軽快なミュージックが流れる中、パーティーはお父さんの挨拶を最初に始まった。 「今日は、私とリボーンの誕生日のために集まってくださりありがとうございます」 スポットライトを一心に浴び、ホールを見渡すお父さんのそばには、きれいに着飾り、お腹を大きくしたお母さんと、後ろの影になる部分に控えているハルさんがいる。 3人共の手にはグラスがもたれていて、水面がライトに反射されて揺れる度にきらきらと光っている。 「今日は、親しい同盟だけのパーティーです。無礼講ということで、存分に楽しんでください。それでは、」 そこれ一旦言葉を切ったお父さんは、その顔に微笑みを浮かべた。 「乾杯」 合図と共に、それぞれの手にあるグラスが掲げられる。そしてみなが一口飲んだところで拍手が訪れた。 スポットライトはすぐに消え、周りが明るさを取り戻すと、いっきに人のざわめきが広がる。 今日来ている客は、ディーノさん率いるキャバッローネファミリー、ジッリョネロファミリー、ほか5ほどのファミリーのボスおよび幹部が集っていた。 特に同伴者を連れてこなければいけないというようなことは言っていないらしいけど、やっぱりパーティーということもあり、途中ダンスもあるらしいからそれもあってパートナーを連れてきている人は多かった。 だからか、マフィアの人たちだけならそれなりに少ないが、同伴者を含めるとかなりの人数になる。 きらびやかな世界は、初めてではないが、以前より周りをみる余裕があった。前ははじめてのパーティーに加え、まだこの状況に慣れていなかったのもある。それに、イタリア語もわからなかったし。 交わされる会話に耳を傾ければ、大体は意味がわかるようになっている自分に、誇らしくなるのと同時に教えてくれたヴァリアーのみんなに感謝した。 乾杯の時のために持っていたジュースを一気に飲み干し、通りかかったボーイさんに差し出す。無言のままそれを綺麗な動作で受け取ってくれた彼は、違うグラスを差し出そうとしたが、それを首を振って拒否した。 今から、お父さんお母さんについてあいさつ回りをするのだ。同盟ファミリーに私のことは知れ渡っているらしいが、顔見せをしておく必要があるらしい。 守護者が集まる場所で、何かを話していたお父さんたちは、しばらくして隼人とハルさん以外を残して散らばった。 私もそっちに近寄る。 「紫杏」 お父さんに呼ばれ、お母さんと手をつないだ。お母さんを見上げると、ゆるりと微笑んでくれる。 私たちの後ろには右腕である隼人と、お母さんのためにハルさんがついていくことになっている。 「麻衣。気分が悪くなったらすぐに言うんだよ?」 「わかってるわ」 二人は顔を見合わせてうなずいた後、その表情から親しみを込めた笑みを消した。そして浮かんでくるのはボスの顔とその妻の顔。 お父さんはいつものやわらかい人を安心させるような笑みをひっこめ、どこまでも冷静な色を瞳にまとわせている。その口元には笑みが浮かんではいるが、冷たい笑顔だと思った。 お母さんは、ただ寄り添うように、微笑んでいる。そのお母さんの雰囲気がお父さんの冷たさを緩和させているようだった。 二人の雰囲気が、ぴったりとパズルのピースのように合わさり一枚の絵となる。 ゆっくりと歩き出したお父さんの手はお母さんの肩に周り、エスコートしている。 二人の雰囲気に、ホール内にいる女性という女性の熱を持った視線がお父さんに、男性の視線がお母さんへと集まるのを感じた。 「やあ、ボンゴレ]世(デーチモ)Buon Compleanno.」 そんな中、声をかけてきたのは、どこかふくよかな体つきをしている白髪交じりの男性だった。50代はいっているだろう彼は、大きな宝石のついた指輪をたくさんつけていた。 そんな彼の細い目が一瞬私に向けられた。 「ああ、アルフォンソさん。Grazie」 「奥方もお元気そうで何よりだ。この度はご懐妊おめでとうございます。新たな十一世が楽しみですな」 「ふふ、アルフォンソ様。まだ性別もわかっておりませんの。いくらか気が早すぎますわ」 「おや、性別など関係ありませんよ。ボンゴレの歴代のボスの中には女性もいたというではありませんか」 「それより、そちらの跡継ぎはどうですか?マフィア学校に通い始めたと聞きましたが」 話を変えたお父さんは、横目でお母さんを見たがお母さんは笑みを湛えたままだった。 「ええ、マフィア学校に通いなんとかやっているようですが…。いささかまだ遊び半分というところがぬぐえませんな」 「どこも似たようなものでしょう。その中でも成績優秀だと聞きます。次代にも期待が持てると耳に挟みました」 「]世に期待していただけるとは、ありがたいことです」 ハッハッハと声を上げて笑った男に、お父さんも微笑をこぼす。 「ところで、そちらの御嬢さんが噂の?」 「紫杏です」 お母さんに背中を押され、私はスカートを少し持ち上げて挨拶をした。その慣れないしぐさにぎこちなさは隠せないだろうが、終わった後、お母さんが頭を少し撫でてくれたから大丈夫だろう。 「お噂はかねがね。どこの素性とも知れぬ子らしいとか?」 「今はすでに僕たちの子ですよ。守護者も認めてくれています。何か、問題がありましたか?」 この話題になった途端、周りの声が潜められた。皆が、この会話に注目をしているのだ。さっきから、私に対しての視線もあるのはわかっていたが、こういうパーティーに子供がいるのは珍しいからだと思っていた。でもどうやら違ったらしい。 噂の真相を知りたがっているのだ。 ボンゴレ]世がどこのことも知れぬ捨て子を拾って養子にしたという。 アルフォンソの好奇心に満ち溢れた目が私をしげしげと眺める。その気持ち悪いと感じる視線に、お母さんんの手を握る手に力を込めた。 「ボンゴレのボスは、外から子をもらってくるのが趣味なようだね」 軽い冗談のような口調だったが、明らかに嘲笑が混じっていた。それに後ろの隼人がぐっと眉を寄せるのを見た。 彼が言ったのはティモッテオさんのこともだろう。ザンザスも同じように拾われたのだと聞いた。 「アルフォンソ様。血のつながりが家族のすべてではないでしょう?私はこの子を今お腹の中にいることなんら変わらないと思っていますわ。だから、どうぞこの子に何かあったときは、このお腹の子と同じようにアルフォンソ様のお力添えをいただきたいと思っております」 「あ、ああ、もちろんだとも」 お母さんの静かな物言いに、アルフォンソはどもりながらも首を縦に振った。その様子にお母さんは柔く微笑みを浮かべると、彼の頬に赤みが差した。 「A proposito, è shoptalk…」 突然イタリア語になったアルフォンソ。私をちらりと見てから、仕事の話だと切り出した彼は、どうやら私が日本人だからかイタリア語を理解していないと踏んだらしい。 「Inciviltà. Questo bambino capisce italiano. Io voglio che tu posticipi lo shoptalk.(失礼。この子はイタリア語も理解しています。仕事の話は後にしてもらえますか。」 アルフォンソが目を見開いて私を見てきた。私も何か言葉を言った方がいいのだろうか、と思ってお母さんを見上げると小さく首をふられたから、おとなしくしておくことにした。 「見たところ日本人のようだが?」 「はい。ですが、僕たちだって日本人ですよ。アルフォンソさん。この子がイタリア語を聞き取れていてもなんら不思議はないはずですよね?」 「しかし、難しい話などわからないだろう。ここで言っても…」 「なるべく仕事の話には巻き込みたくないんです。それに、この子は頭がよくて…。無駄に心配をかけさせたくありませんから。あとで僕の方から伺います」 「随分大切にされているのですな」 「貴方だって、自分の子は大切にされていますよね?」 「!!」 目を見開くアルフォンソが私とお父さんを交互に見ている。その目が、得たいのしれない子供を本当の子供と同じに扱うのかとでも語っているようだった。 やっぱり、もらわれっ子はどうしても受け入れてはもらえないらしい。ザンザスさんもこんなことを言われていたのだろうか。なんだかとてもザンザスさんに会いたくなってきた。 「綱吉、少し気分が悪いわ」 その微妙な沈黙をやぶったのはお母さんだった。すぐに反応したお父さんがお母さんの顔をのぞき込む。 「ハル」 「はい」 「麻衣を休憩室へ。隼人は山本に連絡して」 「もう、伝えておきました」 「麻衣、ゆっくり休んでおいで」 「ええ。紫杏ちゃん、行きましょう?アルフォンソ様。失礼いたします」 お母さんはきれいにお辞儀をすると、私の手を引いて歩き出した。その顔にはもう笑みは浮かんでいない。 ホールを出るときにちょうどたけ兄と合流し、そのままホールを出た。 |