鮮烈なまでに咲き誇る

会場に戻った私たちはしばらくあいさつ回りに忙しかった。でも、最初の人の時ほどぶしつけな視線は感じなくなった。


重要な人への挨拶は粗方終わりを迎えたころ、私たちの方へと近づく人がいた。彼はその端正な顔に人懐っこい笑みを浮かべて片手を振っている。


「よ!ツナ」


「ディーノさん」


「紫杏も元気にしてたか?」


お父さんの後ろにいた私に気付いたディーノさんに、うなずいて返す。ディーノさんはまさに王子様だった。お父さんもお父さんだけど、ディーノさんはさらにって感じだ。これで白馬にでものっていたら、実写版白馬の王子様だろう。


よし、こんどその絵をかいてみよう。


「麻衣も調子どうだ?」


「元気ですよ。最近はつわりもおさまったし」


「そうか」


「ククッ、ボスそわそわしてたもんな?母親になった麻衣さんに会うのは初めてだから」


「ろ、ロマーリオ!」


「ほら、言わなくていいんですかい?麻衣さんにお願いごとがあるんだろ?」


ロマーリオさん率いる、部下たちは彼の言葉に肩を震わせて笑い出した。それを見てディーノさんはさらに慌て始める。


「ちょ、いうなって!」


「ディーノさん?」


「ま、麻衣!いや、あの、さ」


「はい?」


「えっと、その…、お腹、さわらせてもらっても、いいか?」


しどろもどろになっているディーノさんは言った後すぐに嫌ならいいんだ!といってせわしなく手を振った。


「ハハッ、大丈夫ですよ?」


「よかったなー?ボス」


「う、うるせえ!」


からかわれ怒鳴っているディーノさんだったが、その声とは裏腹に表情は期待で目を輝かせている。そして、恐る恐るお母さんのお腹に手を触れそっと撫でた。


「ふふっ、最初の綱吉みたい」


「男は皆そんなもんだよ」


「…ここに命があるんなんて、やっぱ不思議だな」


感慨深げに呟く彼の目はじっとお母さんのお腹を見ていた。何度も撫でるその手に、お母さんは微笑みを浮かべ、後ろで控えているロマーリオさんたちはまるで自分の息子を見るような目でディーノさんを見ていた。


本当に、ここの人たちはディーノさんが好きだと思う。アットホームな感じはボンゴレにはない。キャバッローネ特融のものだろう。


「ありがとう、麻衣」


気が済んだのか、そっと離れて行ったディーノさんの手にお母さんは微笑みで返した。


と、その時違う場所からいきなり怒鳴り声があがる。そっちを見てみると、そこにいたのは隼人と知らない派手な髪色をした人だった。


紫だ紫色。スーツを来てなかったら遠目に見て女の子じゃないかと思うほど長い髪は、頭のてっぺんで一部が結ばれている。つりあがった目は隼人を下から睨みあげていた。


「ありゃ、ジッリョネロのやつか?」


「そうですよ。隼人に突っかかっているのが野猿。その後ろで山本と談笑してるのが太猿」


その説明にならってたけ兄のほうを向くと、確かに隼人につっかかっている少年を苦笑しながら見守っている色黒のがたいのいい人がいた。


「元気だな」


「有り余りすぎてるよ…」


苦笑するお父さんは、喧嘩の仲裁をする気はないのか、肩をすくめるだけだった。


「止めなくていいのか?」


「ユニが来たら止まるからいいですよ」


「珍しいな。ユニが来るなんて」


「紫杏に会いたくて、らしいですよ」


「ハハッ、紫杏は人気者だな」


それなりに距離があるからか、隼人と野猿さんが何を話しているかよく聞き取れなくて、ただ、動くたびに揺れる長い紫色の髪を見ていた。まっすぐに睨みあげる彼の目は、何物にも屈しないそんな強い意志のようなものが宿っているかのようだ。


そんなことを考えながらぼーっとしていたところで、いきなりディーノさんに声を掛けられてびっくりして彼を見上げた。


ディーノさんはいつものように満面の笑みを浮かべると何か知らないが深くうなずいていた。


よくわからない話に首をかしげていると、こんな騒がしいホールに凜とした声が響き渡った。


「やめて野猿。迷惑をかけてはだめ」


そのどこかあどけなさを残している声音は、隼人と野猿さんの喧嘩に注目し囃し立て始めていた外野も一気に黙らせた。


一同の視線が向けられた先には、開け放たれたホールの扉。そこにいるのは白い大きな帽子をかぶり、これまた白いマントを羽織り、中にはへそ出しの紺色のベストに短パン姿。そこにいたのは、まだ“少女”だった。


もとの私と同じか、少し年下かぐらいに見える。


「姫、けどさあ」


「野猿。今日は喧嘩をするために来たわけではないでしょう」


「…ちぇ、わかったよ」


「獄寺さん。野猿が申し訳ありませんでした」


「あ?ああ、別に気にしちゃいねえよ。第一、いつものことだろ」


懐からとりだした煙草を口にくわえて火をつけながら器用に話す隼人に、そうですねと優しい笑を浮かべる彼女に、隼人はそっぽをむいた。


「姫。まずはボンゴレに挨拶を」


「γ。はい」


姫と呼ばれる彼女に歩み寄ったのは、地毛であろう金髪をオールバックに固めてスーツを着込み、難しい顔をした男の人だった。ガンマと呼ばれた彼は、彼女を前にするとその目尻が少し下がっている。


それは彼女も同じだった。


彼女たちが、お父さんの行っていたジッリョネロらしいということだけは分かった。


「ユニ!よく来てくれたね」


いつの間にか、私のそばにいたはずのおとうさんとお母さんは彼女の方に歩み寄っていた。彼女のことを呆然と見ていた私は、それに気づかず出遅れてしまいどうすればいいかわからなくなってしまった。


「沢田さん。誕生日おめでとうございます」


「ハハッ、ありがとう」


「麻衣さんも。お元気そうで安心しました」


「ありがとう。ユニちゃん。ユニちゃんこそ、最近あってなかったから元気そうでよかった」


私に背を向けているから、お母さんとお父さんがどんな表情をしているかわからないが、その口調からかなり親しいことがうかがえる。


「ユニちゃん!お久しぶりです!」


「ハルさん。はい!」


「京子ちゃんとも会いたいって話してたんですよー」


「京子さんもですか?私も会いたいです」


「じゃあ、今度女4人でショッピングに行きましょう!」


「だめだ。姫を護衛なしで出せるわけがないだろう」


「γ…」


「なんでですか!大丈夫ですよ!クロームちゃんにも来てもらいますから!」


「え…、私も?」


ハルさんとγさんの言い争いに引き出されたクロームさん。ここからじゃ見えないが、近くにいたらしく戸惑いがちな声が聞こえてきた。


「ふふ、ハルさんも相変わらず元気そうでよかったです」


花が咲き誇るような笑顔。


相手が不快にならないように、相手を気遣うような笑顔だと思った。とてもしなやかに、そして強かに。


私が一番最初に忘れた表情だった。


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あきゅろす。
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