定番的、アトラクション

戻ってしまった壁には目立ったスイッチとかはない。時間差で自動で戻るようになっているらしい。さて、いま気づいたことだけど、どうやらスケッチブックを向こうに置いてきてしまったみたいだ。こんな仕掛けがあるなんて思わなかったし、箪笥に入るときに外に置いてきたんだけど、今となっては後悔しかない。


「さて、どうすっかな。もしこのまま出られなかったら俺ツナに怒られるな」


にこやかに言うが、笑って言うことじゃないだろう。というか、この状況で笑えるたけ兄はやっぱりすごいと思う。


「んー、お!いいことおもいついた!」


何かを思いついたらしいたけ兄は、一度私を下ろすと一つの匣を取り出し、開匣した。


そして中から出てきたのは、大きな犬、次郎だった。


次郎が匣から飛び出た瞬間、私と目があったかと思うと、まるでとびかかるように私のほうに駆け寄ってきた。それにびっくりして思わずたけ兄の足にしがみつくと、笑いながら次郎を受け止めてくれた。


わしゃわしゃと次郎の体を撫でてやるたけ兄に、次郎は最大限の愛情表現とばかりにたけ兄の顔をなめまわしている。


気が済んだのか、たけ兄が立ち上がったのはそれから5分ぐらいたってからのこと。


「よし!次郎。こっからどっかにつながる道があるはずだから、探してくれるか?ここほれわんわんってな」


答えるように吠える次郎に満足したたけ兄は、私を抱きかかえた。というか、ここほれわんわんって…。


「紫杏はしばらくここな?」


また何があるかわからないからだというたけ兄に抱えられて数分。壁際の匂いを嗅いでいた次郎は、ある一点の壁に向かって吠え始めた。


「お!見つかったみてえだな」


本当に見つけられるんだ。私が犬のすごさを実感した瞬間だった。


次郎に近づくと、しきりに壁をひっかいている。


「見た目、普通の壁なのな」


たけ兄もその壁に近づき触ってみるけど、確かに見た感じはただの壁だった。


私もぺたぺたと壁を触ってみる。でも、普通のコンクリートの壁で、掌に伝わってくるのは冷たさばかり。何があるんだろう、と思っていると、私の目の高さぐらいに凹みをみつけた。ひし形を縦長にしたかのようなそのへこみをじっとみつめる。指を入れてみるけど、小指が少し入るぐらいだった。たぶんたけ兄の指じゃ入らないだろう。


改めて子供の手って、小さいと思う。


「んー??本当にここか?」


次郎は肯定するように吠えて見せる。


私はもう一度あたりを見回した。


殺風景な部屋の中には最初に飛んできた矢が2本だけある。


その矢をじっとみつめていると、あることを思い出した。もう一度さっきみつけた凹みに目をやる。


たけ兄を引っ張って矢を指さした。たけ兄は頭上に疑問符を浮かべるけど、彼によって切られたほうの矢を拾ってくれる。


「これがどうかしたのか?」


私は、矢尻のほうみ目をやる。昔のそれのように黒光りする鉄がつけられているそれ。


「紫杏?」


私はそれをさっきみつけた凹みにつっこんだ。ぴったりはまったそれにたけ兄が驚きの声を上げる。ぐいっと力いっぱい押すと、ゆっくりと奥へと入ってく矢尻。


最後はたけ兄が押し込んでくれた。


すると、突然何かが外れたかのような音が響いたと思えば、目の前の壁がシャッターのように天井へと引っ込んでいった。


これには私もたけにいもびっくりして固まっていた。次郎だけはしきりに吠えたてている。


完全に開ききった壁の向こうには新たな部屋、かと思いきやどこまでも続いていそうな道があった。


「…ハハッ、遊園地のアトラクションみたいなのな!」


たけ兄ののんきな言葉が反響していく。どこまでも続く道の先は暗くてよく見えない。


「ま、いってみっか!次郎、頼むぜ?」


ようやく落ち着いたらしい次郎の頭を撫でると、次郎は道案内をするように通路へと入って行った。


「紫杏、しっかりつかまってろよ」


しっかり私がうなずいたのを確認して、先へと足を踏み出した。


もう、それからは大変だった。


通路を進んだ先には階段があり、それをたけ兄がどんどん上っていくと、途中で次郎が吠えた。なにかと身構えると、ものすごい地響きとともに前方からある意味定番のごとく巨大な石の球が転がってきたのだ。


慌てて階段を駆け下りるも、当たり前のように球の方が早く、追いつかれそうというときに横道を見つけ間一髪。


上った階段のほとんどを駆け下りたことに、顔を見合わせて溜息をついた。


たけ兄は、映画に入り込んだみたいだと笑っていた。


それからまた上り、今度は何の弊害もなく上りきれたというのに次の扉をくぐった先はなぜか迷路。大きな壁が立ちはだかる中、次郎の活躍でなんとかゴール。


そして次の部屋は幻術が仕掛けられていた。敵が出てきて、それをたけにいがばったばったと切り倒していく。私にまで襲い掛かってきて、必死にたけ兄にしがみついていた。幻術だとわかったのは、切った敵が次々に消えていくから。


そこをなんとか抜けた次の部屋は、パズルだった。大きな12個の正方形に分類された絵。12マスのうち、ひとつだけ空の場所があり、そこをうまく使ってブロックをスライドさせて絵を完成させるというもの。これは、私が頑張った。


最後にできあがった大きな絵はボンゴレの初代の顔だったらしい。たけ兄が言っていた。本当にお父さんそっくりで、びっくりした。お父さんの戦闘モードのときだ。でも、彼はお父さんとは違って眉間に皺をよせず涼しげな顔をしていた。


このころになると、もう自分たちが屋敷のどの辺にいるのかわからなかった。それにしても、この屋敷どんな構造してるんだろう、って考え出したとき、今までとは種類の全く違う部屋に行きついた。


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あきゅろす。
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