魔女コスプレは誰の趣味

「うししっ、じゃーん。これなーんだ?」


目の前で不敵に笑う王子の手には見慣れぬ洋服が。そしてその隣では、とてもやる気がなさそうに座り込んでいるフランがいた。


部屋にいると、突然窓からはいってきた二人。そして挨拶もそこそこに切り出された今の現状に目を瞬かせる。


「せんぱーい、脈絡なさ過ぎて、まるで先輩の趣味みたいですよー。その魔女服」


「俺の趣味なわけねえだろ。ルッスのだし」


「あー、まああのオカマなら持ってそうですけどー」


[なんでまじょ?]


「今日何の日か知らねえの?」


今日?はたして何か特別なことは在っただろうか?首を傾げ考えてみるも思い出せなかったから、首を横に振る。


「ハロウィンだよ。ハロウィン」


ちょっとつまらなさそうに口をへの字に曲げたベル。だがすぐにその口元を釣り上げた。


「で、いたずらしに行こうぜ」


あれ?ハロウィンってそんな行事だっけ?いたずらオンリー?


「お菓子くれなかったら、じゃないんですかー?」


「問答無用」


「うわー。これだから常識のない堕王子は」


「あ?なんつった?」


「なんでもありませーん。空耳じゃないですかー?あ、難聴なんじゃないですかー」


「カッチーン」


そのあとは恒例のごとく続いていく二人の言い争いに、結局何をしに来たのだろうかと首をかしげた。


それにしてもハロウィンか。日本じゃそこまで浸透していない行事だから、すっかり忘れていた。実際、私はこれまでにハロウィンというものをしたことがない。学校の行事でもあまりハロウィンはやらないし、クリスマスほど大々的なイベントでもないせいか、気づけば過ぎていたなんてことはざらにある。


それから10分後。ようやく収拾を見せた二人のじゃれあいに、走らせていた鉛筆を止める。


「そういえばー、何描いてるんですかー?」


ソファーに座る私の隣にどさっと腰を下ろしたフランがかぶっているカエルにナイフを刺したまま大きくあくびをする。


今まで描いていた絵を見せると、その眠そうな目を少しだけ見開かせた。


「…リアルな先輩なんて気持ち悪いですねー。というか、しゃべらないぶん、こっちの絵のほうがよっぽどいいんじゃないですかー?」


「おっ、俺の絵ジャン。ししし、さっすが紫杏。よく描けてんじゃん」


「しってますかー?ナルシストってー、バカなんですよー。あ、そうなると先輩ってバカってことになりますねー」


「は?俺ナルシィじゃねえし」


「ハッ、ナルシストの意味も知らないとか」


「知ってるにきまってんだろ!てめえ、まじ殺す」


あれ、この二人、結局何しに来たんだろう?ハロウィンから激しく脱線した後戻る気配を見せないんだけど…。


ソファーに座ったまま、ヴァリアーにいたころで慣れてしまったためそのままスケッチブックへと視線を移した。しばらくしたら気もすむだろうし、彼らにとってはこれも遊びの一つなのだ。


飛び交うナイフが壁に刺さったりソファーに刺さったりしているが、その辺はきっと弁償してくれるだろう。してくれなかったらお父さんに頼もう。うん。そうしよう。


向かいにあるソファーにベルのオリジナルナイフが刺さるのを見ながら、そう決める。ベルとフランはお父さんのボスモードがどうも苦手らしい。前にぼやいていた。


と、突然二発の銃声音が部屋中に響いた。ついで、今まで言い争っていた二人がぴたりと止まる。


「テメエら。それ以上暴れてみろ。ザンザスに言って減俸にさせるぞ」


聞こえた声はいつのまにか部屋の中にいたリボーンだった。驚いて目を瞬かせていると、懐に銃をしまったリボーンが私の方へ近づいてくる。


「怪我は?」


首を横に振ると、ならいいと言って頭を撫でられた。


「いきなり発砲とかオーボーですよー」


「人の部屋で喧嘩してんじゃねえ。よそでやれ」


「別に戦ってもいいけど…、今回は違う用事だし」


ナイフを投げる途中だったらしいそれは、ベルの手の中に納まったままぶらぶらと揺らされている。ちょっと不完全燃焼といった様子のベルはつまらなさそうにリボーンを見た後、気を取り直したように私の方に近寄ってきた。


「で、てめえらは不法侵入してまで何しに来たんだ」


暇なのかヴァリアーは。とあきれているリボーンに暇じゃねえし。と返すベル。それに対してフランが、暇じゃなかったらここにいませんよねーと目をそらして呟いていた。


「ししし、今日ハロウィンだろ?だから悪戯めぐりしようと思ったんだよ。紫杏は菓子もらえるし、俺らはいたずらできてストレス発散できっし、一石二鳥。王子天才」


歯を見せて笑ったベルに対し、リボーンは何やら考え込むようにハロウィンか、と呟いていた。いったいどうしたんだろうと彼の仰ぎ見ると、目があった。見つめあうこと数秒。リボーンが口角を上げニヒルな笑みを浮かべた。


「おもしろそうだな」


発せられた言葉に、思わず肩を揺らす。まさかまさかのリボーンも乗るパターンらしい。リボーンならあほらしいとでもいって突っぱねるかと思ったのに。むしろ期待していたのに。子供が魔女服を着ればほほえましいけど、中身17歳の私が魔女服は少し痛い気がする。精神的にキツイものがある…。


「ししし、だろ?」


「そうと決まれば紫杏。さっさと着替えろ。今日はそれなりに守護者もいるからな。菓子も豊富だぞ」


心底楽しそうに言われてしまえば、というより着ろオーラを3人から出されてしまえば、もう私には拒否することなどできないのだった。


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