エプロンをしっかりつけ、私とお母さん、ハルさんは台所に立った。 目の前にはすでに揃えられたブランデーチョコに使う材料と、計量カップや量りなどの道具。 形はトリュフにするようだ。作り方を聞くと、思ったよりも簡単そうだった。 とりあえず、私でもできそうな感じ。 あげる人なんていないから、バレンタインデーでもチョコをつくったことなんてなかった。だから、とても楽しみだったりする。 「ではまず、チョコを刻みます!」 なぜか伊達眼鏡をつけたハルさんが、いつのまにか用意され作り方を書き込まれたホワイトボードを教師のように棒で指す。 その様子をお母さんは面白そうに見ながら、言われた通りチョコを用意して刻んでいく。 「次に生クリームです!」 生クリームを煮立て、火を止めてからミルクチョコレートを加え泡立て器でそっと混ぜながら余熱で溶かす。 煮立てるのはお母さんがしてくれた。泡だて器は結構難しくて、ちょっと離してしまうと遠心力でチョコが飛んでしまって大変だった。 それからも、ハルさんの指示に従いお母さんとともにチョコを作っていく。 お母さんとハルさんがおしゃべりをしながら作業しているからか、気づけば結構な時間がたっていた。 「麻衣ちゃん、もう赤ちゃんの名前は決まってるんですか?」 「ふふ、まだなの。綱吉といろいろ候補は話し合ってるんだけどね?」 絞り袋にいれたブランデー入りチョコをオーブンペーパーを敷いた鉄板の上に丸くなるようにして絞り出す。 これがまた結構難しい。どうしても形が崩れちゃうけど、ご愛嬌ってことにしてもらおう。ザンザスさんならきっと形なんてこだわらないはず!! 「ハル、すごく楽しみなんです!ぜひお世話させてくださいね!」 「ありがとう」 絞り終わりの尖った部分を指で軽く押しつぶしてから、巨大な冷蔵庫の中にいれる。ガナッシュの出来上がり。 「固まるまでしばらく待つです。次の作業に移りますよ!」 次はチョコの湯せん。 「こうやってチョコをつくっていると学生時代を思い出しますねー」 「ふふ、そうね。そういえばみんなで作ったよね」 「はいっ!毎年ビアンキさんが教えてくださって楽しかったですよね!」 「ふふっ、まあ、隼人君は毎年大変そうだったけどね」 「未だにビアンキさんが獄寺さんのお姉さんだなんて信じられません!」 鼻息荒く、言い切るハルさん。ビアンキさんという人は隼人のお姉さんらしい。今度隼人に聞いてみようと決めて、作業を進めていく。 さっき冷蔵庫にいれたガナッシュを取り出すとちゃんと固まっていた。それを今しがた溶かしたチョコに絡めていく。 「さて、もう一度冷やしますよ」 絡め終わったものをもう一度冷蔵庫へ。 部屋の中は甘ったるい匂いが充満していた。 固まるのを待つ間、つかった道具を片づけていく。その間はお母さんは椅子に座ってもらった。 大きなおなかを抱えてずっと立っているのはやっぱりつらいらしい。 つかったものをどんどん洗っていく私とハルさん。 私は、椅子の上に立ってやっとだ。ハルさんが食器類を洗い、私が拭いていくという流れ作業でどんどんやっていく。 すべて洗い終わった後、もう固まりましたかね?と言いながら冷蔵庫をあけるハルさん。 「どう?」 「わぁっ!いい感じですよ!成功です!これで、きっとあの人も射抜けますね!」 ザンザスさんを射抜くなんて恐れ多い。 ハルさんの言葉に、そう心で思いながら、取り出されたトリュフをのぞき見た。 見た目はちゃんとしたトリュフでおいしそうだ。 最後に、余らせたチョコをコーティングさせ、上にココアをまぶして出来上がり。 完成したことを喜び合っていると、キッチンにリボーンが入ってきた。 「どうだ?」 「リボーン君。今できたところよ」 「そうなんですよ!紫杏ちゃんも頑張ったんですよね!」 「ハル。ここにチョコついてるぞ」 そういって自分の頬を指さすリボーンに、はひっ!と驚きの声を上げ、鏡を見てきますといってキッチンから出て行った。 「リボーン君、味見してみない?」 「してやってもいいぞ」 「またそんなこと言って」 呆れたようなお母さんに、リボーンは口端をあげるだけで答えた。 「紫杏、ひとつくれ」 リボーンに言われて鉄板の上から一つとり、リボーンに差し出す。それをリボーンがうけとるのかと思ったら、なぜかトリュフを素通りして私の手首がつかまれた。 リボーンの行動に首をかしげていると、リボーンはそのまま顔を近づけてきた。 近くなっていくリボーンの整った顔に、思わず見惚れる。くるんと渦を巻いているもみあげはリボーンのチャームポイントらしい。でも、それなりに気になるのか、考え事をしているときとかに触っているところをたまに見る。 ふと視線をもみあげからずらすとリボーンと目がっあった。黒曜石のような真っ黒な瞳はとてもきれいだ。切れ長の瞳は鋭いはずなのに、とても優しい色をまとっている。 そのまま顔をちかづけてきたリボーンは私の手から直接トリュフを食べた。 「ん、うまいぞ」 「本当?よかった」 リボーンの感想にお母さんは安心したように笑う。 「紫杏、俺の誕生日にも何か作れ。いいな?」 「ふふっ、紫杏ちゃんは大変ね」 リボーンのとった行動に呆けている間に、なぜかまたつくることになったらしい。 「楽しみにしてるぞ」 最後に、リボーンは私の頭を撫でて部屋を出て行った。 「ふふ、本当に何しに来たんだか」 お母さんの方を見ると、リボーンが出て行った扉を見つめてぽつりとつぶやいた。その口元は楽しそうに緩められている。 「紫杏ちゃんもリボーンが相手じゃ大変ね」 くすくすと笑うお母さんに首をかしげると、まだ早いかとまた笑われた。 そのあと、帰ってきたハルさんとともにラッピングをした。 ザンザスさんがこれで満足してくれるとは到底思えないけど、とりあえず、怒られなければいいな。 |