家族に、なれますか?

目の前にある豪華な料理に目を輝かせる。きらきらと光っているように見える料理たちに口の中に唾が広がった。


「ほら、突っ立ってないで席につけ」


リボーンに手をひかれて、一つの椅子に座らされる。けど、背が低いせいか顔がやっとテーブルの上をのぞかせるぐらいで、とてもじゃないけど食べれない。


「…椅子が低いな。何か…。あの、クッションでいいか」


リボーンの視線の先にはソファーの上にあるクッションがあった。結構大きいため、あれを下に引けばきっと普通になるだろう。 


リボーンは、それを持ってきて、一回私を降りさせると、椅子の上に置き、私もその上からのせた。


「ぴったりだな」


「ハハハ、紫杏はちいせえのな」


そりゃ、5歳ですから。


「ほら、食っていいぞ」


リボーンは私の隣の席に座ると、食べ始めた。私も、フォークに手を伸ばして食べ始める。今日はボンゴレスパゲッティーだった。
で、食べようとするんだけど、意外と手を使うことができない。それに、口に持って行くんだけど口が小さしせいかなかなか食べられなかった。
そして、口からこぼれていく。


「……」


なんか、悔しい。
なんとか、下には落ちないように頑張って食べてはいるものの、昨日まで17歳だった私にとってはこの感覚にはなれない。それに、もどかしい。
こんなにも、フォークを使うのって難しかったかな?


なかなか、スパゲッティーをフォークに絡ませることができなくて悪戦苦闘しながらもなんとかおなかがいっぱいになるまで食べた。
でも、食べた量は皿の半分ぐらいだった。


「なんだ。紫杏、もういいのか?」


うなずく。大人の彼らと同じような量を入れられた皿を半分も食べたんだから、もうおなかがいっぱいで何も入らない。
それにしても、久しぶりに誰かと食べたなあ。
ママはずっといなかったし、自分で作ってたし。


でも、5歳になったらもう料理はできないかなあ。


料理は、好き。誰かがおいしいと言ってくれたから。誰かと食べるのも好き。誰かが一緒に笑ってくれるから。


ドアが開く音にそちらを見れば、沢田さんと麻依さんとしらないお爺さん。お爺さんは、とても優しいまなざしをしていて、どこか沢田さんに似ている、と思った。顔が、という訳じゃなくて雰囲気が。


「9代目!?なぜ、9代目が…」


「チャオ。9代目」


「やあ、リボーン。相変わらずかい?」


「そうだな」


「紫杏ちゃん。こっちにおいで」


手招きをする沢田さんに首をかしげつつ、椅子から飛び降りて近づく。9代目と呼ばれたお爺さんは、私の前にしゃがみこんだ。


彼の黄土色の瞳が私を見つめる。


「はじめまして。私は、ティモッテオという」


[はじめまして。紫杏です」


「紫杏というのか。いい、名前だね」


[ありがとうございます]


優しく細められた瞳に、吸い込まれてしまいそうな感覚と、すべてを見透かされてしまいそうな感覚が入り混じって変な感じがしたが、名前をほめられたことに素直にうれしく思った。


「ねえ、紫杏ちゃん。話が、あるんだ]


「…?」


しゃがんで私と視線を合わせた沢田さんの瞳をまっすぐに見つめる。鷲色の瞳が私を真剣に見つめてくる。


「紫杏ちゃん。家は、ある?」


それを聞かれた時、肩が跳ね上がった。そしてショートした頭の隅で、ああ、もしかしたら孤児院行きかもしれない。ここを追い出されるのかもしれない。そう思った。


「おい、ツナ」


立ち上がったであろうリボーンを沢田さんは視線だけを向けて黙らせた。
でも、次に出てきた言葉に私は目を見開いた。


「俺達の、俺と麻依の『家族』にならない?」


「!?」


「なっ!十代目!?」


獄寺さんが音を立てて椅子から立ち上がった。でも、私は沢田さんの瞳から逸らすことができなかった。自分の耳が信じられなかった。
幻聴?
冗談?
信じられない、信じられない、信じられない…。


「守護者も、皆一緒に食卓を囲んで、その日あった楽しかった事とか腹が立ったこととか、たくさん。たくさんくだらない話をしよう。オレ達の子供になってください」


柔らかく微笑み、私の頭をなでる彼を見つめる。その瞳は、すべてを包み込むようなそんな大きさがあった。


私は、どう答えればいいかわからなくて、視線をさまよわせた。そばで笑っている麻依さんも温かいまなざしを向けている。


後ろを振り返れば、立ったままの獄寺さんにリボーン。雲雀さんと六道さんはもくもくとご飯を食べていて、山本さんは笑顔だ。ランボさんも笑っている。


[わたしは、ここにいてもいいの?]


家族という以前に、ここにいてもいいの?


「当り前だろ?」


熱いものが胸の奥からこみ上げてくる。また、やり直せるかな?こんどは、ちゃんと。
この人たちのもとで、今度はちゃんとやり直せるかな?ママみたいになってしまわないかな?


[わたしは、みんなのかぞくになれますか?]


溢れてくる涙は止めることができない。だって、目の前にある顔は、笑っていて、今までのぞんでも手に入れられなかった幸せがここにあって、それは、手を伸ばしてきた。
家族に、なってくれると。


「もちろん。紫杏ちゃんがいつでもただいまと言って帰れる場所をつくるよ」


ねえ、ママ。
ママは、私がいなくなって今はうれしい?
今、楽しんでいる?
ねえ、ママ、私…。
私、新しい家族と暮らしてもいいかな?
もう、甘えてもいいかな?
この人たちの、家族になっても、いいかな?


[よろしくおねがいします!]


「よかった。よろしくね、紫杏」


大きくうなずく。そんな私を、沢田さんは抱き上げてくれた。麻依さんも頭を撫でてくれる。


それからは、皆で少しお話をして、私は気付いたら寝てしまっていた。





「綱吉君」


9代目はソファーで寝てしまった紫杏の髪をなでながらオレの名前を呼んだ。


「このこを見て、超直感が何もいわなかったわけではあるまい?」


「…だからこそ、ですよ。9代目。何か、あるからこそ…」


「…『Luce triste』か」


「9代目?」


「いや、なんでもないよ。さて、私はそろそろ戻るとするよ。お邪魔したね」


「送ってくぞ。9代目」


「いや、その必要はないよ。ありがとう。リボーン」


9代目はもう一度紫杏の髪をなでた後にリビングを出て行った。


「じゃあ、オレ達も部屋にもどろうか。ね、麻依」


「そうね。紫杏ちゃんも寝ちゃったし」


「じゃあ、皆。おやすみ」


オレが紫杏を起こさないようにそっと抱き上げた後、麻依と一緒にリビングを出た。


そのあとは、紫杏を部屋のベッドに寝かせてオレと麻依の寝室に戻る。


「ねえ、綱吉?」


「何?」


「明日から、楽しみだね」


「…うん。そうだね。明日、買い物に行かなくちゃいけないね。紫杏の洋服買ってあげなくちゃ」


「本当!?やった!かわいい服選んであげよう」


楽しそうにはしゃぐ麻依の髪をなでる。今、隣にいるのが麻依で本当によかったと思う。…言わないけどね。恥ずかしいし。


「明日のために、もうねよう?おやすみ、麻依」


「おやすみ、綱吉」


どちらともともなく、顔を近づけ軽くキスをしてから2人してベッドに入り眠りにつく。



新しい家族に祝福を…―――


Family…家族
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あきゅろす。
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