ふと、目を開けてみるとあたりは真っ暗だった。自分が今まで寝ていたことを、まだ覚醒しきっていない頭で理解し、周りを見回す。しかし、真っ暗で何も見えない。自分の手さえも見えない。ただ、すぐ横に段ボールのかさついた感覚が両側からするし、背中にも同じ感触がすることから、場所を移動したわけではないらしいことにほっと息をつく。 かくれんぼをしていたはずだが、どれくらいたったのだろう。それに、私は扉を開けていたはずだ。間違えて閉められてしまったのだろうか。とにかく、動こうと決めて立ち上がろうとするが、ずっと膝を抱えて座っていたせいで固まった体は思うように動かず、隣の段ボールへよろけてしまった。そのダンボールは思っていた以上に軽かったらしく、私の体を支えきれず横へとずれ、音を立てて転がった。 「誰だ!!」 その瞬間聞こえた声と、向けられるいわゆる殺気と呼ばれるものが体にまとわりついてきて、震えが走った。 いつぶりかもわからない、アルコバレーノと呼ばれていた者たちが全員そろった。ここ、ボンゴレ本部に。 ツナの配慮で談話室から移動したおれたちはある部屋へと通された。そこは、簡易キッチン付きの部屋で、中央に円卓がおかれ、8個の椅子が囲んでいる。 陽光が差し込む部屋に、どこか既視感を覚えた。そうだ。あの時だ。あの始まりの場所。俺たちは任務のためにある屋敷に集められ、ここと同じように円卓を囲った。名前くらいなら聞いたことがあるかもしれない奴らの集まりに、誰もが警戒し馴染もうなんてしなかった。ルーチェ以外は。 「ふん、趣味の悪い部屋だな」 「まったくだ。機能性のかけらもない」 「……嫌なことを思い出す部屋だね」 どうやら全員同じ気持らしい。それぞれ複雑な心境も何も表には出さず適当に椅子に座っていく。 「あ、キッチンがあるみたいなので、今お茶を淹れますね」 「ユニ、手伝おう」 「ラルさん!ありがとうございます!」 ユニが空気を変える。和やかな雰囲気でその場を満たし、簡易キッチンのほうでお湯を沸かし始めた。 スカルのほうを見れば、肩をはねさせうろたえる。 「な、なんだよ」 「お前はなんでそこに座ってんだ」 「そうだぞコラ」 「ど、どういうことだ!」 「ユニだけにやらせる気か」 「あ、姐さんがいるだろ!それにおれは客人だぞ!」 「ああ?」 「てめえは」 「「パシリだろうが」」 見事に重なった言葉にスカルは顔を青ざめさせ、あわててラルとユニのもとへ向かった。それをユニは嬉しそうに笑って受け入れ、スカルはそっぽを向く。なんだあいつら。そして、それを見ていたラルもイラッと来たらしく、ユニの見ていないところでスカルに蹴りを入れていた。 「にしても、よかったのか?リボーン。ボンゴレの本部なんかに俺らを呼んで」 「問題ねえぞ。それに俺は暇じゃねえんだ。お前らと違って」 「ふふっ、つまり動くのが面倒だった、ということですね」 フォンが腕を組んだまま微笑をこぼす。 「僕をここまで来させるなんて、交通費くらい出るんだろうね?」 「相変わらず君は金などというくだらないものにこだわっているのか」 「お前には言われたくないよ。マッドサイエンティストめ」 「天才科学者だ。その私がいたからこそ、呪いを解く方法が見つけられたのだが?」 「にしても、ユニもでかくなったよな。コラ」 「まあ、いろいろあったみてえだからな」 楽しそうに笑いながらラルと会話をしているユニのほうを見る。どうやらコーヒーができたらしく、いい香りが漂ってきた。 そのあとすぐ全員に配られ、話し合いは開始された。 そこはさすがプロといったところだろう。どれだけ普段性格が合わなかろうが、話し合いは滞りなく進められていく。 そんなときだった。 何かが動く気配がしたと思ったら、ガタンッという何かが落ちる音がした。全員の視線がそちらに集中する。聞かれたらまずい話であるため、全員まわりの気配には気を配っていた。それなのに今まで誰も気配に気づけなかった。 キッチンよこにある閉ざされた扉。たしかあそこ物置となっているはずだ。 「誰だ!!」 先に声を挙げたのはラルだった。それと同時に殺気が飛ばされる。しかし、様子がおかしかった。盗み聞きをしていたとも思えないほど、今は気配を消せていない。 「お前らやめろ!」 気づいた時には声を荒げていた。ある可能性、というよりほぼ確信に近い。なぜここにいるのかわからないが、この気配は確かに、紫杏のものなのだから。わからないはずがない。 「リボーン!聞かれていたかもしれないんだぞ!」 「大丈夫だ。俺の知っている奴だ」 「なぜ言い切れる!」 「俺だからに決まってんだろ」 自信満々に言い切れば、ラルからあきれた視線が返ってくる。それを無視して扉のほうへと足を進めた。開け放てば、無造作に置かれている荷物のほかに、一つの段ボールが転がり少しだけ中身が飛び出ている。 「紫杏」 ゆっくりと足を踏み入れれば、小さな気配が色濃くなった気がした。 「大丈夫だ」 もう一歩近寄り、その場で膝をつく。陰に隠れているらしい、段ボールの後ろから洋服の裾が見える。 「紫杏。来い」 それが合図だった。そっと顔をのぞかせた紫杏はその瞳に涙をため俺のほうを見る。そして、駆け出してきた。そのままおれの胸に飛び込めば、全身を震わせ、手を冷たくさせた紫杏が俺の腕の中にいた。 「もう大丈夫だぞ」 そっと頭を撫でてやれば、さらに肩に顔を埋めてくる紫杏。まるで離さないとでもいうようにスーツをつかむ紫杏に口角を上げる。 泣いているらしい紫杏の背中を撫でつつ、抱き上げる。 「紫杏かい?」 「ああ」 後ろから聞こえたヴァイパーの言葉にうなずき、その場から出ることにした。 明るみに出てみれば、奇妙なものをみるように5つの視線が向けられる。それらを無視して、腕の中でいまだに震えている紫杏をなだめることに努めた。 |