あまーいあまーい贈り物

ヴァリアーの屋敷は以前お父さんに連れてこられたときよりも、どこかうっそうとした感じが消えている気がした。といっても、見た目的にも大して変わりはないのだから、きっと気の持ちようってことなんだと思う。


前にここに来たときは、お父さんに捨てられたんだという思いがあったから。


そう考えると、今はまったく違う状況と感情で来ているから不思議だ。


カバンの中にはザンザスさんのためにつくったラッピングされたチョコが入ってる。果たしてこれをザンザスさんが食べてくれるのかどうかは微妙だけど、久しぶりに会えるのは結構楽しみ。


欲を言えば、せっかくお母さんとハルさんに協力して作ってもらったんだし、食べてもらいたい。


「紫杏、このままボスのとこ行くから」


え、いきなりラスボスですか?


ベルの有無を言わさない言葉に、思わず絶句した。誕生日パーティーなんだから、てっきり談話室とかでやるんだと思ってたけど違うのかな?


しかし、それ以上何の説明もなく、ベルは廊下をどんどん進んでいく。相変わらずベルに荷物のごとく抱えられている私は、ベルの歩く振動にちょっと気持ち悪くなりながら、壁にかかっている絵画を眺めた。


「とうちゃーく」


ようやくついたらしいそこは、やっぱり重厚感を感じさせる。扉の奥に何かがいると感じさせる威圧感のようなものまである。


「ボス、入るよ」


ノックもなしに、それだけ断ると扉を開くベル。これがベルじゃなくスクなら間違いなくグラスか何かが飛んできているだろう。ザンザスさんにとってスクをいじめるのはきっと趣味のようなものなんだと思う。スクをいじめてる時、珍しくいい顔をしているから。


中に入ると、大きな執務机に備え付けられている、ふかふかそうな椅子に腰かけ、その長い脚を机の上に投げ出しながら書類を見ているザンザスさんがいた。誕生日にまで仕事なんてやっぱり大変なんだ。


書類からちらっと視線を投げてよこしたザンザスさんと目があった気がした。しかし、すぐに書類へと戻る赤い瞳。


とりあえず、機嫌は悪くないらしく、今のところ命の危機にはならなさそうだ。


「ししし、ボス。俺からの誕生日プレゼント」


そう言って、私の脇の下に手をさしいれ、前に突き出したベル。


「Buon Compleanno」


それだけ言うと、いい逃げをするかのように私をその場にほおりだして身をひるがえしていったベル。


あっけにとられながらベルが出て行った扉を見ていると、ギシというきしむ音が聞こえ我に返った。


そのきしむ音はザンザスさんが椅子から立ち上がった音だったらしい。今の私の3倍以上はあるんじゃないかと思われるザンザスさんは立ち上がったら、圧巻だ。


無言のまま立ち上がったザンザスさんは、そのままソファーへと移動してそこに腰を下ろした。


私も、そっとザンザスさんの方へ行き、彼の隣へと行く。こちらをいっさい見ないけど、気づいていてなお何も言わないということは、それは彼なりのOKサインなのだとヴァリアーにいる期間で学んだ。


許可が下りたところでザンザスさんの座るソファーの空いているスペースに腰を下ろす。座ってもやっぱり高い位置にあるザンザスさん。その瞳は今は閉じられていた。


「また捨てられたか」


何の合図もなしに発せられた言葉に、面食らう。というか、またとかいわないでほしい。縁起でもない。


首を横に振れば、それを横目に見たザンザスさんが鼻で笑う。


[べるにらちられた]


「………めんどくせえ」


何が?


今書いた言葉のどこにめんどくささを感じたのか。首を傾げる。じっと今自分が書いた文字をみつめて考える。


そこで、あることを思い出した。


相変わらず言葉が足りないと思う。


[Io fui rapito da Bel(ベルに拉致されました)]


イタリア語で書き直してみると、それをみたザンザスさんが再び鼻で笑う。でも、どうやらあっていたらしい。


相変わらずというかなんというか。会話に主語ぐらいつけるべきだと思う。といっても、ザンザスさんがおしゃべりとか想像できないけどね。


というか、ベルもベルだ。なんで私が誕生日プレゼントになるんだろう。ザンザスさんだって私が来たってうれしくもないだろうに。


でも、まあいいか。


ザンザスさんのこの沈黙は気まずくない。むしろとても居心地がよかったりする。


ふかふかのソファーに腰掛け、少し離れた隣に座っている王様のような彼を見上げる。相変わらず何を考えているのかわからないし、その顔は子供が見たら泣き出してしまうほど怖いものだけど、眉間に寄せられているしわはどこか薄らいで見えた。


[Buon Compleanno]


ここに来た当初の目的の言葉を書く。


目をつむっているザンザスさんの袖を引くと、彼は片目だけ開けて私を見下ろした。


書いた言葉とともに持ってきたブランデーチョコを差し出せば、しばし沈黙。


何の反応もしないザンザスさんに首を傾げれば、彼の視線は私の持つラッピングされた袋だった。


[Questo è presente di compleanno.(誕生日プレゼントです)]


それでも受け取ろうとしないザンザスさんに、もう一度差し出すと、ゆっくりと、まるで恐れているかのように慎重にそれを受け取る彼に思わず目が点になる。


表情とかはそのままなのに、その手つきだけ初めて見る異様なものを触るかのように伸ばされていてびっくりしたのだ。


[Per favore mangia.(食べてください)]


彼の掌に収まるそのふくろをしげしげと見つめるザンザスさんに、開けるように促す。


「…食い物か」


[brandy chocolate]


「……てめえが作ったのか」


[Io avevo madri aiutarlo.(お母さんたちに手伝ってもらいました)]


「…麻衣、か」


あれ、ザンザスさんってお母さんのこと名前で呼んでるんだ。そのことにちょっとびっくりしながら、お父さんのときのように嫌悪感を持って呼ばれたわけじゃないから、どうやらお母さんはザンザスさんに気に入られているらしいことがわかる。


包みを開けたザンザスさんが指でトリュフをつまんだ。


彼が持つと高級そうに見えるのはなぜか…。


ゆっくりと口に運ぶザンザスさん。それをドキドキしながら見つめる。リボーンはおいしいといってくれたけど、やっぱり緊張する。


「……甘い」


それだけいうと、ザンザスさんはその袋をそのままコートのポケットにしまってしまった。やっぱり口に合わなかったようだ。


「う゛お゛おぉい!ボスさんよぉ!晩飯の時間だぜえ!」


ものすごい音とともに開かれた扉と、遠慮なんて知らないだろう声量とともに入り込んできた銀髪の彼に相変わらずだ、と嘆息する。そして、そんな彼に向かって灰皿が投げられた。これもまた相変わらずだったリする。


「いってええっ!何しやがるクソボス!俺は呼びにきてやっただけだろうがあ!」


その声量が問題だと思う。あとノックはするべきだ。それか一言声をかけるとか。あのベルでさえ一声かけてから入ったというのに。


「って、紫杏じゃねえかあ!お前、なんでこんなところに居やがるんだあ?」


「うっせえ」


[Io sono dopo un'assenza lunga.(久しぶり)」


「まさか、ボスが攫ってきたのかあ!?」


そう言った瞬間、今度はザンザスさんの懐から銃が取り出されその標準がスクにむけられた。


「ちょ、まてえ!いくらなんでもそれはさすがに死ぬぞお!」


灰皿が頭に当たっても普通じゃいられないと思う。


「死ね」


その言葉とともに脱兎のごとく部屋から出ていくスク。さすがの彼でもザンザスさんにはかなわないらしい。まあ、当たり前か。


「…紫杏」


久しぶりに、しかもこのタイミングで呼ばれた名前にびっくりして立ち上がっているザンザスさんを見上げる。


「次は甘くないものをつくれ」


来年も、祝わせてくれるらしい。ザンザスさんは私を一瞥すると、肩にかけているコートを翻し、部屋から出て行こうとする。


また次があるということにびっくりして固まっていた私はあわててザンザスさんへと駆け寄った。








そのあとのザンザスさんの誕生日パーティーというなの晩餐会は毎度のごとく物が飛び交うし、罵声が飛び交うしで大変だった。でも、その久しぶりの空気はとても楽しく感じた。


そして、皆から誕生日プレゼントを受け取ったザンザスさんはそのほとんどを壊してしまうという所業を働いた。とりあえず気に入らなかったらしい。


受け取ってくれたのは、ベルの私と、私のチョコと、ルッスの料理だけだった。そう考えたら、捨てられたりしなかった私のプレゼントは気に入ってくれた方に入るんだと思う。


なにはともあれ、ザンザスさん。


Buon Compleanno!!




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