嵐にイタズラ

「で、悪戯は何やるんだ?」


廊下を進んでいく私の後ろに、3人が並んでついてくる。ちらりと後ろをふりかえると、なんとも珍しい組み合わせに、お父さんあたりが見たら頭を抱えそうだと思った。


歩いているうちにずれそうになるとんがり帽子をなおす。私はちゃっかりベルが持ってきた魔女服を着せられている。黒いエナメル生地のワンピースには、胸元に白い星がつけられ、腰の部分からスカートの上に黒いレースがあしらわれている。肘まである黒い手袋もつけて、出来上がりだ。


ちなみに、お菓子を入れる用の小さなかごまであって、小道具ばっちりだ。


「そんなの決まってんじゃん」


ベルの楽しそうな声。後ろを見てみると、ベルが小声で何かをリボーンたちにいっていて、それを聞いた彼らの顔はとても悪い顔だった。たとえるなら、まさに悪代官。


これから、被るであろう悪戯を思い、みんなにさきに心の中で謝っておいた。








「紫杏じゃねえか。って、なんつーかっこうしてやがる!」


前方から書類を見ながら歩いてきたのは隼人だった。彼が第一ターゲットとなるらしく、後ろに歩いていた3人は素早く姿を消した。その早技にさすがマフィア、と思いつつ、隼人へと近づく。


[dolcetto o scherzetto]


ドルチェット・オ・スケルツェット。日本語にするとお菓子くれなきゃいたずらするぞ。英語にすれば、Trick or Treatだ。リボーンがご丁寧に書いてくれたのだ。


「あ?…ハロウィン…、か?」


立ち止まってくれた隼人は、私と目線を合わせるために膝をついてくれた。隼人の問いに、うなずいて手を差し出すと、彼の眉間に深いしわが刻まれる。しかし、険しい顔というよりちょっと困ってる風だった。


「つーことは、もう11月か」


深いため息と共に、前髪を掻き上げる。懐からタバコを取り出し、それを加えると、ふと気づいたように私へと視線を移し、タバコを箱の中にしまった。


[すっていいよ?]


「いや…、あー…くそっ、日にちの感覚がなくなってやがる。で、その恰好は麻衣にされたのかよ」


首を横に振る。誰、っていうのは言えないので、もう一度dolcetto o scherzettoの紙を見せると、隼人の眉間のしわが深くなった。


「んなもん、欲しいなら厨房にでもいきゃ、なんかもらえるだろ」


[はやとからは?]


「俺が持ってるわけねえだろうが。アホじゃねえか」


[いたずらされちゃうよ?]


「あ?ガキが考えるようないたずらなんて所詮たいしたもんじゃねえだろうが。じゃあ、俺は忙しいんだ」


いたずらするのは子供の私ではなく、大人であるベル、リボーン、フランなのだけど、と思いつつ、廊下を颯爽と歩いていく隼人の後姿を見送った。







ったく。山本がミスした書類を何で俺が直さなきゃなんねえんだよ。


さっき、十代目から頼まれた書類を睨み付け、ぐちゃぐちゃにしたいのを必死でこらえる。これは十代目から頼まれた大事な書類だ。山本なんかより右腕である俺を頼ってくださったのだ。


そう心の中で唱えて、山本に対する怒りをなんとか鎮める。


にしても、もう11月になるのか。先ほど別れた紫杏の姿を思い出し苦笑した。どこで買ってきたのかはしらねえが、魔法使いらしき恰好をしていた紫杏。大方麻衣かクロームあたりにでも着させられたんだろう。あいつら女はイベントってものを何よりも重要視してやがるからな。


俺の部屋につき、一度書類を机の上に置く。


十代目が急ぎじゃないといってくださったのだから、今日の任務の報告書を書いてから、この山本の書類をすることにした。


俺を気遣って、謝られた十代目の懐のでかさにほれぼれしつつ、その辺のメイドに何か飲むものを持ってこさせようともう一度部屋から出る。


ふ、っと頭上が暗くなった気がして上を見上げた。


そしてその上のものを見た瞬間、目を見開かずにはいられなかった。





「ギャアアァァァ…ァァ……」






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あきゅろす。
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