俺の目の前で楽しそうに言い合っている3人をよそに、これから来るであろう魔女っ子さんを想って苦笑した。 「犯人が誰かわかったよ」 「本当っすか!?さすが十代目です!」 「紫杏ではないのか?」 「さすがに、紫杏がこれを全部できるわけがありません。協力者、というより首謀者がいます。それは…」 言葉をつづけようとしたとき、ちょうどいいタイミングで扉が開かれた。入ってきたのは、確かに魔女の恰好に、魔法の杖を持った紫杏だった。そのかわいらしい格好に、頬が緩みそうになる。 しかし、紫杏は違った。扉のすぐ近くに立っていた異様な恰好をしている守護者を姿を見ると驚いたように少しだけ目を見開いた。そして、少し考えた後すぐに回れ右をして出て行こうとする。 その無駄ともいえる抵抗に、喉の奥で笑いを噛み殺した。 「紫杏」 呼び止めれば、肩をはねさせ固まる紫杏。 「紫杏がイタズラに加担するなんて、珍しいね?」 錆びついた音がしそうなほどぎこちなく振り返った紫杏はそっと俺の顔をうかがう。紫杏が持つかごには数個のお菓子が入っていた。 「でも、少しおいたがすぎるね」 小首を傾げ、どう言い訳するの?と目線で問いかけると、彼女は逡巡したのち後ろを振り返る。扉の外を見やった紫杏はしばらくすると、恐る恐るといった様子でスケッチブックを見せた。 ハロウィンの定型文がイタリア語で書かれたそのページに笑いそうになる。 「俺はいたずらされるのは嫌だなあ」 さすがに、相手が相手だ。何をされるかわかったものじゃない。 そう思いながら、机の上に用意してあったものを手に取り紫杏に近寄った。 「はい。小さな魔女さん」 差し出したそれは、麻衣が渡してくれたマフィン。それを彼女のかごの中に入れれば、驚いていた。 「そりゃ、ずりーぜ!ツナ」 「なんとなく用意しておかないといけないと思ってね」 さすがですといつものごとくほめたたえてくれる隼人。そして山本は苦笑をこぼしていた。そんな二人の様子に肩をすくめてみせる。 しょうがない。あいつは俺相手だと本当に容赦ないのだ。それがわかっていて、呑気にイタズラされてやるなんて御免だ。 「で、そろそろ出てきたら?」 「チッ、ばれてたか」 「気配を消すつもりもなかったくせに」 紫杏の後ろの扉から入ってきたのは、思った通りの3人。銃を持ったリボーンと、ナイフを片手でもてあそんでいるベルフェゴール。そして、カエルの被り物をしたフランだ。 「なんでベルやフランがかかわってるのかな」 「ししし、んなもん俺が企画者だからにきまってんじゃん」 「ミーは巻き込まれただけでーす。すべてはこの堕王子が」 「てんめっ、お前だって幻術つかって楽しんでただろ」 「それはー、先輩があまりにも幼稚だったからー、ちょっとは相手をしてやろうかなって思っただけでーす」 「サボテンにするぞ」 「きゃーっ、紫杏、ヘルプ―」 相変わらずなコンビに、あきれ果てる。リボーンに視線を向けると、彼は紫杏を抱き上げているところだった。 「で、なんでこんなことになってんだよ。リボーン。ちゃんと説明しろって」 「今日はハロウィンだぞ。子供はお菓子をねだってくれねえ奴は殺す日だ」 「激しく間違ってる!!」 「ちなみに、お前にはドクロ病弾を用意してたんだぞ」 「悪夢再びーっ!?」 「フランの幻術と技術班の勢力をつくしたスペシャルバージョンだぞ」 「無駄なことに技術使うなよ!」 ってことは何か?俺がもしお菓子を用意してなかったら、中学の時に味わったあの恥ずかしさを紫杏や麻衣の前で披露していたと? 「…ほんとうによかった…」 「ご希望なら今から打ち込んでやる」 「いらないから!」 頭を抱えたくなったその時、再び扉が開いた。今度は誰だ、とうろんげに扉を見ると、そこには眉を精いっぱいしかめさせている雲雀さんがいた。足を一歩踏み入れた瞬間から、彼の機嫌が急降下したのが見て取れた。 「群れてる」 呟かれた言葉はとても低く、いらだちが全面に現れている。 「…君たち、噛み殺すよ」 疑問形でもなく肯定を表したその言葉に、条件反射で身震いした。それは俺だけじゃなく山本や隼人も同じだったらしい。 しかし、これだけ殺気立っている雲雀さんをものともしない人物はやはりいた。 「あっれー?エース君じゃん」 「………なんでいるの。天才君」 なぜこの二人がエース君、天才君などと呼びあっているのかは不明だが、結局その呼び方で10年くらい続いているんだから不思議だ。 「うししししっ、だって今日はハロウィンだし」 煽ってる、そう思った時にはもう遅かった。 「ふーん、暇なんだね」 うすら笑いとともに投げかけられた言葉は、ベルの気に障ったらしい。口でカッチーンと呟きその手に器用にナイフを並べ立てる。それを見て、雲雀さんは口角を上げた。絶対に確信犯だ。 「もー、本当のこと言われたからって、キレないでくださいよー。めんどくさい人だな」 「ししし、お前から先に切り刻んでやろうか」 「勘弁してくださーい。ミーは関係ないんで―。八つ当たりとかガキかよ」 最後にぼそりと呟かれる言葉はどれも毒のある言葉で、やはりフランもベルを煽っているとしか思えない。 そして、始まるいがみ合いに、頭を抱えたくなった。 それが拡大してなぜが隼人やお兄さんまで参戦するんだから、もうどうとでもしてくれと投げ出したくなるのは仕方ないんじゃないかと思う。 そして、この乱闘の中、紫杏とリボーンは何か会話をした後リボーンは紫杏を抱えたまま出て行った。つまり放置。この混沌とした状態をそのまま放置。 「あーっもう!!いい加減にしろ!やりあうなら鍛錬場に行け!ここで暴れるな!」 結局俺の怒鳴り声もむなしく、戦闘に巻き込まれ部屋がめちゃくちゃになるのはあと数分後のこと。 |