目が覚めると、そこは私の部屋だった。 寝起きで働かない頭のまま、見慣れた天井を見上げ続ける。カーテンが閉められているせいか、薄暗い室内は、どこも変わったところはない。 いつのまに寝たんだろう、とふと疑問に思い昨日のことを思い返してみた。 昨日は確かお父さんとリボーンの誕生パーティーがあったはずだ。ユニさんとも会って、女の子たちに悪口言われて、骸に助けられて、テラスに出て、それから…。 それから? そこで疲れて寝てしまったのかもしれない。だったら、運んでくれたのは骸なのかな? 不意にドアをノックする音がして、体を起こした。開かれた扉の向こうにはリボーンがいた。 「起きてたのか」 さほど、驚いてもいない様子のリボーンに一つうなずく。 「昨日のことは覚えてるか?」 頷く。 「体調に問題は?」 何を聞きたいのかわからなくて、首をかしげるとリボーンは小さく息をついた。 「昨日のことはどこまで覚えてる」 サイドテーブルに置いてあったスケッチブックを手に取りペンを滑らせる。もう頭から眠気は消えていた。 [むくろと、てらすでおはなしした] 「そのあとは?」 首を横に振ると、何かを思案するようにちいさくそうか、とだけ呟いた。あのあと何かあったのだろうか、と思って首をかしげると、なんでもないと頭を撫でられる。 なんだか、らしくないリボーンに再度首をかしげる。とりあえず心配されているらしいことはわかるけど、そんな心配されるようなことをした覚えはなかった。 [どうしたの?] 「…紫杏は…、いや、なんでもねえぞ」 言いよどむリボーンなんて本当に珍しい。心配になって、帽子の鍔でかくしてしまった目をしたから覗き込む。陰になったリボーンの涼やかな目元は今は何かを考えているように見えた。 体調でも悪いのだろうか?そう思ってリボーンの頬に手を伸ばしてみる。ペチペチと掌で触ってみるけれど、そういえばこんな風に触るのは初めてかもしれない、と思った。 なんだか新鮮で、抵抗されないことをいいことに、しばらく頬や耳、鼻などを触っていると不意にリボーンが身じろぎをした。 「紫杏」 呼ばれたが、それは咎めるような響きはなく、優しく耳に届いた。頬に触れていた手に、リボーンの手が重なる。私の小さくなった手よりずっと大きくすっぽりと入ってしまう手だ。その手が、リボーンの頬に触れていた手に重なった。 「紫杏は骸が好きか?」 質問の意図がわからなくて首をかしげたが、すぐに頷いた。 掴まれていない手で、リボーンのくるんと丸まっているもみあげに触れてみる。なんど伸ばそうとしてもやっぱり丸まってしまう強情なもみあげ。リボーンは天然パーマなのだろうか? 「なら、ほかの守護者も好きか?」 もう一度うなずく。今日は本当にリボーンがリボーンらしくない。なんというんだろう、迷ってるような感じもするし、何かを深く考え込んでいるようにも見える。 「なら、俺は?」 片手がふさがっていたためもう一度うなずいて答えた。 「そうか…」 そして、リボーンに手を握られたまま、気づいたらリボーンの顔がすぐ近くに迫り頬に吐息がかかった。やわらかいものが押し付けられ、それはすぐに離れていく。 「俺も好きだぞ」 リボーンがまっすぐに私を見る。黒曜石の瞳に私の顔が映る。今、起こったことが理解しきれなくて、リボーンを呆然と見ていると、彼は笑みをこぼし私の頬を一撫でして立ち上がった。 「もうすぐ朝飯だから遅れるんじゃねえぞ」 出ていく間際の言葉がうまく頭に入ってこなくて、扉が閉まるまで私は何も反応ができず、見送るだけだった。 えっと、今、何が起こった? 頬に添えていた手に重ねられたリボーンの手。そして、そのまま手を握られたかと思ったらリボーンが近寄ってきて、何だろうと思っていたら…。 先ほどの出来事を一気に理解した頭は沸騰しそうだった。 漫画だったら音を立てて赤くなっているだろう。実際に頬に手をやると、そこは熱くなっていて鏡を見るまでもなく熱を持っていることが理解できた。 朝から刺激が強すぎる。 質問の意図も、いきなりほっぺチューの意味もわからない。 このあとしばらく、羞恥に悶えているが、出ていく 間際のリボーンに言われた言葉を思い出して、とりあえず着替えることにした。 リボーンの顔をちゃんと見れるだろか…? |