと思えば、私の目の前を何かが通りすぎ、彼の肩の上へと走って行った。


「リーチ!どこに行ったのかと思えばこんなところにいたんですね」


リーチと呼ばれたその動物は猿だった。白い毛並の小さな猿は彼の肩に乗り、器用に座ったまま私の方を見て首をかしげた。その様子にフォンは微笑みを浮かべる。


「そろそろ降りましょう。どうやら客人のようですね」


フォンの言葉に首をかしげるも、彼は私をしっかり抱きかかえるとゆっくり降りていく。下を向けばいつの間にか、紫の髪をしたスカルと呼ばれた男の人がいた。


「おい、フォン!そんなところでなにやってるんだ!」


「バードウォッチングですよ。そちらはなぜ?」


スカルは、なぜかさっきよりも傷が増えていた。殴られたのかなんなのか、頬には痛々しい痣ができている。


「おおおお俺は、別にそいつを利用してリボーンの奴に仕返ししようなんて思ってないぞ!」


「…ああ、その傷はまたリボーンにやられたんですか。ですが、やめといたほうがいいですよ。どうやら溺愛しているようですし」


「そんなもん知るか!そいつを俺に寄こせ!」


「へえ、誰が誰を利用するって?」


キンキンとした金切声と、その内容に思わずフォンの服をつかむと、リーチが鳴き声を上げて私の肩に移動してきた。毛を逆立てスカルに威嚇するリーチはどうやら守ってくれようとしているらしい。


そんなとき、どこからともなく声が聞こえたと思えば霧が現れた。それが晴れたころには私たちとスカルの間にマーモンがいた。


「ま、マーモン!貴様、どっから現れた!」


「まったく。僕にそんな問いは愚問だよ」


「おおおお前には関係ない!さっさとどきやがれ!」


「君がフォンと戦おうが結果は見えてるんだしどうでもいいけど、そこに紫杏が関わってくるなら別だよ。紫杏はボスにも気に入られてるしね」


「なるほど。あのザンザスもですか」


「紫杏おいで。こんな野蛮人とかかわってたら碌なことにならないよ。僕が株のやり方を教えてあげる」


一応外見は幼児なのに株を教えるって…、とおもいつつ、降りようとするとフォンに抱えなおされた。あれ?おろしてくれないの?と彼を見上げると微笑まれた。


少し足をバタバタするけど、落ちますよとなだめられる。どうやら離す気はないらしい彼に、思わずため息をついた。


早くリボーン帰ってきてくれないかな。


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あきゅろす。
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