雷雨のイタズラ

再び歩き出した私の後ろにいつのまにかいた3人は、それぞれ口元に笑みを浮かべていた。上機嫌らしい3人に、何があったのだろう?と思うも、さっきかすかに聞こえた悲鳴を思い出し、聞かないでおこうと決めた。


想像できるも、なんだか怖いことしか思い浮かばないし。


そして、次のターゲットはすぐにやってきた。ランボだ。


「おや?かわいらしい恰好をしているのは紫杏じゃないですか。なんだかお久しぶりです」


[ひさしぶり]


「その恰好ということは…、ああ、今日はハロウィンですか」


[dolcetto o scherzetto]


「んー、俺もお菓子が欲しいところですが、さすがにこの歳になるともうもらえないか…」


何かをぼそぼそと呟き、肩をおとしていたが、すぐにポケットをまさぐりだした。ランボなら飴なりなんなり持っているだろうと思っていたし、これでリボーンたちの悪戯が彼に向くことはないだろうと一安心する。


ランボが反対側のポケットに手をつっこんだまま、私の後ろへと視線をやった瞬間、彼はまるでメデューサに会い石になってしまったかのように固まった。


その端正な顔をいっきに蒼白にさせると、次にはその眼に涙を浮かべ始めた。


「う…っ」


小さいうめき声が聞こえ、首をかしげようとした瞬間、ランボは大きく泣き声をあげながら脱兎のごとく逃げ出した。それはもう、本当にはやかった。


「ししし、相変わらず泣き虫だな」


「あれで、よく守護者になれましたよねー」


「まあそういってやるな。あれでも避雷針の役には立つぞ。あと、八つ当たりな」


「そういや、リング争奪戦の時、20年後のあいつは強かったな…」


「ってことはあと10年もまたなきゃいけないってことですかー?使えないですねー」


ランボの姿が見えた瞬間、隼人の時と同じく姿を消していた3人がいつのまにか私の後ろにいた。


ランボが逃げたのは十中八九彼らの仕業だろうと思う。特に、ランボはリボーンを敵視しているが、リボーンは格下は相手にしないとランボをあしらっている。あしらっているといっても、向かってくるものを受け流すわけではなくちゃっかり返り討ちにしているのだ。そして、ランボが大泣きするのはいつものこと。


[なにしたの?]


「俺たちは何もしてねえぞ」


「そーそー。何もしてないぜ?だって俺王子だし」


「白々しいこといいますねー。紫杏、こんな汚い大人になっちゃだめですよー」


「俺はまだ10歳の子供だぞ」


「王子が汚いわけねえじゃん?」


「どの口がいうんですかー。ガキと堕王子が」


「あ?」


「カッチーン」


フランが聞こえるか聞こえないかという声量でガキと堕王子がと呟いたが、それをばっちり聞いていたらしい二人が、それぞれ獲物を構えフランへと向けた。


さすがに、二人相手にするのは無理だと思ったのか、わずかにその顔を青ざめさせ、私を抱き上げるフラン。


「わー、暴力反対ですー。紫杏かくまってくださーい」


「紫杏盾にするとかまじふざけんな」


「ハチの巣にされてえか」


フランに向けられる武器イコール、私に向けられていることにもなるのだが、おふざけである一触即発の雰囲気に3人はノリノリだった。


ここに来た当初なら、わずかな殺気でも震えるほど怖かったのに、今じゃ慣れたのか全然震えることはない。それは直接的に向けられたものではないからだろうけど、それでも、だ。こういうときに慣れってすごいと思わざる負えない。


「あ、ほら、次のターゲットですよー。ターゲット」


「チッ」


ベルとリボーンの舌打ちが重なった瞬間、フランは私を床におろし、3人は瞬く間に消えて行った。その俊敏さに呆けるしかできない私に、不思議そうに声がかけられた。


「何やってんだ?紫杏」


振り返るとそこにいたのはたけ兄だった。たけ兄は鍛錬をしていたらしく、袴姿に竹刀を担いでいる。


[dolcetto o scherzetto]


「?ドルチェット、オ、スケルツェット?お菓子ほしい、さもないと、いたずらする?」


しゃがみこんでくれたたけ兄はスケッチブックに画かれている文字をひとつひとつ読み取り、解読していった。


「あーっ!ハハッ!お菓子くれなきゃ悪戯するぞってことか!」


やっと思い至ったらしく、たけ兄は楽しそうに笑っている。


「ハロウィンなんて忘れてたのな。でも、わりいな。今お菓子持ってねえんだ」


[いたずらされちゃうよ?]


「おう!どんないたずらするんだ?」


[あとで]


「?いたずらは後でなのか?」


首をかしげているたけ兄に首肯すると、そうか!と私の頭を豪快に撫でた。リボーンたちがいたずらするのだといってもいいのか迷ったが、まあ、伏せておこう。うん。


「ハハッ、じゃあ楽しみにしてるな?」


そういって、再びその大きな手で私の頭を豪快に撫でた後、竹刀を担ぎ上機嫌な様子で歩いて行った。


どうか、たけ兄の悪戯が小さいものでありますようにと思わずにはいられないのであった。


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あきゅろす。
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