遊園地以上のスリルです。

ヴァリアー専用にした着信音が鳴った。ケータイを取り出してみてみると、フランからメールが一件。




『今、堕王子がそっちにいったんでー、気を付けてくださいねー』




読み終わる直後、談話室の窓が大きな音を立てて割れた。


「ししし、紫杏迎えに来てやったぜ」


そう言って笑うのはご存じのとおりフランいわく自称王子の堕王子、ベルだ。


時刻は現在2時ちょっと前。さっき昼ご飯を食べ終わったばかりだったりする。約束の時間は3時だったはずだ。というか、迎えにくるなんて聞いてない。そして何より、フラン。メールするのが遅いと思う。それとも、ベルの来る時のスピードが速すぎるのか。


「おお!お前はヴァリアーの!極限何しにきたのだ?」


そう、今日は珍しく了兄がいたのだ。彼の姿を認めた瞬間、ベルの今まで上がっていた口角が明らかに下がった。


というか、誰も窓が割れたことには突っ込まないの?


けたたましくなる警報ベルを総無視して進められていく会話に、どこまでもマイペースな人たちだと呆れを通り越して感心する。


「げっ、なんでいんだよ。めんどくせー」


「めんどくさいとはなんだ!」


「その熱気がめんどくせえんだよ」


「ハハハッ、まあまあ。先輩もお前も落ち着けって。遊びに来たんだろ?」


たけ兄が了兄をなだめつつ、ベルに問いかける。その表情は冗談を言っている風ではなくて、そんなたけ兄にベルの闘気は削がれたみたいだった。


「天然も健在かよ。やっぱアホガエルにこさせりゃよかったか?」


[Era una riunione a 3:00?(3時に集合だったよね?)]


「Perché un principe era tenero, io venni ad andarti a prendere.(王子は優しいから迎えにきてやったんだよ)]


イタリア語で質問すると、ベルもイタリア語で返してきた。ボンゴレのみんなはたいていが日本語だから、イタリア語で話すのは久しぶりだったりする。


「むっ、いきなりイタリア語でしゃべるな。何を言ってるかわからんではないか」


「何年イタリアにいんだよ。いい加減覚えれば?つーか、こんなのも覚えられねえなんて馬鹿じゃねえの?」


「俺は日本語以外しゃべれん!」


漫画なら背景にドーンという効果音がついていただろうと思うほど堂々といってのけた了兄。それにたけ兄が爆笑して、ベルはあほらしいといって溜息をついた。


私は、どうやらこのまま連れて行かれるらしいということを察してキッチンにおいてあるザンザスさんへのプレゼントを鞄の中に入れる。


「ハア、もういいや。あいつ連れてくから。ツナヨシとマイに言っといて」


「連れてくってどこにいくんだ?」


「ヴァリアーに決まってんじゃん」


「そんなことしたら、小僧が怒るんじゃね?」


「もともとこっち来る予定があったんだから、関係ねえって。んじゃ、そういうことで」


私を抱きかかえたところでベルの携帯がなった。ディスプレイを見て、顔をしかめるベル。といっても、顔は半分しか見えてないんだけど。


「オカマ、何?」


『んもぅ!ベルちゃんおそいじゃないの!どこで道草くってるのよお!』


「うっせえ、オカマ。今紫杏連れ出すとこだから」


『あらん?そうなの?』


「山本、お兄さん!」


「お!ツナに小僧じゃねえか!」


「おい、何のマネだ」


「げっ、面倒な奴が来ちゃったじゃん」


『あらあら。ベルちゃんまた何かやらかしたの?』


「うっせえ。こっち、今取り込み中」


それだけ言うとベルは電話を切ってしまった。お父さんは、中の様子を把握して、最後に割れた窓を見ると深くため息をついた。


「で、ベル。いったい窓割って侵入してくるなんて、減俸くらいたいの?」


「それは勘弁。ボスに知られたらめんどくせえじゃん。ししし、今日はお前らに用じゃねえの。紫杏を迎えに来てやったんだから」


「こっちが送るから必要ねえだろ」


「それだったら、必要ねえ奴がついてくるかもしれねえからってスク先輩が言ってたぜ」


「チッ」


その舌打ちに、本当についてくる気だったのかもしれないと思った。そんなことになったら、ザンザスさんはかなり怒るだろう。


「ってことで、紫杏もらってくから」


その言葉が終わらないうちに私のおなかに腕が回され持ち上げられた。小脇に抱えられた状態に、じたばた暴れてみると、落とされてえの?と言われおとなしくする。


さすがに落とされたら痛い。


「あ、ガラス代はスク先輩宛でよろしく」


それだけ言うと、ベルはなんのためらいもなく割って入ってきた窓から飛び降りた。


ついでに言っておく。


談話室は2階だ。


なんともいえないジェットコースターに乗った時のような浮遊感に必死でベルにしがみついた。それを心底楽しそうに見ているベルは、絶対にわざとだとおもう。


そのあとも、車とかより屋根伝ったほうが早いとか何とかで、私はベルに抱えられたまま忍者のごとく屋根をつかって移動していったのだった。


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あきゅろす。
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