その他の巡回

次に向かったのは、ここから近いということで雲雀さんの部屋だった。ここへの侵入は、してもいいけどすれば雲雀さんと乱闘になりかねないということで、リボーンと私だけでゲートをくぐった。


「かわいらしい格好をしていますね、紫杏さん」


[dolcetto o scherzetto]


いつも通り草をくわえ、立派なリーゼントを携えた草壁さんが、私の服装に対して驚くことなく褒めてくれた。


なので、私もそのままお菓子をねだってみると彼はその強面ににあわない優しい瞳を緩めた。


「よかった。もしかしたら、来るかもしれないと思っていたんです。どうぞ。リボーンさんもよかったら」


そう言って差し出されたのは、手のひらサイズの和菓子だった。しかも、しっかりリボーンの分まで用意しているあたりさすがだと思う。


「ありがたくいただくぞ」


「雲雀は奥にいます。先ほど任務から帰ってこられたので少し気が立っていると思いますが、リボーンさんがご一緒なら大丈夫でしょう。後でお茶をお持ちします」


「いや、そこに待たせてる奴もいるから用事がすんだらすぐに出てくぞ」


「わかりました」


草壁さんはきっちり45度にお辞儀をして、私たちを奥へと通した。


「恭さん、リボーンさんと紫杏さんがお越しです」


「通して」


「へい」


草壁さんによって開けられたふすまのさきには、あいかわらずただっぴろい和風の部屋。そして、そこの中央で着流しであぐらをかき座っているのは雲雀さんだ。


「やあ、赤ん坊に紫杏。今日は何の用だい?くだらない用なら噛み殺すよ」


「くだらなくねえぞ」


「まあ、君のその恰好でだいたい察しはつくけどね」


無表情のまま告げられ、本当に気が立ってるらしいことを感じ取る。いつもなら、多少なりとも表情を緩ませてくれるのだが、今日はそれは望めそうにない。このまま聞いてもいいのかわからなくて、リボーンを仰ぎ見れば、言え、と顎で示された。


[dolcetto o scherzetto]


「…おいで」


文字をみたはずなのに、告げられたことばは予想外なもので、静かに部屋に響いた。抑揚のない声と、感情を映さない雲雀さんの切れ長の瞳に、思わずリボーンのズボンを握る。


「紫杏」


「大丈夫だぞ」


リボーンにまで背中を押されては行かないわけにはいかなくて、嫌に静かな部屋と、草壁さんの気が立っているという言葉に警戒心を抱きながら、ゆっくり彼のもとへと足を進めた。


「遅い」


しびれを切らしたらしい雲雀さんが手を伸ばしてきて、その手は私の腕をつかむと一気に引き寄せた。気づけば私は彼の膝に乗せられ腕の中にすっぽりと納まっている。


着流しの少しはだけたところから彼の胸板が見えて、気恥ずかしくなりもぞもぞと体を動かした。それすら咎めるようにだきしめる腕に力をこめられる。


「今、哲が持ってくる」


突然上から降ってきた言葉に、意味を理解しきれず首をかしげるとお菓子、ほしいんでしょ。とどこか呆れたような声で返された。


「で、赤ん坊が絡んでるってことは、いたずらは何をやってるんだい?」


「今回のことは俺主催じゃねえぞ」


「へえ…。まあ、どうでもいいけどね。もし僕がお菓子をあげなかったら、君が遊んでくれるかい?」


雲雀さんの遊ぶというのは、つまり戦闘を意味している。静かながらもその声音に楽しげなものが含まれ、そして彼の切れ長の黒目に獰猛な肉食獣のような光を放ったのを見て、私に向けられているわけじゃないのに背筋に震えが走った。


そういえば、最初に殺気を当てられたのも、雲雀さんだったと、変なところで思い出す。


「最近、おもしろい任務がなくてね。退屈してるんだ」


「それはツナに言え」


雲雀さんの手が、私をなだめるように軽く背中をたたく。


「恭さん、お持ちしました」


「入って」


さっき別れた草壁さんが何かを手にして、私たちのほうへ近寄る。それを受け取った雲雀さんは、草壁さんをすぐ下がらせた。


「ヒバリ!ヒバリ!」


「やあ、ヒバード。君もほしいのかい?」


「ホシイ!ホシイ!」


パタパタと懸命に翼を羽ばたかせながら、ヒバードがこの部屋を旋回したあと、私の頭の上へと降りてきた。


「ほら」


差し出されたものを受け取ると、それは大福だった。とても久しぶりにみるそれに、思わず凝視してしまう。私の掌に収まるほどの大きさの白い大福はナイロンで丁寧に包まれていた。


雲雀さんは、私を膝の上で抱えなおすと、食べないの。と聞いてきた。いつのまにか、普段とあまり変わりない雰囲気に戻っていた。


「紫杏、今度君から綱吉に言っておいて。つまらない任務を回すなら噛み殺すよって」


言葉とは裏腹に私の髪をすくその手つきはとても優しい。ヒバードが再び飛んだと思ったら、頭上を数回旋回してとびたっていった。どうやらお菓子をもらって満足したらしい。


「ちょ、困ります!」


「かまわん!」


突然草壁さんと、了兄の声が聞こえたと思ったら、ふすまが勢いよく開けられた。ふすまを背に胡坐をかいていたリボーンは口端を上げる。


「雲雀!」


「無断で入らないでくれるかい。噛み殺したくなる」


「いいではないか。それより、聞いたぞ!」


「ハア、仕事の話なら後で哲に言って。これ以上群れるなら噛み殺す」


どうやら室内に了兄と草壁さんも入ってきたことにより人口密度が増え、イラついたようだ。さっきまでなかったしわが眉間に刻まれている。


「ん?おお!紫杏ではないか」


[dolcetto o scherzetto]


「?ああ、ハロウィンか。極限、昔の京子を思い出すぞ」


「どうでもいいけど出てってくれるかい?」


「いいではないか。それに、俺もハロウィンに参加するぞ」


「笹川さん、お菓子持ってるんですか?」


肩を落とした草壁さんが、呆れながら問いかける。どうやら了兄の強引さには慣れているらしい。


「極限に持ってない!」


「なら悪戯決定だな」


「おお!何をされるのだ?」


「それはあとでのお楽しみだぞ」


「そうか。うむ。ならば楽しみにしておくとしよう」


「なら、もう用は済んだし行くぞ。紫杏」


立ち上がったリボーンに頷く。雲雀さんの腕から出て、リボーンの方に駆け寄ると、そのまま抱き上げられた。


「出てくなら、これも連れて行って」


「これとはなんだ!これとは!」


「君のことだよ。邪魔だってわからないのかい?」


「それは俺の仕事じゃねえぞ。じゃあな」


[ありがとう]


かなり温度差のある言い争いを背後に、私とリボーンは風紀財団を後にした。


クロームさんやハルさん、お母さんからは、私がハロウィンの恰好をしていることを聞きつけていたらしくお母さんの部屋に入った瞬間に3人からお菓子をもらえた。そして、待っていましたとばかりに写真を撮られ、そのあとは女子会が始まってしまったため私は部屋を出た。


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