「じゅ〜だいめ〜っ!!」 そう、なんとなく予感はしていたのだ。それが、確信に変わる声に思わず苦笑をこぼした。 今日は外へ行く任務もなく、執務室で書類整理をしていた。珍しいことに、今日は骸以外守護者も全員いるという状態に、何か問題が起こらなければいいけれど。と思っていた矢先の、隼人の叫び声だったためやっぱり無理だったかと肩を落とすだけだった。 そして、今、俺の目の前にいるのは、体から生臭さを醸し出している隼人だ。 上質なはずのスーツは、かわいそうなほどドロドロとしたもので汚れている。匂いからして卵であることは明白だった。 「隼人、何があったの?」 とりあえず、泣きついてきたということはまた何かしらに巻き込まれたのだろう。この古い友人は何かと問題に巻き込まれやすい。そして、この友人から自分も否応なく巻き込まれていくことを思い出し、苦笑を禁じ得なかった。 「聞いてください!十代目!」 詰め寄ってくる隼人に思わず息を詰まらせた。それを察して、すぐに離れてくれたが、これは本当にひどい。 「何がなんだか俺にもよくわからなかったんですが、部屋に入った途端いきなり卵が飛んできたんです!よけようにもなぜか体が動かなくて、この有様です」 「そう…」 一応俺の右腕である隼人への襲撃ということは、相手もそれなりな腕を持っているということ。さらに動けなかったことや相手がわからなかったことからすると幻術を使われている可能性がある。 となると、骸がいない今、クロームが関わっているのか? 「今日は何か変なこととかなかったの?」 「いえ、とくには…。あ、別に大したことはないんすけど、紫杏が…」 「え?紫杏?」 予想外の人物が話題に上ったことに考えを中断した。 「そうっす。実は、」 隼人が話し出そうとした瞬間、次の来訪者が来る気配に、また同じ被害者かなと思い、部屋が臭くなりそうだと思った。 「よ!ツナ!」 ノックもせずに現れたのは、山本。そう、山本のはずだった。 「真っ黒ーっ!?」 「はは!やられちまった!」 「全然気にしてねーっ!?」 悪戯されたっていうのに獄寺君とは対照的にとても楽しそうに笑っている山本。その彼の姿は頭から墨でもかぶったのだろう顔も洋服も真っ黒に染まっていた。 「ちょ、どうしたのそれ!」 「ん?なんか、いきなり上から降ってきたんだよなー。気づけたんだけどさ、なーんか体が動かなくってなー」 首を傾げなんでだろうと笑う山本に、こういうところは昔から変わらないなと苦笑する。笑って流せる彼がすごいと思う。 「ん?獄寺どうしたんだ?卵まみれじゃねえか」 「てめえに言われたくねえよ!お前こそ全身真っ黒じゃねえか!」 「おお!おもしれえよなー」 「のんきに笑ってんじゃねえ!」 「沢田、面白いことがおこったぞ」 「あ、おにいさ…、カラフルーっ!?」 山本が入った後で少し開いていた扉から入ってきたのはお兄さんだけど、今度は面白いほどにカラフルなお兄さんだった。どうやらペンキらしい。 「ちょ、どうしたんですかそれ!」 「ああ、階段を上ろうそしたらだな、前方から銃弾が飛んでくるから受けたのだ。そうしたら破裂してこの有様だ」 胸を張って答えるお兄さんに脱力する。まず屋敷内で銃弾が飛んでくることがおかしい。本当におかしい。そして、なぜその恰好のままここに来たのか。 「お!なんだ。山本にタコヘッドではないか。お前ら、何を遊んでおるのだ」 「テメエに言われたくねえんだよ!どう考えてもてめえが一番おかしいだろうが!」 「そうか?」 「ハハッ!先輩、カラフルっすねー」 「おう!面白いだろう!」 「お前ら二人とも黙りやがれっ!」 ああ、今日は平穏無事に過ごせたらと思っていたのに。目の前で繰り広げられるいまいちかみ合っていない3人の会話に、疲れがたまってくる。 銃弾というところで一人、思い当る人物。きっと毎度と同じ悪戯なのだろう。なんとも迷惑な。 「ぼ、ボンゴレ…。これをどうにか、してください…」 「なーっ!?」 のっそりと現れたのは黒いもじゃもじゃの塊だった。その塊の中心から聞こえる声は確かにランボのモノだ。 「お前、ランボか!?」 「は、はい…。走っていたら目の前にナイフがよぎって立ち止まった瞬間、頭に何か打ち込まれたらしく…、髪が伸び始めちゃって止まらないんで、す…」 そこで力尽きたらしく倒れこんだランボだが、髪はまだまだ伸びているらしく、部屋の外へとどんどん流れていく髪を見て、とても気持ち悪く感じた。 「で、3人とも、何があったの…」 きっと、クロームは関係ないのだろう。ということは、あと幻術を使える人物。あまり考えたくないが、ヴァリアーがかかわっているとしか思えない。獄寺君とかはともかく、山本は多少幻術に対抗できるはずだし。 「あー、もしかして、3人ともこうなる前に紫杏に会ってるの?」 「おお!あってるぜ!それがさー、」 「極限にあったぞ!京子を思い出してだな、」 二人が同じタイミングで同じことを話し出したため、獄寺君が毎度のごとく一喝した。 皆会っているということは紫杏も一枚かんでいるのか、それとも巻き込まれただけなのか。いや、きっと一枚かんでいるのだろう。あの家庭教師のことだ。否応なく巻き込んでいる気がする。 「で、紫杏と会った時はどんな様子だった?」 「それは俺から話します!十代目。今日は何の日かご存知ですか?」 「今日?ああ、ハロウィン?」 「さすが十代目です!!俺はすっかり忘れてたんですが、紫杏が仮装してたんです」 「そうそう!魔女の恰好してたよなー!フリフリでピラーって恰好しててよ」 「俺が十代目にお聞かせしてるんだ!邪魔すんじゃねえ!」 「ああ、極限にかわいかったぞ!昔の京子を思い出した!」 「それで?」 「俺はすっかり忘れてたんで、あれなんですが、お菓子をねだられまして」 「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ、って奴か」 「そうっす。でも、俺が持ってるわけもなく、そのあと…」 「イタズラされたってわけね…」 「ハハッ、いまどきのハロウィンって過激なのなー」 過激ですまされる話しじゃないだろうということはもう突っ込まないことにした。 「それにしても…、ナイフ、幻術、銃…。嫌な予感がするなー…」 こんな悪戯を思いつくような奴は限られている。そして、今回彼らにいたずらする際に使われた攻撃方法が嫌でも特定の人物を当てはめていくものだから、今日何度目かもわからない深いため息が漏れた。 |