トゥルルとそれは王様の

それは突然の電話だった。


ボンゴレ本部に帰ってきてから、あまり鳴らなくなった私の携帯が、珍しく音を奏でた。


たまに、ベルやマーモン、フランからメールや写メが来るが、それも月に1、2度あるかないかだった。


誰だろうとおもって開いてみれば、そこにはベルの名前。しかも、鳴り続けていて、それが電話だとわかる。というか、電話されても私話せないんだけど。


そう思いながらも、このまま電話をとらなかったら次あったときに何を言われるかわからなかったため、受話ボタンを押した。


『お、やっと出た。おせえっての。王子待たせるとか殺されてえの?』


耳元で聞こえる言葉はとても物騒なのに、ベル自身はそこまで不機嫌じゃないらしくその声音はどこか楽しげだった。


『あ、先輩が電話してるなんてめっずらしー』


『うっせえ!カエル!黙ってろって』


『わーわーわー!』


黙ってろといわれたからか、騒ぎ始めるフランに、ざくっという鈍い音が聞こえてきた。たぶんベルがフランにナイフを投げたのだろう。痛いでーすというフランの消えそうな言葉が聞こえた。


『黙ってろって。今紫杏と話してんだから』


『紫杏って…。声でないじゃないですかー。それなのに電話とか。あ、ついに頭いかれましたー?』


『誰もいかれてねえっつーの。だから、あれだよ。明後日!』


『明後日?』


『おっまえ、忘れたの?ししし、ボスの誕生日だよ』


『あー、そういえばそんな話出ましたねー。オカマがなんかパーティーしようとか張り切ってましたよねー』


『そ。で、紫杏にそのオサソイ。紫杏、ボスの誕生日祝うだろ?』


それは、疑問形であるはずなのに、電話越しなせいで否定も肯定もできない状態。つまり強制的に祝えといわれているのと同じだった。


『だから、明後日こっちに来いよ。来なくても攫いに行くから』


『うーわー、幼児誘拐とか、ついにレヴィ先輩の仲間入りですかー?』


『誰がっ!』


再び鳴り響いた鈍い音にまたフランのカエルのかぶりものにナイフが突き刺さったのだろう。あのカエルもご愁傷様としか言いようがない。


というか、攫いに行くから、とか。本当にそれ犯罪だから。あ、マフィアの暗殺してる時点ですでに犯罪者か?


『んじゃ、明後日の3時、おやつの時間な。絶対にプレゼント持って来いよ。じゃねえと殺されるかもしれねえぜ?』


そして一方的に切れた電話。むなしく耳元でなる電子音に、しばらく現実を受け止められず立ち尽くしていた。


最後、かなり物騒な言葉をのこしていったよね、ベル。


しかも、こっちの予定も何もかも聞くことなく。というか、ヴァリアーまでどうやって行こう。それよりお父さんたちに知らせに行かなきゃ。


その考えに思い至って、私は未だにプープーという電子音を鳴らしている携帯を切ると、電話のために放り投げていたスケッチブックとペンを肩掛け鞄につっこんで部屋を出た。


向かう先は談話室。さっきまで夜ご飯を食べていたからもしかしたらまだ談話室にいるかもしれないと思ったのだ。


夕飯後は結構みんなくつろぎタイムに入る。お父さんとかはそこで1時間ほど休憩してから執務室に戻るのがパターンだ。任務がなく雑務だけのときは皆たいていそんな感じ。


私は、ご飯を食べた後お風呂に入るパターンが多いからあまりみんなと一緒にいることはない。


で、さっきもお風呂に入りに行こうと準備していたんだけど、ベルの話を優先しよう。じゃないとあとで怖い気がする。


談話室の扉を開けると、中にはお父さん、お母さん、リボーンに隼人、あとハルさんがいた。隼人は珍しく眼鏡をかけている。


「紫杏、どうしたんだ?」


いちはやく気付いてくれたリボーンが近づいて抱き上げてくれた。そのままソファーの方に行き、私を膝に乗せて座る。


「あれ?お風呂に入りに行ったんじゃないの?」


お母さんに問いかけられ、私はカバンからスケッチブックを取り出した。


[さっき、べるからでんわきた]


「ベル?ってヴァリアーのベルフェゴール?」


お父さんが眉をしかめた。それにうなずきながら、ページをめくる。


[あさって、ざんざすさんのたんじょうびだから3じにいわいにこいって]


「…あいつがそういったのか?」


リボーンに横から顔を覗き込まれ、うなずく。レオンがリボーンの頭から私の頭に移った。


[たんじょうびぷれぜんともってこいって]


「そういえば、ザンザスさんって10月10日だったね。誕生日」


「はひ?ザンザスさんってあのこわーい方ですよね?こーんな」


そう言って目を吊り上げさせるハルさんに、お母さんは笑みをこぼす。


「日本に行ってた時、紫杏ちゃんを預かっていてもらったの」


「紫杏ちゃん、よくあんなところ行けますね…」


「10代目。あいつらに行かせねえって連絡いれましょうか?」


隼人の言葉に、綱吉は逡巡した後私の方を見た。


「紫杏はどうしたい?たぶん、こっちが拒否しても紫杏に一方的に言ってきたなら、多少の強行手段に出ても連れてかれるんじゃないかと思うんだよね」


苦笑しながら言うお父さんに、正解です。と小さくうなずいた。攫うとか言ってる時点で、どうあがいても来させる気なんだろう。私がいっても邪魔なだけなんじゃないかと思うんだけど。


「ザンザス、結構紫杏のこと気に入ってるみたいだったしな」


神妙な顔をしてうなずくリボーンに首をかしげる。お父さんはそれに同意するように深くうなずいていた。


「あのザンザスがですか!?」


「そう、“あのザンザスが”なんだよ。紫杏の頭を撫でるぐらい」


苦笑をこぼすお父さんに、だからかと何かを納得したらしい隼人。意味が分からず首をかしげていると、リボーンに頭を撫でられた。


「紫杏が行きてえなら行って来ればいいと思うぞ。あいつらも殺したりはしねえだろうしな」


「でも、ザンザスがまさか誕生日パーティー開くなんて思わなかったなー」


「どうせルッスーリアあたりが勝手に張り切ってるんだと思うぞ」


またもやご名答。ベルの話だと、ルッスがパーティーするんだって意気込んでいたらしいしね。


「ザンザスの野郎に気に入られてるってことは、あいつら紫杏を盾にするつもりなんじゃないっすかね?」


え、盾ってなに?私最弱だと思うんだけど。


「ザンザスならパーティーとかくだらないとか言いそうじゃないっすか。だから、引き留めるためと、怒らせた時の保険、みたいな感じじゃないっすか?」


「何にしても、紫杏ちゃんにとっては大変そうね」


くすくすと笑うお母さんに、笑いごとじゃないと思うと言いたかった。


[たんじょうびぷれぜんと…。どうしよう?]


金持ちだろうから、何かってもくだらないとかで終わっちゃいそうなんだよね。いっそなにか作ろうか?手作り感満載の子供っぽい奴。それか、絵、とか?


ザンザスさんが絵を持ってる姿が思い浮かばない。ということで却下。


「じゃあ、こうしましょうよ!ケーキ、つくらない?」


いいことおもいついたといわんばかりの満面の笑みを向けられる。確かに、誕生日といえばケーキ、ケーキと言えばお祝い事みたいな感じではあるが、相手はザンザスさんなのだ。


彼がケーキを食べてる姿はやっぱり想像できなかった。それは他のみんなもそうだったのか、その顔に苦笑を浮かべている。


「麻衣、ケーキはちょっと…」


「えー、いい案だと思ったのに」


「ザンザスにケーキはないよ」


「ザンザスさんだってケーキぐらい食べるって」


もう一度想像してみるけど、やっぱり彼が甘いものを食べているところが想像できない。


「うーん、じゃあ、ブランデーチョコとかはいいんじゃない?お酒なら、ザンザスさんも食べてくれるかもしれないでしょう?」


「…まるでバレンタインだな」


「まあ、それなら…、いいんじゃない?」


「じゃあ、紫杏ちゃん!明日一緒に作ろうね!」


どうやらブランデーチョコに決まったらしい。お酒味のチョコ、それなら確かにザンザスさんも食べてくれるだろう、と思いたい。うん。まあプレゼントは気持ちが大事だよね!と開き直ってみる。


「誕生日といえば、10代目とリボーンさんの合同パーティーももうすぐですよね」


「ああ、そういえばそうだな」


「うわー、もうそうんな時期か」


[ごうどう?]


「俺とリボーン、誕生日が一日違いなんだよ。10月13日がリボーンで、14日が俺。何年か前から、合同にして祝おうってことになったんだ」


「俺は不満だけどな」


「我儘いうなって」


[いつやるの?]


「20日だよ。ここでパーティーを開くんだ。同盟ファミリーでも親しくしているところが来る」


[でぃーのさん?]


「そうそう。キャバッローネも来るしね」


「なら、準備も忙しくなりますねー」


「ハル、お前にも働いてもらうからな。俺のために」


「はひっ!は、ハル、リボーンちゃんを喜ばせられるように頑張ります!」


「てめえが張り切ったらロクなこと起こらねえだろ」


「なっ!酷いですよ!獄寺さん!!」


「今までいったいどれだけ十代目に迷惑かけてきたと思ってんだ!」


机をたたき勢いよく立ち上がったハルさんに対し、同じように立ち上がった隼人。そして二人の言い合いが始まる中、お母さんは二人を眺め楽しそうに笑っているし、お父さんはさてそろそろ仕事に行こうかなと立ち上がった。


「紫杏も風呂に入るんだろ。行くぞ」


[あのふたりは?]


「ああ。ほっとけ」


未だに言い争いをしている二人に視線をやることなく言い放ったリボーンは私を抱き上げたあと、そのままお母さんにだけ声をかけて部屋を出た。


そのあと、お父さんが執務室に戻るために立ち上がるという行動だけで二人の言い争いに終止符が打たれるというのはあとからリボーンに聞いたこと。


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